空自次期戦闘機(F-X)にF-22選定は困難か

航空自衛隊中期防衛力整備計画において、老朽化したF-4の代替として次期主力戦闘機(F-X)の選定作業を進めており、2009年度までに7機導入する予定である。現在F-X候補となっているのは、Eurofighter Typhoon住友商事)、Boeing F/A-18E/F Super Hornet伊藤忠商事)、Boeing F-15E双日)、Lockheed Martin F-22 Raptor(三菱)の4機種となっている。

航空自衛隊のF-Xへの要求としては、限られた機数で広大な防空識別圏(ADIZ: Air Defence Identification Zone)を狭い列島を基点に防衛するため次のような要件が挙げられる。

  1. 長い航続距離
  2. 高い速度性能
  3. 高度な空戦性能
  4. 低被探知性(ステルス性)
  5. 対艦/対地攻撃能力
  6. 航空自衛隊における円滑な運用
  7. 2009年度内の配備開始
  8. 国内航空宇宙産業育成

欧州製のユーロファイターは航空自衛隊における運用性を考えると採用はあり得ない。結局米国製の機体からの選択となるが、日本を仮想敵国とする韓国のF-15K、猛烈な勢いで軍事力の拡大を進める中国のJ-10(殲撃10)J-11(殲撃11/Su-27SK/UBK)あたりを想定すると、F/A-18E/F、F-15Eでは不安の残るところである。


[f:id:LM-7:20010728225438j:image]

Lockheed Martin F-22 Raptor -US Air Force public domain
結局、航空自衛隊の要求仕様を最も満たす本命はF-22A ラプターということになる。ラプターはきわめて優秀なステルス性能を有する機体であり、レーダー反射面積(RCS: Radar Cross Section)は0.003〜0.005m2とされている。昨夏、アラスカで行われたF-22AとF-15F-16、F-18による模擬空中戦訓練の結果は144対0、241対0とラプターの圧勝に終わっているF-15F-16、F-18はラプターの接近を感知できないまま、対空ミサイルでバタバタと撃墜判定を食らい続けたのだ。ミサイルが発達した現在の空中戦において、必要とされるのはドッグファイト能力ではなく、敵に存在を知られずに近づくことができるステルス能力であることが証明された格好だ。ここまで圧倒的な差が出ると、いまさら非ステルス機のF-18やF-15を採用するのは躊躇われるところだろう。

問題は1機あたり200億円とも言われる値段の高さと、国内防衛産業の技術開発との兼ね合いだ。三菱重工業F-15ライセンス生産により国産化し、技術力を高めてきた経緯があるが、F-22Aがライセンス生産になるとは考えにくく、F-22Aを採用した際には技術蓄積が行えない。その点を考慮してF-2邀撃型の採用を探る動きもある。

それでも、防衛省内ではラプター待望論が根強く、米国国防省ロッキード・マーティンとも昨年来売り込みに余念が無い。そのため、F-22Aが本命であると考えられてきたのだが、昨年米国上院が軍事機密に当たるとし海外(イギリス、オーストラリア、日本)へのラプターの輸出を否決したせいで、事実上ラプターの採用は困難な情勢になってしまった。もっとも、米国当局者は、不透明な朝鮮半島情勢を受けて日本側の要請が強まれば、再度対日輸出許可の要請を議会に求めるとしており、完全にラプター採用の芽がなくなった訳ではない。

時事通信が報じたところによれば、防衛省はF-Xの選定で調査対象機種のうち、質問書に回答があった3機種の米・英のメーカーに対し、2月内にも調査員を派遣する方針を固めたと言う。今回の現地調査の対象は、F/A-18E/F、ユーロファイターに加えて、ボーイングが日本向け仕様として開発中のF-15FXだといい、ラプターの名は無い。F-15FXに関して、ボーイングは完全に航空自衛隊のF-X要求に合わせたタイプにすることができるとしているが、ラプター導入がなくなったとすると最有力候補になるだろう(基本設計の古さからラプターにはずいぶん見劣りするが)。最新鋭機F15-Kを導入したばかりの韓国は日本がF-22Aを配備したらどうしようと気が気でないようだが、今のところその見込みは低い。

米国議会の承認が得られるまでの間、F-15FXあたりを少数つなぎとして導入し、承認が得られたところでラプターの採用を行うと見る向きもあるが、もたもたしているとラプターの製造ラインが閉じてしまう。先日、沖縄県米軍嘉手納基地にラプターが配備されたが、トップレベルの政治決着が無ければ、航空自衛隊ラプター導入は難しそうだ。不安定な状況が続く極東において、航空優勢を保持することは日本の安全保障上大きな意味を持つ。現状、これからの20年の日本の航空優勢確保に必要な能力はラプターしか有していない。なんとか事態を打開する方策があれば良いのだが。