人類が月に着陸したことを信じない2割の人々への反論

LM-72007-05-09


「人類は月に行っていないと思う」人がなんと2割に達したオリコンの調査結果が話題になっている。1969年7月20日アポロ11号が成し遂げた人類初の月着陸という偉業を信じないとはいかなる理由だろうか。

よっぽど懐疑派が多いのか、JAXA第3話 人類は月に行っていない!?という専用ページをつくって、懐疑派の挙げる「月に言っていない証拠」に一つ一つ反論している。このサイトを一通り読めば、懐疑派の挙げる証拠の多くは、月環境が真空で地球環境とは異なる振る舞いをすることを理解していないことによる誤解によって生じたものであり、論理的に考えれば反論にこそ説得力があることに気づくはずだ*1

上記調査結果における懐疑派の第一理由「その後、一度も行っていない」という主張への反論は簡単だ。月に行くだけのコスト見合うメリットがないからである。アポロ計画全体での費用は1969年の貨幣価値で254億ドル(2005年の価値では1,350億ドル)であり、米ソの宇宙開発競争に勝つという政治的な理由がなければとても捻出できる金額ではなかった。アポロミッションが17号で打ち切られたのは、ソ連との宇宙開発競争に勝利を収めた後、多額の費用をかけて月に行く理由が無くなったからである。

第二理由「映像にリアリティが欠けている」という主張に対しては、アポロミッションのビデオと、映画「アルマゲドン」とどちらが本物ぽく見えるか聞いてみたい。実際にはアポロミッションのビデオの方がずっとリアリティがある(本物なのだから当たり前だが)。

たとえば、アポロミッションのビデオにおいてチリが舞い上がった後、地球上よりも早く落下する様子が撮影されている。月面上では空気がないためチリは浮かず、軽いチリも重い石もまったく同じ放物線を辿り同じ速度で落下する。また、月の重力は地球の1/6であるので、月面で舞い上がったチリより長く空中にとどまりそうな印象があるが、実際には重力加速度の影響よりも空気抵抗がないことの方が大きく影響するため、チリは地球よりも早く月面上に落下する。それでも地球上で石が落ちるよりはゆっくりとした落下となる。

こうした動きを地球上で再現するのは不可能だ。たとえ地球上に真空の領域をつくって、そこでチリを落下させたとしても、チリは非常に早く地上に落下することになる。そう、石と同じ速度でだ。ビデオ中のように、地球上の石よりも遅く、地球上のチリよりは速い速度で、チリも石も同じ速度で落下するような映像を撮影するのは至難の業だ。コンピュータグラフィックスが利用できない1960年代にこのようなシーンを地球上で撮影するのは不可能である。このシーンは実は確実に月に行ったといえる決定的な証拠なのだ

第三理由「テレビの検証番組を見て」という主張については、いくら何でもテレビを鵜呑みにしすぎだ。そもそも月着陸捏造論は、キリスト教根本主義思想の影響を受けて生まれた説であり、欧米ではMoon Hoax説として知られていた。キリスト教の影響が少ない日本では知られていなかったが、これが日本でも知られるようになったのは、テレビ朝日による「不思議どっとテレビ。これマジ!?」というイイカゲンなバラエティ番組による紹介であった。この番組は放送当初から問題視され、放送と青少年に関する委員会がテレビ局に回答要請を行い、テレビ局が科学的な反証を取り上げなかったのは不適切であったとの回答をしている。もっとTV朝日自らが言及したように、制作側は、信じてしまう視聴者もいるということを念頭に置きながら、悪い影響が出ないよう配慮して番組制作に取り組んでもらいたい。

月着陸があったと証明するための証拠としては他に何が挙げられるだろうか。

  1. アポロミッションが回収した381.7kgの月の石
    • 放射性年代測定法によると、一般に月の石は地球上の石に比べ遥かに古く、最も新しいものでも地球上に見られる最古の石より古い。おおよそ32億年〜46億年前。
    • アポロ11号クルーのアームストロング、オルドリン、コリンズにちなんでアーマルコライトと名付けられたチタンと鉄を含む新鉱物は地球では見つかっていない。
    • 後のソ連のルナ計画の無人探査機により回収された月の石(わずか326g)よりずっと大量で、かつ米ソが持ち帰った月の石の成分は同じである。アポロミッションが虚偽だとする場合、ソ連もその隠蔽に荷担していると言うのだろうか?
  2. アポロミッションにより月面に設置された地震
    • 観測により、月にも地震が発生することが発見された。
    • 1977年まで観測が行われ、12,558回の月震が記録され、その解析がなされている。
  3. アポロミッションにより月面に配置された反射鏡

まだ懐疑的な人は、アポロ計画陰謀論Redzero's Moonhoax - How Apollo moon landings really happenedを参照するとよいだろう。また、と学会による『人類の月面着陸はあったんだ論―と学会レポート』では事細かに解説がなされている。しかし、NASA関係者だけでも数万人が関わり、NASAだけではなく世界中の天文台アマチュア無線家などが追跡、無線受信を行い、世界中に映像が配信されたアポロ計画による月着陸を疑うぐらいなら、余罪が売るほどあるテレビ局が放映したバラエティ番組を疑う方がよっぽど理にかなっていると思うのだが。

*1:このページで挙げられている最初の、「アメリカ人の20%は、月着陸について疑いを持っている?」という質問に対する回答によれば、米国調査による懐疑派の割合は実際には6%程度であって、捏造論を信じる人が多くなっていると悲観することはないとされている。ところが、今回日本では20%も懐疑派が存在するということが明らかになってしまったわけだ。自分がこの目で確かめたわけでもないのに、発表を盲目的に信じることはできないと考える慎重派が2割いるというのならば安心なのだが。