快適な睡眠のために

LM-72007-08-10


筆者は1日中エアコンをつけっぱなしにした部屋にいるので、猛暑日とか言われても今ひとつピンとこないのだが、地球温暖化の影響か、ヒートアイランドか知らないが、子供の頃に比べて気温が上がり、それに伴って不快指数も上昇している気がする。

快適な睡眠をとるためにエアコンを利用している人は多いとも思うが、快適な睡眠を得るためには次のようにする方が良いようだ。

  1. エアコンは終夜つけっぱなしにするか、タイマー設定を3時間以上取るようにする。
  2. エアコンを利用するよりは、送風の方が深い睡眠が得られる。

以下、詳細について記載しておくので興味のある人はごらんいただきたい。なお、全体にわたり環境省平成16年度 ヒートアイランド現象による環境影響に関する調査検討業務報告書を参考にした。図表は本資料からの引用である。

エアコン利用時の注意点

夏期の睡眠時のエアコンの使用実態調査*1によると、就寝時にエアコンをタイマ設定して使用する人は約6割に上るようだ。一晩中連続して使用する人は22%あるという。就寝中の設定温度は25〜26℃が全体の42%を占めるという。

睡眠中は気温の変化の影響を受けやすく1〜2℃程度の室温変化でも快適な眠りを妨げ、特に夜間のエアコン断続運転ではより不快になることが実験により確かめられており、タイマー切れ後の暑さが原因で9割の人が途中覚醒を生じている。

研究グループではエアコンのタイマー使用による室温変化が終夜睡眠にどのような影響を与えるのかを調べた研究結果を報告している。久保氏らは(1)エアコンを終夜稼働させた場合、(2)タイマーを1.5時間に設定した場合、(3)タイマーを3時間に設定した場合、(4)就寝後1時間で2℃低下その後6時間で3℃上昇するよう運転した場合の4パタンで睡眠実験を行った。

その結果、タイマーを作動させた場合には睡眠が妨げられることがわかったという。特にタイマーを1.5時間に設定した場合には、睡眠リズムが崩れて、深い睡眠が出現するのを妨げることが明らかになったという。タイマーを利用するなら3時間の設定にしたほうがよいようだ。

エアコンを終夜運転させた場合には特に悪い影響は見られなかったが、最も快適な睡眠が得られたのは(4)のパタンで動作させたときのようだ(残念ながら通常エアコンは(4)のような動作をするようには設計されていない)。エアコンの終夜運転が必ずしも快適な睡眠をもたらすことでは無いことは久保らによる以前の研究*2でも明らかになっている。

上図は同程度の室温(25.5℃)における睡眠段階の変動を調べたものである。Wは覚醒を示し、図の下方に行くに従って睡眠が深くなる。クーラー稼働時(右)には深睡眠に入るまで2時間以上かかっており、安定した睡眠とは言えない。また心理的評価も低かったという。この図を見てもわかるように仮にタイマーを1.5時間に設定していると、深い睡眠に入るところで阻害されることがわかる。一方タイマーが3時間ならば、最初の深い睡眠を快適な状態で過ごすことができそうだ。

エアコンを利用するならつけっぱなしにするか、タイマー設定を3時間以上に設定するべきだろう。

送風の方が効果的

上図は暑熱環境とクーラー稼動環境における各睡眠段階の出現状況を示したもの*3で、最も左のWが覚醒を表し、s1からs4に行くほど睡眠が深くなる。sRはREM睡眠を示す。それぞれの条件は次の通り。

  • 暑熱条件(室温32℃、湿度80%:図中32/80)
  • 気流条件(室温32℃、湿度80%+送風:図中32/80W)
  • クーラー稼動条件(室温26℃、湿度50%:図中26/50)

これを見ると、暑熱条件において覚醒(W)が優位に長い以外は各条件下で大きな違いは見られない。電気代をかけてエアコンを稼働させたとしても、深い睡眠が得られるわけではないのだ。むしろ、エアコンが途中で止まって温度変化が生まれることの方が問題が大きいだろう。むしろ、夏期の睡眠環境改善のためにはクーラーの終夜稼動ではなく送風が効果的という結果が得られている。北堂*4によると微弱な気流を与えた条件では浅い睡眠が減少し、深睡眠が増加するとという。

結局、エアコンに頼るよりも扇風機や空気清浄器、天井プロペラ扇などで微気流を発生させてあげたほうが、深い睡眠が得られるということだ。そう考えると、昔の日本家屋は気流を取り入れる構造となっていたのに、最近の建物は気密性が高く気流が生まれる余地がない。我々は、エアコンという文明の利器を得て、昔の人よりも快適な環境を得ていると思っているが、睡眠という観点では、昔の気流がある家屋で就寝していた人の方が、快適な睡眠を得ていた可能性があるというわけだ。

最新のエアコンではこうした研究成果を元に気流にこだわっているものが多いようだが、可能ならば部屋の中に気流が生まれるよう工夫をしてみるのも良いだろう。

*1:北堂真子, 夏期の睡眠時におけるエアコンの使用実態調査, 家政学研究 42-1 pp.32-33, 1995

*2:久保博子ら, 夏期における室温変化が終夜睡眠時の人体に及ぼす影響, 人間−生活環境系シンポジウム報告集, 2004

*3:都築和代, 暑熱環境における気流が青年の睡眠と体温調節に及ぼす影響, 日本建築学会学術講演梗概集, 2004

*4:北堂真子ら, 暑熱環境下の夜間睡眠における微気流の冷却効果, 人間工学 第40巻特別号, 2004