液晶を捨てられない松下の苦悩

松下は動画ボケを改善する「Wスピード」を搭載した液晶テレビLX75シリーズ」を発表した。LX75シリーズは動画解像度とコントラストを旧来製品に対して大幅に改善していると言う。

まず動画解像度だが、全方位に対応した中間フレーム生成に基づく120Hz倍速駆動方式により、60フレーム表示の同社製品(LX50シリーズ)の動画解像度約300本に対し、LX75シリーズでは600本以上を実現しているという。

動画解像度は次世代PDP開発センターによって提唱された動画表示性能を人の見た目に近い尺度で測定・評価するための指標である。「西川善司の大画面☆マニア 第82回」で詳細な説明と問題点について触れられている参照して欲しい。松下の現行のプラズマ最上位機種であるPZ600シリーズで動画解像度は900本以上であるので、液晶パネルに120Hz倍速駆動方式を導入しても、依然としてプラズマのほうが動画性能はよいことが分かる。

ところが、LX75シリーズは非フルHDパネルであるので、仮にフルHDで120Hz倍速駆動方式を採用したとすると動画解像度は750本を越える可能性がある*1。これは松下の非フルHDプラズマテレビPX600シリーズの動画解像度720本を超える数値となる*2まさかプラズマよりも動画性能の良い液晶テレビを自社から出すわけにもいかない松下は今後どうするつもりなのだろうか。

コントラスト比に関してだが、LX75シリーズでは、「ダイナミックコントラストエンハンサー」と「インテリジェントバックライトコントローラ」から構成されるコントラスト改善技術「WコントラストAI」を新搭載、32型でコントラスト比を約7,000対1まで向上したという。一方、松下の現行のプラズマ最上位機種であるPZ600シリーズコントラスト比は約4,000対1である。従来プラズマの利点とされてきたコントラスト比における自社製品間の比較で、なんと液晶の方が数値的に*3上回ってしまっている。
プラズマのほうが液晶よりも優れていると主張し、年1,000万台の生産能力を持つ世界最大のプラズマテレビ用パネル新工場を2,800億円を投資して兵庫県尼崎市に建設することを発表した(ニュースリリース)、その松下が、自社主力のプラズマより優れた性能指標を示す液晶テレビを販売するとはどうしたことだろう。おそらく、今後近いうちに性能を向上させたプラズマテレビを発表しプラズマの優位性を強調するために、今回液晶テレビだけの発表としてプラズマの新製品は発表されなかったのだろうが、なんとも居心地の悪い感じだ。競合する2つの技術を両方とも手がける松下の苦悩が見て取れる。

松下としては、液晶に対するプラズマの優位性を積極的に強調して他社の液晶テレビを駆逐したいが、さりとて液晶がメインの中小型テレビ市場を捨ててプラズマ一本に絞るわけにもいかない。少し前までは中小型は液晶、大型はプラズマと住み分けを主張できたが、最近は大型テレビにも液晶が進出してきたので、どうしても画質面でプラズマと液晶を比較せざるを得ない。この比較において、自社の液晶テレビの販売量を下げずに、プラズマの優位性を分かりやすく消費者に示すのは至難の技だ。何かいい方法があれば教えて欲しいが、今、一番知りたいと思っているのは松下のマーケット担当ではなかろうか。

*1:松下フルHDのPX600シリーズが900本以上、非フルHDのPZ600シリーズが720本以上、その差1.25倍を適用

*2:フルHD対応機同士で比較すればプラズマの方が動画解像度は高くなる。

*3:一応種明かしをしておくと、LX75シリーズのコントラスト比はバックライト制御によるダイナミックコントラストである。1画面内で表現できるネイティブコントラストはもっと低いはず。1,000から2,000程度?