小型薄型テレビはデザインによる差別化の時代へ

ソニーは、Display 2007において、27型/1,920×1,080ドットのフルHDモデルと、11型/1,024×600ドットのWVGAモデルの2つの有機ELディスプレイを出展しているが、11型の有機ELディスプレイに関して、2007年度中に発売することを明らかにした

有機ELディスプレイは今年のCESに公開されたものと同一であり、発売される11型ディスプレイのパネル仕様としては、色域はNTSCカバー率で100%以上、ピーク輝度は600cd/m2、白ピークで200cd/m2。コントラストは100万:1以上と現行の液晶パネルと比較しても極めて良好な出力をもつようだ。

有機ELの弱点とされる寿命に関しては、11型についてはかなり量産に近いレベルで達成されているとしている。従来、有機ELの寿命は一般に約2,000〜10,000時間程度とされていたが、商品として必要最低限の20,000時間程度を達成できたと見て良いだろう。一日8時間利用するとして6年10ヶ月の寿命となる。最近の液晶の寿命は5〜60,000時間とされているからそれよりは短いものの、初期の液晶テレビ程度の寿命はあることになる。

ソニーの井原副社長は「液晶を置き換えるわけではないが、もう一つ上の画質を実現するものとして有機ELテレビを推進したい。素晴らしい感動を与えてくれるテレビになる」とし、有機ELの画質の良さをアピールしたが、有機ELが他の既存ディスプレイに対する最大のアドバンテージは画質ではなくその薄さにある(ソニー経営陣がその点を誤解しているとすれば、小一時間問い詰めてやりたい)。

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右の図は、2007-01-09:ソニーのディスプレイ切り札「有機EL」――パラダイム・シフトのトリガで示した図の再掲で、ソニーの11型有機ELテレビと、シャープの13型液晶テレビを比較したものだが、やはり最薄部3mmという薄さは驚異的だ。

最近の薄型テレビの画質向上により、普通にコンテンツを見る分には困らない程度の画質が実現できている。いくら有機ELの画質がすばらしくっても、今の液晶テレビの画質でも十分だと考える人も大勢いるだろう。価格差がある場合はなおさらだ。しかし、超薄型というデザインは、見てすぐに違いが分かる部分であり、店頭展示で大きな訴求力を発揮するだろう。多少高くても洗練されたデザインを有する有機ELにしようと考える消費者は少なからずいるはずだ。

東芝2009年に有機ELテレビを投入するとしており、今年から各社有機ELテレビへの参入を進めるようだ。有機ELテレビの登場により、特に小型において、テレビの差別化ポイントは画質や機能、そして価格ではなく、デザインへとより顕著に移行していくものと見られる。消費者の購買ルールが変わると、新たなルールに対応できないメーカーは大きくシェアを落とし、各メーカーのシェアが大きく変化することとなる。勝ち組と呼ばれているメーカーが明日も勝ち組とは限らないのだ。

90年代ソニーはフラット型ブラウン管テレビにおいてライバル松下を大きく上回るシェアを有しており、勝ち組の評価をほしいままにしていた。しかし、ソニーは自社のブラウン管技術にこだわるあまり、プラズマや液晶による薄型化の流れに乗ることが出来ずテレビ市場で大きくシェアを落とすこととなった。プラズマや液晶の画質は未だブラウン管に比べて劣っている部分があったが、多くの消費者にとっては十分なレベルに達しており、消費者は画質ではなく薄型軽量というポイントでテレビを選択するようになったのだ。ソニーはルールの変化に対応できなかったのである。

液晶テレビで我が世の春を謳歌しているシャープの動向が気になるが、同社は各社が新たなFEDへの取り組みを競うように紹介しているDisplay 2007に出展さえしていない。シャープは液晶に拘泥するあまり、液晶の次に対する研究開発が他社に比べて遅れているのではないだろうか。このままではシャープは10年前のソニーと同じ道を辿ることになりそうだ。栄枯盛衰、時代は繰り返すのである。