中国になめられている日本外交

朝日新聞が伝えているように、北京で1日に開催された日中経済対話でまとめられたプレス・コミュニケを中国側が勝手に書き換えて公表したことが明らかになった。二国間で合意した文書の内容を一方的に変更して発表するのは外交上考えられない暴挙だ。

報道から推測されるプレス・コミュニケの削除部分は次の通り。

II. 双方のマクロ経済にかかわる問題

 双方は、日中経済の相互依存関係が深化し続け、互いになくてはならない存在となっている現状を認識し、以下のとおり、双方のマクロ経済政策に係る議論を行った。

1.双方は、両国経済が世界経済に及ぼす影響の大きさにかんがみ、世界経済に対して、責任ある経済政策運営を行うことを確認した。

2. 中国側は、過剰流動性によってもたらされた日本のバブル経済等の経験及び教訓が参考に値すると認識した。日本側は、人民元レートの柔軟性を向上させるとの中国側の方針を歓迎する一方で、人民元の実効為替レートのより速いペースでの増価を許容することに向けた中国の努力を期待する旨表明した。

3.中国側は、国内消費・投資・輸出の三者のバランスのとれた発展を促進する必要があることを強調し、そのための関連措置を紹介した。中国側は、この分野における日本の経験が有益であると認識した。双方は引き続き交流を強化していくべきとの点で一致した。

外務省: 第一回日中ハイレベル経済対話― プレス・コミュニケ ―

IV. 日中間の貿易・投資にかかわる問題

(その他)

12.双方は、第三国援助にかかる日中対話実施の意義を確認し、今後とも対話を継続していくことで一致した。

13.双方は、農業協同組合、農業技術普及等の農業分野における協力を評価するとともに、その更なる推進に一致した。

14.日本側は、中国がエネルギー憲章条約に参加することの意義を指摘した。

15.双方は、「日中経済貿易協力に係る中長期ビジョン」を公表した。

16.双方は、「物流・流通報告書」の共同編纂を継続することで一致した。

外務省: 第一回日中ハイレベル経済対話― プレス・コミュニケ ―

人民元の為替レートは経済実態に比して著しく低く抑えられているとして国際社会の批判が根強い。一方で、エネルギーに関する貿易の自由化や投資の保護について定めた国際ルールであるエネルギー憲章条約については中国は批准しておらず、エネルギー問題に掛かるリスクを軽減する上でも、早期の批准が求められている。削除された部分はいずれも日本側が中国側に努力を求めた部分であり、自国に不利な部分を意図的に隠蔽しようとしたらしい。二国間の外交レベルで合意した内容を一方的に改変する行為は、両国の信頼関係を損ねるものであり、決して許されない行為だ。

産経新聞によれば、6日および7日に日本は中国側に抗議、訂正を申し入れたが、「その後の国内での批准手続きで、今の文書になった」と訂正に応じる姿勢を見せていない。さらに、毎日新聞の続報によれば、日本側の抗議に対応して、中国商務省の呂克倹アジア局長は緊急記者会見し、「(日中)双方の(正式の)共同文書でも共同コミュニケでもなく、それぞれが会合の内容を紹介した文書」と指摘、内容に相違があるのは正常であると主張した。

日本側の言い分を信じるのなら、中国は二国間で一旦合意した内容を、相手側の了承を得ずに一方的に改変し、虚偽の発表を行ったことになる。その上で、とりまとめた文書は、それぞれが独自にまとめた文書であって合意内容を記載したものではないと開き直っているわけだ。中国の姿勢にも呆れるが、中国にこんな暴挙を許す日本外交も情けない限りだ。中国側は合意文書を一方的に改変したとしても、日本側の反論は抑えつけられると高をくくっている。日本は対等の立場で交渉していると信じているのかも知れないが、中国は明らかに日本を見下している。中国がアメリカ相手に同じことをやるだろうか。

本件に関して毅然とした態度で中国側に修正を求めるのは当然だが、日本外交のあり方に関しても一石を投じたことは間違いない。相手国と対等な関係で議論を行い、実りのある成果を得るためにも、うやむやに終わらせることなく、適切な対策がなされることを期待したい。