人間を意のままにコントロールする人間リモコン

ビジョンメガネは、コクリコクリとなった頭の動きを感知し、耳の後ろでブルルと振動することで居眠りを防止するMYDO/Bururuを発表した。着脱可能な居眠り防止装置耳かけには小型のモーターと電池が内蔵されており、頭が一定角度以上傾くと振動を発生してユーザの覚醒を促す。ユーザが頭を起こすと振動が止まるという具合だ。

なかなか画期的な商品だが、耳の後ろに電極をつけられるのならば、より魅力的なアプリケーションが存在する。人間を意のままに操る人間リモコン(human remote control)だ。


TARO MAEDA, HIDEYUKI ANDO, TOMOHIRO AMEMIYA, MASAHIKO INAMI, NAOHISA NAGAYA, MAKI SUGIMOTO, "Shaking The World: Galvanic Vestibular Stimulation as A Novel Sensation Interface", http://www.brl.ntt.co.jp/cs/avi/parasitic_humanoid/

SIGGRAPH 2005で発表されたこの技術はNTTによって開発されたものでGVS(Galvanic Vestibular Stimulation)と呼ばれる。GVSは電極のアノード側にバーチャルな加速度を生成させることが可能な電流刺激方法であり、電極に電流を流し前庭感覚を刺激することで、装着者に体が横に傾くような感覚を生じさせる。結果として本人はまっすぐ歩いているつもりでも、操作者の指示した方向に進んでしまう。デモでは、ラジコンのプロポで人間をコントロールし、NTTマークに沿って歩かせて見せた。

この人間リモコンのアプリケーションとしてNTTの前田太郎氏は、歩行者の後方から近づく車を検知すると、歩行者を自動的に道路端に動かす(歩行者はまっすぐ歩いているつもりだが、知らぬ間に横方向に動く)デモを行っていたが、どぶの脇を歩いているときには、車に近づいて欲しくない。もちろん、周囲の状況を正確に把握するマッピングシステムと併用すれば、どぶに落ちるのを防いでくれることはもちろん、救急隊員が暗闇の中をすばやく移動することを補助するにも使えるかもしれない(障害物を自動的に避ける)。

他のアプリケーションとしては、ビデオゲームにおける擬似加速度の付加が挙げられる。ドライブゲームやフライトシミュレータ等をやるときに、GVSデバイスを装着することで、ゲーム画面と同期した加速度を体験することができるようになる。たとえば、カーブでは遠心力を感じ、体が外側に引っ張られるような感覚を味わうことが出来る。

現在のプリミティブな3Dゲームでは視覚上の動きと、三半規管が感じる動きの間のずれから3D酔いが発生するが、加速度をうまくコントロールすることが出来れば、3D酔いを緩和することも可能かもしれない。

ただし、現時点では擬似加速度が身体に及ぼす影響の安全性については確認されていない上、強い刺激を受けるとまともに立っていられない状況に陥るのは、家庭用ゲーム機としては少々刺激が強すぎるだろう(対象者を殺さず無力化する非殺傷兵器としての応用も想定される)。

これまで述べたように、GVSデバイスの商品化には今しばらくの検証が必要ではあるが、人間をラジコンのプロポでコントロールする様子はなかなかシュールで、きわめて魅力的なアプリケーションに思える。実際には人間リモコンが役に立つ例は(しばらくの間は)あまりない気がするが、擬似加速度発生デバイスとしての利用には大きなニーズがあるだろう。PlayStation4あたりでこうしたオプションが付属しても不思議ではない。