給料から見た勝ち組の条件

以前取り上げたようにJ-CAST ニュースが行ったアンケート調査によれば、30歳で『勝ち組』と思われる年収は1,000万円以上という結果が出た。悲しいことに、30歳で1,000万円と言われてもピンとこないので、[特集]日本人の全給料−最新版! - MSNマネーで調べてみた。ここでは生涯給料、30歳モデル年収、平均年収、平均年齢、平均勤続年数の上位1,000社がランキングされている。

これを見ると、30歳で1,000万円という閾値がとてつもなく高いことが分かる。30歳モデル年収で1,000万円を超えているのは、わずか7社に過ぎない。生涯給料で上位に位置する企業を追加すれば、上記基準に照らせば勝ち組と言えるのは、上位10社、すなわち、キーエンス朝日放送フジテレビジョンスパークス・アセット・マネジメント投信、プリヴェチューリッヒ企業再生グループダヴィンチ・アドバイザーズ日本テレビ放送網、パシフィックマネジメント、テレビ朝日電通と言えるだろう。

1,000社の平均年齢と平均年収を業種ごとに散布図にしたのが次のグラフである。全1,000社の線形近似曲線を赤線(一番下)、勝ち組10社の線形近似曲線を緑線(一番上)、30歳1,000万円の勝ち組のボーダーラインを青線(真ん中)で表している。給与が全社一律に年功序列で上昇するわけではないので、ボーダーより上に位置する会社が20社を超えているが、だいたいこのぐらいが勝ち組のボーダーだと考えてもそんなには外さないだろう。敗者復活で勝ち組に加わるのは、野村総合研究所三菱商事三井物産住友商事、シンプレクス・インベストメント・アドバイザーズ、ドリームインキュベータ新日本石油マネックス・ビーンズ・ホールディングス、BSL、アクセル等となる。これらは30歳では1,000万に届かないが、ほぼそれに相当するだけの待遇を得ていると言える。結局、日本企業の勝ち組は上位20社、生涯収入がだいたい4〜6億円ぐらいとなる。後はすべて負け組だ。なんて厳しい基準だろうか。

それぞれの直線はxを平均年齢、yを平均年収として次のように表される*1

勝ち組上位10社平均*2 y=19.497x+698.53
勝ち組ボーダー y=19.497x+415.09
1,000社平均 y=16.179x+99.735

大体平均的な人の場合、30代で500〜700万、40代で700〜900万円の年収となる。一方、勝ち組の場合、30代で1,300〜1,500万、40代で1,400〜1,700万となる。ボーダーは30代で1,000万〜1,200万、40代で1,200〜1,400万だ。

これを見ると業種ごとの貧富の差がはっきり見て取れる。最も勝ち組なのは放送業で、4社すべてが勝ち組に分類される。上位1,000社の平均と比べても倍以上の給料をもらいつつ、『オーラの泉』のような視聴者を騙すような番組を垂れ流し、既得権益の上であぐらをかいているかと思うと釈然としない。あるある大辞典の孫請け制作費が10年間で半減していたと言うが、制作現場に過度の負担を強いている現状が、現場のモラルの低下の引き金になっていることは間違いない。利益配分の是正が必要なのは明らかだ。

インターネット放送が普及し少数のテレビ局が放送の独占が消滅し自由競争時代になれば、このような厚遇の余裕はなくなると思うが、過去のコンテンツの蓄積、コンテンツ制作、配布、管理のノウハウ等、多くの蓄積があると思うのでしばらくは安泰なのだろう。儲かるだけの理由はある。

次に目立つのは証券業である。やはり外資が強いようだが、振興の証券会社でも平均と比べたら高い収入を得ていることが分かる。ただ、ボーナス平均7,300万とかいうゴールドマン・サックスや、妻に殺害された社員が年収1億5千万円だったモルガン・スタンレーなどを調査対象に含めると、平均値は10倍とかに跳ね上がると思われる。やはり株取引はこの世の中で最も儲かる職業であることは確かだろう。

電気機器は会社によって差がある。キーエンスプリヴェチューリッヒ企業再生グループ、アクセルなどが勝ち組に該当するが、家電メーカーは一切含まれていない。ソニーキヤノンが勝ち組ボーダーと平均のちょうど中間ぐらいに位置しているぐらいで、他の大手家電メーカーは平均あたりに埋没している。過当競争による日本の家電メーカーの利益率の低さは、社員の給与水準にも影響しているようだ。

サービス業も会社による差が大きい業種だ。勝ち組に分類されるのは、ダヴィンチ・アドバイザーズ電通ドリームインキュベータ、アセット・マネジャーズ、 博報堂DYホールディングス等、ファンド、コンサル、大手広告代理店が名を連ねる。一方、これら少数の勝ち組をのぞいては大部分のサービス業を営む企業は平均あたりに集中している。

あと勝ち組になれる可能性がある業種としては、鉱業卸売業不動産業情報・通信業等となる。意外なことに多額の利益を出している、NTT DoCoMoKDDIなど通信キャリアも勝ち組にはほど遠いランクに位置している。また、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車等も平均値程度でありぱっとしない。これは販売員や工場労働者などブルーカラーの割合が他業種に比べて大きいからだと考えられる。全平均ではなく大卒平均とかに限れば結果は大きく変わってくるだろう。一般に高給取りのイメージがある銀行業も勝ち組には至らない。真の勝ち組はもっと上にいるのである。

ここにあげたように、勝ち組になれるかどうかはどの業種に進むかによって大きく左右されることが分かる。業種によっては、当該業種で最も高い給与をもらったとしても、勝ち組の足元にも及ばない。一方で、その業種の企業に入りさえすれば勝ち組が約束されているような業種も存在しており、世の中の常ではあるが不公平感がぬぐえない。少なくとも、これから進学先や就職先を考える人は、こうしたデータを考慮した上で進路を決めるべきだ。

ちなみに、勝ち組以外とは結婚しないという幻想を持っている人がいれば、そんな幻想は即刻捨てた方がよい。勝ち組に該当するのは日本でわずか20社。大多数の人は勝ち組社員と顔見知りになることなく一生を終えるだろう。そんな幻想を追いかけ続けると、一生独身で過ごすことになる可能性が濃厚だ。

このような勝ち組がいる一方で、ネットカフェ生活者と日本の雇用環境で紹介されているように、ネットカフェで寝泊まりをするワーキングプアと呼ばれる層が存在する。規制に守られることにより高い利益率を保っている業種の法人税をもう少し上げ利益を再配分し、すべての人が文化的生活を送れるような制度改革を行うことが必要だと思う。

*1:これはあくまでも平均年齢と平均年収の散布図なので、これらの式が直接年齢毎の収入をあらわすわけではない事に注意。この数式は極めていい加減というか、率直に言えば意味があるかどうかも怪しいので、あくまで傾向というか目安として捉えるべきである。

*2:本当は上位20社で作り直すべきなんだけど、グラフ作り直すの面倒なので10社のまま。20社にするとy=15.428x+721.03