中国の衛星破壊実験は、人類の宇宙進出を不可能にする

中国が高度約850kmにあった自国の古い気象衛星を、地上から発射した弾道ミサイルで破壊する実験に成功したという。これは、敵国の偵察衛星通信衛星などを攻撃する技術力の実証試験であると考えられるが、気になるのは今回の実験が撒き散らしたスペースデブリ (space debris)だ。

今回の実験で搭載された弾頭は、標的に体当たりして衝撃を与える運動エネルギー撃破飛翔体であったとされるため、超音速で標的に衝突した弾道ミサイルの膨大な運動エネルギーは、両者の衝突によって生じた無数の破片に分配されたと考えられる。ここで生じた無数の破片は、スペースデブリとなり、極めて大きな運動エネルギーを保存したまま、7〜8km/sという超高速で衛星軌道上を周回するのである。

きわめて高速で移動するため、たとえ数cm、数mm大のスペースデブリであっても衝突すれば宇宙機に致命的な損傷を与えかねない。デブリとの衝突を避けるため、北アメリカ航空宇宙防衛司令部 (NORAD) の宇宙監視ネットワークでは、10cm以上のデブリの常時監視体制を敷いているが、それ以下のデブリは事実上野放しである。

NASAのDonald J. Kesslerによって提唱されたケスラーシンドローム (Kessler Syndrome)は、低周回軌道におけるスペースデブリの数が増えると、デブリ同士の衝突が連鎖的に発生し、それに伴いデブリとの衝突確率が増加するため、宇宙開発自体が困難になり、人類が地球に閉じ込められるという理論である。プラネテス (ΠΛΑΝΗΤΕΣ)でも取り上げられたので知っている人も多いだろう。

ケスラーシンドロームの元論文、Donald J. Kessler and Phillip D. Anz-Meador, CRITICAL NUMBER OF SPACECRAFT IN LOW EARTH ORBIT: USING SATELLITE FRAGMENTATION DATA TO EVALUATE THE STABILITY OF THE ORBITAL DEBRIS ENVIRONMENTによれば、先行研究で低周回軌道においてランダムな衝突によって発生する破片が、デブリの数を最小化させようとする努力にもかかわらず、軌道上のデブリの数を連鎖的に増加させることを予見していたが、宇宙における破片の運動軌跡の観測データとペイロードの超高速度ブレークアップ実験から得られたデータの解析により、この予測がより正確に確かめられたという。結論として、大部分の低周回軌道におけるデブリ衝突の連鎖的反応は未だ収束しておらず、将来的に新たなデブリが一切加えられないと仮定しても、より高い平衡点を目指して推移するという(デブリの数は今以上に増加したどこかの点で収束する)。特定の領域(高度800-970km)では平衡状態に移行できず、無限にデブリが増加する無限連鎖が始まっているという。現時点では破片の増加率はそれほど高くないが、スペースデブリの元となる新たな宇宙機が続々と軌道上に投入されている現状では、増加率が劇的に増大するのもそう遠くないだろう。

今回の中国の実験では、高度850kmという比較的高い高度で行われたため、空気抵抗も少なく、デブリが運動エネルギーを失って大気圏に突入し燃え尽きるまで長い年月がかかると考えられる。また、850kmという高度はちょうど上記の論文でデブリの無限増加が始まっているとされた領域である。中国の愚行は、ケスラーシンドロームにより全世界の宇宙開発を停止に追い込み、人類を永遠に地球に閉じ込める危険性を秘めている。

アメリカもソ連もキラー衛星開発、衛星攻撃兵器 (Anti-SATellite Weapon、ASAT)開発などで、大量のデブリを量産してきたと考えられ、中国ばかりを攻めるのはフェアでないかもしれないが、宇宙開発の未来のためにも即刻中止してもらいたい。