イカサマ霊能師やインチキ占い師の手口まとめ
霊能師や占い師はみんな詐欺師である。実際彼らの手口は、それほどバリエーション豊かなものではなく、いくつかの基本的なテクニックの組み合わせに過ぎない。詐欺師の手口については、本日記でも何度か取り上げてきたが、複数の日付に分散して参照しにくくなってきたため、この辺でまとめておきたい。まとめの都合上、文章の一部は過去のエントリーの再掲となっている。ご了承いただきたい。
霊能師、霊媒師、占い師、超能力者、宇宙人や高次元存在とのコンタクティー、チャネラー、新興宗教教祖等々が人を騙す手口は大別して、ホットリーディング(hot reading)とコールドリーディング(cold reading)に分けられる。
ホットリーディング(hot reading)
ホットリーディング(hot reading)とは、クライアントの情報をあらかじめ調べておき、さも霊視や占いの結果のように告げる手法である。非常に単純だが知らないはずの情報を話されるところりと騙されてしまうのだ。探偵を使って身辺調査をしても良いし、インターネットを使って個人情報を調査しても良い。クライアントの周辺の人物にちょっとアプローチすれば驚くほど多くの情報が得られるのだ。
事前に予約が必要な占い等で、クライアントを信じさせることが必要な場合に、本番までにクライアントの調査を行うのは常套手段だ。詐欺師どもがホットリーディングを行っていることがばれた例は多いが、特に有名な人物の例を挙げておく。
宜保愛子の場合
90年代に活躍した宜保愛子は1993年12月30日に日本テレビで放映された宜保愛子特番『新たなる挑戦Ⅱ』において、ロンドン塔において透視を行い、不遇な最後を遂げたロンドン塔の王子達の哀れな末期の姿を物語った。しかし、後の検証により、彼女が告げた透視は夏目漱石の「倫敦塔」の描写と不自然なまでに一致しており、小説の描写の引用であったことが明らかになっている。彼女はロンドン塔の歴史を調べることさえせず、小説からアイデアを借用したのである。これに関しては、『新・トンデモ超常現象60の真相』に詳細が記載されている。
「倫敦塔」がノンフィクションならばまだ救いようがあるが、「倫敦塔」は漱石による創作であり、史実と異なる描写が至るところにある。たとえば、宜保愛子はブラディ・タワーの上階に置いてある天蓋付きのベッドを、漱石が描いたように王子のベッドだと透視したが、実際にはこのベッドは王子が利用したベッドではなく、一世紀も後になって配置されたベッドなのだ。そもそも、宜保愛子がベッドの上に座る王子を霊視をした階は、王子達が死亡してから一世紀以上後に増築された階層であり、当時存在しなかった階で当時存在しなかったベッドに王子達が乗って座っていたなんてことは絶対あり得ない。結局、彼女は小説の内容を、さも霊視の結果のように話していただけだったのである。
江原啓之の場合
スピリチュアル・カウンセラーである江原啓之は「オーラの泉」でゲストの前世や守護霊を言い当てるが、J-CASTの報道によれば、なぜか中世の賢者や貴族ばかりで、地理的には日本、英、仏、伊に偏りアジアやアフリカは滅多に出ないと言う不自然な偏りが存在することが指摘されている。ゲストが喜びそうな例を挙げるため、もしくは、本人の知識に偏りがあるため、こうした傾向が出るようだ。よく知らない時代・地域の守護霊を出すとボロを出す可能性が上がるのだ。
決定的なのは、日刊ゲンダイで報じられた「オーラの泉」出演者の次の証言である。
江原の著書も持っていて大ファンだったというAさんはこれを受けて出演。
ところが、Aさんはいざ番組に出演して愕然とする。江原氏が即興で霊視してくれるとばかり思っていたら、「事前に詳しいプロフィルの提出も求められ、自宅には日本テレワークの方から30分以上も電話リサーチがありました」。
その上、「控室にスタッフから“ご主人か奥さまかどちらかで結構なんですが、昔、頭を打ったことありませんか?”なんて電話も。夫が“5歳くらいの時に階段から転げた”というエピソードを披露したら、江原さんは本番で、さも今、霊視で見えたかのように“ご主人、頭を打ったことありませんか”って真顔で言うんです。呆れました」。
江原啓之は自分で調査することさえせず、ゲストの身辺調査は番組制作会社が請け負っていたようだ。まさに番組ぐるみの捏造と言って良いだろう。江原啓之は番組スタッフが集めてきた情報を、さも霊視の結果分かったかのように話しているだけなのだ。細かい部分の検証のしようがない前世の話は、口から出任せである。
嘘だと分かっているテレビ局
毎日新聞によれば、昨年末に埼玉県の中学二年生の男子生徒が生まれ変わりを信じて自殺している。
調べでは、男子生徒の部屋の机上に遺書のようなメモがあった。霊界の話を紹介するテレビ番組を家族と見たことに触れて「絶対におれは生まれ変わる。もっとできる人間になってくる。家族のみんな忘れないでいて。必ず会いに来る。ホントにゴメン サヨナラ」と書かれていた。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/stop/db/archive/news/20061209dde041040047000c.html
彼に自殺を決意させた責任の一端は、霊界などという非科学的きわまりない与太話をさも真実であるかのように演出したテレビ局にある。「オーラの泉」に関連してテレビ朝日の放送番組審議会は次のような答申を出している。
信じてしまう視聴者もいるということを念頭に置きながら、悪い影響が出ないよう配慮して制作している。今後も常識の範囲を考えながら慎重な番組作りを続けていきたい。
http://company.tv-asahi.co.jp/banshin/banshin470.html
この答申に明記されているように、テレビ局は信じてはいけない内容だと明確に認識した上で番組制作を行っているのだ。信じる方が馬鹿なのである。
コールドリーディング(cold reading)
コールドリーディング(cold reading)とは、外観を観察したり何気ない会話を交わしたりするだけで相手のことを言い当て、相手に「わたしはあなたよりもあなたのことをよく知っている」と信じさせる話術のことを指す。シャーロックホームズの推理と同じである。大体5分も話せばその人が神経質なのかおおざっぱなのか、内向的なのか外向的なのかかなりの部分が分かる。後はちょっとずつ相手の情報を引き出しながら、修正していけばよいのだ。
マルチプルアウト (multiple out)
そこで役に立つのがマルチプルアウト (multiple out)である。マルチプルアウトとはどのようにでも解釈できる曖昧な言い方のことを指し、ノストラダムスの大予言が典型例と言われる。血液型性格判断や占いの結果は非常に漠然とした曖昧な言葉で語られる。
次の性格分析はフォアの実験で利用されたものだが、あなたに当てはまっているだろうか?
あなたは他人から好かれたい、賞賛してほしいと思っており、それにかかわらず自己を批判する傾向にあります。また、あなたは弱みを持っているときでも、それを普段は克服することができます。あなたは使われず生かしきれていない才能をかなり持っています。外見的には規律正しく自制的ですが、内心ではくよくよしたり不安になる傾向があります。正しい判断や正しい行動をしたのかどうか真剣な疑問を持つときがあります。あなたはいくらかの変化や多様性を好み、制約や限界に直面したときには不満を抱きます。そのうえ、あなたは独自の考えを持っていることを誇りに思い、十分な根拠もない他人の意見を聞き入れることはありません。しかし、あなたは他人に自分のことをさらけ出しすぎるのは賢明でないと気付いています。あなたは外向的・社交的で愛想がよいときもありますが、その一方で内向的で用心深く遠慮がちなときもあります。あなたの願望にはやや非現実的な傾向のあるものもあります。
これを性格分析の結果だとして与えると、大部分の被験者が自分の性格を正確に描写していると回答する。上記の文章には「傾向がある」「するときもある」「ものもある」といった断定を避けた表現が多用されており、「他人から好かれたい」「内心ではくよくよしたり不安になる」「真剣な疑問をもつことがある」等誰にでも当てはまるようなマルチプルアウトな言葉で構成されていることがよく分かるだろう。
確証バイアス (confirmation bias)
確証バイアス (confirmation bias)は社会心理学における用語で、個人の先入観に基づいて他者を観察し、自分に都合のいい情報だけを集めて、それにより自己の先入観を補強するという現象である。人は、一度推論が正しいと仮定すると、それを補強する材料のみに目が行き、それを否定する材料を無視する傾向がある。自分に都合のいいところしか見ないのだ。実際、上記のフォアの文章の中で、一、ニ箇所は最初ちょっと違うかなと思ったところもあったのではないだろうか、それでも言われてみるとそういう面もないわけではないかと、無理矢理合わせにいかなかっただろうか。マルチプルアウトなキーワードを複数並べ、クライアントに当てはまってるようだと一旦信じさせれば、後は確証バイアスによって勝手に補強されるというわけだ。
このように、誰にでも該当するようなあいまいで一般的な性格をあらわす記述を、自分だけに当てはまる正確なものだと捉えてしまう心理学の現象はバーナム効果 (Barnum effect)と呼ばれる。究極の血液型心理検査はバーナム効果を実証するサイトである。簡単なアンケートと血液型を答えるだけで、性格の解析結果が記載される。すぐに終わるので是非一度試してもらいたい。常時9割以上の人が当たっていると答えるが、実は解析結果はランダム表示である。真実を知らされれば、この解析結果を信じるバーナム効果は、マルチプルアウトと確証バイアスによってもたらされていることが、よく分かるだろう。
ホットリーディングもコールドリーディングも封じられるとどうなるか。
菊池聡著『超常現象の心理学―人はなぜオカルトにひかれるのか (平凡社新書)』(1999年刊)では、心理学者の菊池聡氏がワイドショー番組の「最終決着、霊視は可能か! 霊能者vs心理学者」というコーナーで霊能者のK氏と対決した様子が記載されている。何年も前から同じようなことを繰り返しているということが良く分かるので一部を抜粋して紹介したい(強調はLM-7による。また横書きへの変更に従い漢数字の表記を修正)。
対決ではゲストの三瀬氏が予め人間ドックで詳しい診断を受け、その診断書をふまえて作られた20問の○×問題の正答率を調べるという形で行われた。○×で答えさせるのは、マルチプルアウトな回答を阻止することと、ショットガンニングにより後から回答を修正させない目的がある。
ここでは対決の席で初めて霊能者K氏に問題が示されたので、彼にホットリーディングを行う機会は無かった。さらに、ここではもう一人のゲストである妹尾氏に対照実験としてカンで回答をしてもらっている。このあたりさすが菊池氏、抜かりが無い。
「よろしいですか」と司会者。うなずくK氏。
「では第一問、三瀬氏は近視である」
即座にK氏は、「いえ、近視の気はありません。ですが左は白内障の傾向があるようで…」と同意をもとめるように話しかけた。
そこで私はストップをかけた。
「だめです。あくまでも○か×かどちらかで答えてください。三瀬さんも応じないで。会話なしでお願いします」
ホットリーディングを封じられた詐欺師は、コールドリーディングの活用に走る。白内障の、その傾向なんて、あるとも無いとも言えるマルチプルアウトな表現だ。同意を求めるように話しかけ、会話からより多くの情報を引き出そうとするのも、コールドリーディングの典型的な手段だ。ところがそれを菊池氏に封じられると、あわれ詐欺師はとたんに手も足も出なくなる。
これがK氏には意外だったらしい。いつものようにやればいいとでも思っていたようで、やや狼狽した雰囲気が見て取れた。
「よろしいですね」と司会者が念を押した。K氏としては、ここで引き下がることはできない。信者も家族も見ているのだ。
「×でよろしいですね」と司会者が確かめ、ボードの一問目に×をマジックで書き込んだ。あとで正解を覆うテープをはがせば当たり外れは一目瞭然となる。
マルチプルアウトな回答を許さない○か×かの二択は、詐欺師にとってはとても嫌なものだ。しかもそれが記録にとどめられてあとから正答率を正確に算出されると言うのも困る。会話を禁じられては、答えを聞き出すこともできない。すべてはカンに委ねられるわけだ。こんな調子で、「気管支炎を患ったことがある」「肝機能が低下している」「耳は高音が聞き取りにくい」と問題が続く。最後の問題が終わり、いよいよ決着のときが来る。
「では、正解を見てみましょう」
緊張のピークである。正解を隠すテープを上からはがしていく。一問目ははずれた。二問目ははずれ、三問目は……。見守っていたスタッフから溜息が漏れた。
二〇問中正解はわずか七問。偶然レベルすら下回る出来だ。K氏の顔は心なしか青ざめて見える。スタジオ中が重苦しい雰囲気に静まり返った。そこへ対照実験の妹尾氏が、
「あの……。私十二問できたんですけど」
これがとどめであった。
おわりに
ここで挙げたように、詐欺師の手口は非常にシンプルなものであり、それらが使えない状況を作ってやれば、彼らは手も足も出なくなる。詐欺師と相対する時には、ホットリーディングやコールドリーディングの入り込む余地がないか、気をつける習慣を付けておくのが良いだろう。
今回まとめ直そうとした理由は、アイデアノート ずばりよくあたる性格分析占いの作り方メモ『4つのトリック』というエントリにあった。このエントリでは、性格分析が当たる理由を分析されているが、マルチプルアウトや確証バイアスの特徴を良くつかんだ分析が成されている。
ところが、そのエントリに寄せられた最初のコメントが次であった。
なんと視野の狭い・・・
精度の良い占い師の所に言ったことがないのね・・。
TVで垂れ流される程度の俗悪番組を、占いと解釈してしまうとは。
なんと狭い人なのだ・・。
その精度の高い占い師が、ホットリーディングやコールドリーディングを使っていないと、この人は確信を持って言えるのか?と不安になった。このまとめに挙げたような現象、事例を知った上で、霊能師や占い師の言葉を信じるというのならもう止めはしない。ただ、知らずに盲信しているのであれば、老婆心ながらちょっと他の可能性を疑ってみては?と思うわけだ。