フェルマーの最終定理

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)』は数学の面白さを伝える一般向けにかかれた書籍の中で最もおすすめの一冊だ。筆者は数学について素人だが、それでも無理なく分かるように本書はまとめられており、フェルマーの最終定理の証明を完成させるために、数学者がどう考え、どこで詰まり、そしてどのように解に至ったが臨場感あふれる筆致で記述されている。

フェルマーの最終定理は次のように中学生でも理解できる単純なものだ。

3以上の自然数nについて、x^n+y^n=z^nとなる0でない自然数(x, y, z)の組み合わせは存在しない。

17世紀のフランスの数学者フェルマー(Pierre de Fermat)は数学書『算術』に多くのメモを残した。そのメモの一つに「上記の命題の真に驚くべき証明を発見したが、それを印すには余白が足りない」と書き残した。その後多くの数学者がフェルマーの最終定理を証明しようと挑戦し続けたが、実に360年間にわたり誰もその証明を見いだすことが出来なかったのだ。

フェルマーの最終定理は、数学者なら誰でも知っている古典ではあったが、数学のメインストリームとは外れており、(表向きは)あまり真剣に取り組む数学者は少なかった。しかし1986年のフライ・セール予想の証明によって、フェルマーの最終定理の証明が数学の主流テーマの発展上不可欠な課題であることが明らかになり、世界中の数学者が本気で取り組むこととなった。最終的に1994年にアンドリュー・ワイルズ(Andrew John Wiles)によって証明されるわけだが、その過程で谷山・志村予想と呼ばれる戦後日本人数学者による業績が極めて大きな役割を果たすことになる。

元々はバラバラだと思われていた過去の多くの数学者の業績が、ワイルズによってまとめられ一つの証明に収斂していく様は、極めて気持ちの良いものだ。定年退職後に数学を学び始め、71歳で数学博士号を取得した男性が話題になっているが、数学の魅力は、たとえ年をとっても考える頭さえあれば取り組めることと、エレガントな解法を発見し「ユレイカ!」と思わず叫びたくなる一瞬にあるのだと思う。本書はそうした数学の魅力を余すことなく伝えてくれる。著者のサイモン・シンは現代数学の最もホットな部分を素人でも分かるように、わかりやすくかみ砕いて説明している。この本ほど知的興奮を与えてくれる本はなかなか無い。未読の人は是非騙されたと思って手に取ってみてほしい。払ったお金と時間に値するだけの価値はある。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)