大迷惑にもほどがある中国の衛星破壊実験

2007年1月19日付エントリー『中国の衛星破壊実験は、人類の宇宙進出を不可能にする』においてケスラーシンドローム (Kessler Syndrome)誘発の危険性に触れた中国の衛星破壊実験だが、デブリとISSの軌道が交差することが判明した。GIGAZINEがシミュレーションムービーの紹介を行っている。

Center for Space Standards & Innovation (CSSI)が発表したところによれば、2007年1月11日に中国が行った衛星破壊実験は、現在追跡可能な大きさ(おおよそ10cm以上)のデブリを少なくとも517個発生させた*1。それ以下の大きさのデブリを含めるとまさに無数(数千個)である。小さくても秒速5.8〜8kmと言う超高速で周回しているため、被衝突体に致命的な損傷を与えるのに十分な運動エネルギーを有している。CSSIのテクニカルプログラムマネージャのT.S. Kelsoは、中国の衛星破壊実験が発生させたデブリの軌道解析を行い、CelesTrakにおいて公表した。

本文中の図はすべて、STK-generated images courtesy of CSSI (www.centerforspace.com)である。また、公開されているVDFファイルを見るためにはAGI Viewerが必要。

Chinese ASAT: 中国の気象衛星が破壊され、デブリの雲を発生させる


STK-generated images courtesy of CSSI (www.centerforspace.com)

2007年1月11日22:00(UTC)から1月12日00:00(UTC)までを示す。実験で破壊された気象衛星、風雲1号C(FENGYUN 1C)の破壊前の軌道が赤く表示されている。ミサイルを発射した酒泉スペースセンター(Xichang Space Center)の位置も示されている。NORAD(North American Aerospace Defence Command)によって追尾されている517個のデブリは緑色で示されている。ここでは初期の数回の軌道周回によりデブリ雲が広がる様子を示している。初期の解析によれば、デブリ雲は高度260kmから3,500kmの範囲にわたり拡散して極軌道*2を周回するため、多くの運用中の衛星の脅威となりえる。

ISS-ASAT DEBRIS: 国際宇宙ステーションISS)はデブリ雲に突っ込む


STK-generated images courtesy of CSSI (www.centerforspace.com)

このファイルはISS(International Space Station)が南半球でデブリのリングと交差する様子を示している。大きなデブリが衝突すれば莫大な投資が行われたISSに致命的な損傷を与える可能性がある。

LEO-ASAT DEBRIS: デブリ雲により被害を受ける可能性のある軌道上の衛星ペイロード


STK-generated images courtesy of CSSI (www.centerforspace.com)

この画像はデブリ雲により影響を受ける可能性のある数多くのLEO衛星ペイロード(緑色輝点。実際のスケールより誇張されている)を示している。衛星ペイロード(satellite payload)とは衛星軌道においてさまざまなミッションを遂行する宇宙機を指す。ペイロードの例としてはセンサーやトランスミッタ/レシーバ、他の科学的、工学的実験機器が挙げられる。現在軌道上にある衛星ペイロードとの潜在的な衝突可能性についてはSOCRATESを用いて"FENGYUN 1C DEB"と検索することで知ることが出来る。

シミュレーションムービー

上記のシナリオをつなげたムービーがダウンロードできるのでそちらを見るのが良い。上のBGM付の方がお勧め。

後先考えない中国の愚行

このように中国の衛星破壊実験は人類の共同資産である軌道上に10年以上にわたって漂い続ける無数のデブリを生み出した。ケスラーシンドロームの誘発と言う事態には至らないとしても、多くの宇宙機デブリ衝突確率を跳ね上げ、リスクを増大させている。宇宙空間で衛星を破壊すればこうした事態を招くことは十分事前に予測できたはずで、自国の利益のみを優先させた中国宇宙開発史に残る愚行だと言えよう。宇宙開発大国を自認するならば当然求められるべき責務があるはずだが、それを顧みることなく目先の利益/自尊心だけを追求している現状は情けない限りだ。中国の指導者が、今回の実験が人類全体の宇宙開発にもたらした悪影響を反省し、二度とこのような実験を行わないことを切に願う。

*1:2月1日現在軌道上のデブリの総数は7,497個。およそ6.8%が今回の実験で新たに生み出された。

*2:軌道傾斜角がほぼ90度の軌道。北極と南極の上空を通り地球を縦に回る。