蜂群崩壊症候群により世界からミツバチが消える日

LM-72007-04-13


2007年02月27付エントリ『ミツバチが忽然と消えるイナイ・イナイ病』で取り上げた全米でミツバチが忽然といなくなる現象だが、毎日新聞の報道によれば、蜂群崩壊症候群(CCD: Colony Collapse Disorder)*1命名されたようだ。イナイ・イナイ病(disappearing-disappearing illness)やミツバチ消失症候群(VBS: Vanishing Bee Syndrome)の方が直感的な名前だとは思うが、消失に季節要因が見られないこと、一般的な意味で病気では無いだろうと見られることから、名称が変更された*2。本来帰巣能力が高いミツバチが、巣箱に戻らず姿を消し、群れの縮小が崩壊と言われるほど急なことが命名の理由のようだ。

養蜂業者が飼育するミツバチが巣箱から大量失跡する原因不明の現象が北米に広がっている。全米50州中の27州とカナダの一部で報告され、管理するハチ群の9割を失った業者もいる。ミツバチが受粉を行っている農作物は年間150億ドル(約1兆8000億円)相当とされ、過去に例を見ない異変による深刻な影響も予想される。農務省や研究機関は原因究明を目指した作業グループを共同で設立、連邦議会公聴会も開かれた。

毎日新聞: <ミツバチ>米国で原因不明の大量失踪 農作物にも影響

蜂群崩壊症候群(CCD)の最初の報告は1896年になされており、それ以来、disappearing disease, spring dwindle, May disease, autumn collapse, fall dwindle diseaseなど多くの名前で呼ばれてきた。最近では2004年〜2005年の冬にかけて発生したケースがあり、バロアダニ(Varroa mites)が原因ではないかと見られていたが、その確認はなされていない。蜂群崩壊症候群(CCD)はもともと米国で見られた現象だが、近年ではポーランドやスペインなどでも同様の現象が報告されているという。

依然としてCCDの原因は謎のままで免疫機構の弱体化、遺伝子組み換え作物、吸血性の寄生ダニや農薬、受粉業務のための移動ストレスなどの複合など、様々な仮説が示されているが、どれも決定打にかけるのが現状だ。

 昆虫学者によると、米国では約100種の植物がミツバチによる受粉に頼っている。農作物ではアルファルファ、リンゴ、アーモンド、かんきつ類やタマネギ、ニンジンなど。米国のミツバチ群は02年で約240万(議会調査局調べ)。うち最大の2割をカリフォルニア州が占める。同州が全世界生産の7割を占めるアーモンドの受粉はすべてミツバチに頼っている。飼育する2000群のうち4割を失った同州の業者は「30年間の養蜂業経験で最大の被害」と下院公聴会で証言している。

毎日新聞: <ミツバチ>米国で原因不明の大量失踪 農作物にも影

CNNの報道によれば、全米の養蜂業者は過去6ヶ月で50%〜90%のミツバチを失っており、蜂蜜価格の上昇と果物や野菜の生産に深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。蜂蜜の生産量は2006年時点ですでに11%減少しており、それに伴って価格が14%上昇している。2007年時点では上昇幅はより大きくなっていると見られている。影響は蜂蜜など直接的なものにとどまらない。世界の25万種の顕花植物の実に3/4が受粉を必要とすることから、最も優れた受粉媒介者であるミツバチの減少が農業生産に深刻な被害を与えることが予想される。被害想定額は見積もりによって異なるが大体数十億ドルのオーダとされている

実際にはミツバチの減少は新しい話ではなく、過去20年にわたり世界規模でミツバチの減少が報告されている。その間米国におけるミツバチの数は600万匹から250万匹未満へとわずか40%まで落ち込んでいる。事実、米国は受粉需要に応えるために2005年に実に85年ぶりにミツバチを海外から輸入したほどだ。仮にミツバチの数が現在のペースで減少を続けると、2035年までに全米からミツバチが消えると見積もられており、受粉に頼る植物に壊滅的な被害をもたらす事が懸念されている。米国におけるミツバチの減少は蜂群崩壊症候群(CCD)によるものだけではなく、都市化の進行などによるものも含まれるが、早急に蜂群崩壊症候群(CCD)の原因を解明し、根本的な対策を講じないと世界レベルで深刻な農作物被害とそれに伴う食糧危機まで発展しかねない。

人類の活動による地球環境破壊への警鐘でなければよいが。

*1:もともとは群崩壊症候群と訳されていたが、蜂群崩壊症候群と訳語が統一されたようだ。

*2:syndromeじゃないのでdisorderに修正したのに、日本語名に症候群と付けては意味がない。蜂群崩壊現象とでも訳した方が良さそうだ。もっとも日本語の症候群は病気だけではなく社会現象を指す用法もあるので構わないのかも知れない。