水切りで世界記録を目指すには

誰でも一度は水面に石を投げて跳ねる回数を競う水切り(石跳ね)をやった記憶があるだろう。水切りの世界記録は2002年に樹立された40回という数字だったが、このほど米国ペンシルバニア州在住のRussell Byars氏が51回を達成し、世界記録を塗り替えたそうだ。Byars氏は水切り大会(そんなのがあるのか)のアマチュア部門で2年連続優勝、2002年にはプロ競技部門(水切りにプロがあるのか!)で2位となったこともある実力派で、世界記録を樹立するにはやはりそれなりの努力と経験が必要なようだ。

Byarsさんは身長188cm、体重115kgと大柄。表面が滑らかで直径8-10cmの丸い石を好み、親指と人差し指で石の縁を握って、投手のサイドスローの要領で思い切り投げる際にできるだけ回転をかけるようにしてフォロースルーする。

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水切りの要領だが、なるべく平べったい石を水面に対して小さな角度で突入させるようにするほうが良いらしいということは、水切りの経験者ならだいたい把握していることだろう。Byars氏の談によれば、それに加えて回転が大きな要因を占めるようだ。

実はこの水切り(stone-skipping)、研究者によって科学的な考察が行われ、Natureに論文が掲載されている。下の図1は論文の引用。

Lydéric Bocquetは、半径R=2.5cm、厚さe=2.75mmのアルミニウムの円盤を様々な条件を変えて水面に投射し、それを高速度カメラで撮影することによって、水切りに最適な石の姿勢と入射角を導き出した。主なパラメタは次の通りである。石の回転速度Ω、石の水中への入射速度U、石の水面に対する迎え角α、衝突角度β。この内、回転速度Ωはよく知られているようにジャイロのごとく石を安定させる役割を担っており、ある程度の回転数が必要となる。この研究では回転数は固定にしてその他のパラメタの最適値を探っている。




図1aは高速度カメラに捉えられた水切りの様子である(6.5ms間隔)。水に入射した石は姿勢を保ったまま一度水面に半分ほど没し、そのまま上空に跳ね出していることが分かる。ムービー

図1bは横軸に石の水面に対する迎え角α、縦軸に石の入射速度Uを示している。石の水中への入射速度Uは小さい方が水没せず好ましいが、αが20°程度がUが最小になっていることが分かる。一方、図1cでは、横軸が同じく石の水面に対する迎え角α、縦軸が衝突角度βを表している。αが15〜45°の範囲でないと水切りが発生せず、やはりここでも20°という角度が最も水切りの成功率が大きくなる角度であることが分かる。

最後に図1dは入射速度Uと衝突角度βを様々に変えながら、水没時間τを計測したものである。水没時間が短い方が水の抵抗を受けず水切りの回数が多くなると考えられるが、ここでも迎え角αは20°程度が最適であることが分かる。

結果として、水切りにおいて最適な水面に対する迎え角は20°であると言える。後はなるべく速く、なるべく高回転で石を投げることができれば、世界記録樹立の可能性がぐっと高まるという訳だ。ピッチングに自信のある人はギネスに挑戦してみても良いだろう。