米韓FTA締結の衝撃

既報の通り、米韓の自由貿易協定(FTA)締結交渉が2日電撃的に妥結した。それに関連して、常に厳しい批判にさらされてきた盧武鉉大統領が絶賛されるという状況が生じている。

 ソウルの3大紙の一つ中央日報は3日付社説で「何よりも盧大統領の指導力が重要な役割を果たした」と称賛。主筆コラムでも「盧大統領の過去の行いからは理解できない」ような「奇跡」であり、「わが国は恵まれた国」だと指摘した。

 東亜日報も「盧大統領のFTAリーダーシップを高く評価する」と題した社説で、「妥結の主演者」である大統領に「拍手を送る」と激賞。日本が米国とのFTAを実現できないのは政治指導者らに勇気がなかったからだと断じた。

MSN毎日インタラクティブ:米韓FTA:妥結 韓国保守系紙、異例の政権絶賛 左派系議員は批判

去年、まだこれから1年半もこんな大統領に耐えていかなければならないわれわれの境遇が恨めしいかぎりだ盧武鉉大統領を非難し続けてきた韓国マスコミの手のひらを返したかのような賞賛は見ていて奇妙でさえある。

それにしても米韓FTAの締結はいささか予想外で、日本政府関係者もあわてていることだろう。最近は円安がもたらした価格競争力を武器に、日本家電メーカーが輸出攻勢に出たところで、韓国では悲観論が大勢を占めていた。

日本企業が「品質とブランド価値で勝負する高価製品」というイメージを抜け出している。 この2年間で20%ほど(対米ドル基準)進んだ‘円安’を武器に電子製品などを安値に販売している。 韓国に奪われた市場を奪還するのが目標だ。
(中略)
‘円安空襲’に韓国企業は苦戦している。 国内電子業界の関係者は「中国ではある程度市場を守っているが、ロシアなどでは販売量が減っている」と語った。 LG経済研究院のパク・チョンギュ研究委員は「韓国企業は差別化されたデザインなどで適正価格を受ける‘プレミアム製品’イメージを定着させる一方、新興市場を狙った低価格製品の開発にも力を注がなければならない」と述べた。

中央日報:日本「韓国に奪われた市場を取り戻せ」…‘円安空襲’

ところが、今回のFTAの締結で円安メリットが吹っ飛んだ。韓国製品にかかる関税が撤廃されるため、SamsungやLGのプラズマTVや液晶TVは価格競争力を高め、松下やSONYの製品に比べて安価に設定されるだろう。今はまだ円安効果があるので対抗できるだろうが、円安は一時的なものであり、いつまた円高に振れるか分からない。一方、FTAの効果は永続的なものだ。

日本が米国とFTAを結べない理由として次の2つが挙げられている。1つは米国と日本のGDPを合算すると全世界の40%を占め、世界経済、とりわけ弱小国に与える影響が大きいというものだ。もう1つは国内農業の保護である。どう見ても本命は後者で、米国産の安い農産物の輸入解禁により国内農業が壊滅的な打撃を被ることをおそれて、日米FTA締結に踏み切れないのだろう。

しかし、そんな悠長な事を言っていると、加工貿易国である日本が先進国の地位を維持し続けることが困難になる可能性が米韓FTA締結によって示された。世界の趨勢は相互自由貿易体制の確立にあり、この波に乗り遅れると輸出関連企業は国際競争において勝ち抜くことが困難になる。日本はどうしても輸出関連企業の国際競争力を失うわけにはいかず、米国とのFTA締結の障害となる農産物市場開放問題を打開する強力な政治的リーダーシップの発揮が求められるところだ。…その点、小泉前首相に比べて、安倍首相は頼りない。ただでさえ内閣制の日本政府は大統領制の他国に比べてリーダーシップが発揮しにくい環境だというのに、率先してリーダーシップを取るように見えない安倍首相では望み薄だろう。手をこまねいて時間だけが徒に過ぎていくというシナリオが最悪だが、もっとも蓋然性が高いのが困りものだ。