UFOという妄想を信じるイタい政治家たち

日本国民を代表する政治家、それも要職にある者がこれほど馬鹿だとは思わなかった。UFOのような妄想の産物を信じ、あまつさえ、そんな非現実的なモノへの対処を部下に指示するとは。

朝日新聞が『町村長官「UFO絶対いる」 政府公式見解に「異議』として伝えたところによれば、町村官房長官は「私は個人的にはこういうものは絶対いると思っている」と述べ、「そうじゃないと、ナスカ(南米ペルー)のああいうの(地上絵)、説明できないでしょ」と根拠を示したという。

これだけ聞くとタダのイタい人だが、発言詳細を読むと、冗談としてのニュアンスが強く、UFOの存在を盲信している救いようのないビリーバーとはちょっと違うのかなと言う気もする。

【UFO】
 −−先日民主党参院議員から未確認飛行物体(UFO)に関する質問主意書が出され、本日、政府としては存在の確認していないなどとする内容の答弁書が出されたが、この質問の内容や答弁書の内容について長官の考えは
「うーん、まあ、あのー、政府のそれは公式答弁としてはですね、UFOの存在は確認していない。だから、対策なども特段検討していないという極めて紋切り型の答弁しかないだろうと思いますけれども、あのー、私は個人的には、こういうものは絶対いると思っておりまして。個人的な、個人的な意見でありまして、政府答弁は政府答弁であります。そうじゃないと、いろんなところにあるね、ナスカ(の地上絵)のああいう、説明できないでしょ。と、思っているんですけれどもね。ま、ちょっと、これ以上広げないようにします。どうも。毎回、こういうご質問をお願いいたします」

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/dompolicy/110603

UFOは未確認飛行物体の略であり、世界中で多数の目撃例がある*1。ただし、それらは流星や惑星などの自然現象、飛行機や気球などの人工物等、正体が確認されれば何でもないものばかりだ。もちろん、その中に地球外から飛来した宇宙人の乗り物はただの一つもない。ナスカの地上絵を説明するのに宇宙人の存在を仮定する必要がどこにあるのか*2

地球外の天体に知的生命体が存在する可能性があるとすることは、科学的推論として全く正しい。2007年4月25日付エントリ『地球外知的生命体の存在確率 』で紹介したように、近年の惑星科学の知見をドレイク方程式(Drake equation)に適用すれば、この宇宙に知的生命体は何百万と存在しても不思議ではないことが導かれる。

しかし、彼らが恒星間飛行をして地球までやってくるというのは、著しい論理の飛躍を含んでおり、もはや科学の領域から外れてしまう。たとえこの宇宙に100万の知的生命体がひしめいていたとしても、それぞれの平均距離は500光年にも達する。光の速さで500年かかる距離をどうやって移動するのか。宇宙は物理的な邂逅を期待するにはあまりに広大なのだ。

よく誤解されるが、SETI(Search for Extra-Terrestrial Intelligence:地球外知的生命探査)は、地球外の知的生命体の発する信号を検出しようとするプロジェクトで、世界中の研究者が従事している真っ当な科学の一分野である。2007年5月30日付エントリ『もし宇宙人からの信号を受信したらどうすべきか?』では、地球外知的生命発見後の活動に関する諸原則の宣言を紹介したが、光の速度で移動する電波ならば将来運が良ければ地球外起源の信号を受信できる日も来るかも知れない。しかし、宇宙人と遭えるかと言えば、話しは全く別だ。少なくとも現時点において現実の脅威を想定する必要性など全くない。

ITmediaが伝えたところによれば、石破防衛相は存在しないと断定するだけの根拠をもっていないとして、UFOが飛来したときの対処方法について検討することを表明した。さらに、朝日新聞の続報によれば、航空自衛隊トップの田母神俊雄航空幕僚長は大臣の発言を受けてこれからUFOへの対処を検討することになるとの見通しを示した。

石破茂防衛相が20日、対処を考えると発言したことを受けてのコメントで、「大臣が言っているから。的確な文民統制の下、粛々と活動したい」とした。

 田母神空幕長によると、空自機の緊急発進(スクランブル)で、(UFO)を発見したことはなく、空自の対処能力については「UFOの能力が分からないから、答えられないが、漫画に出てくるような飛び方をするなら、(対処は)難しいだろう」と述べた。

http://www.asahi.com/politics/update/1221/JJT200712210007.html

それが現実の脅威なのか妄想の産物なのか見分けられない人材がトップにいると余計な仕事が増えて大変である。現場のご苦労が忍ばれる。

*1:1947年に発生した世界初の空飛ぶ円盤目撃事例として知られるアーノルド事件が有名だが、彼は受け皿のような飛び方をする物体を見たと主張しているだけで、それが円盤状だったとは一言も言っていない。ところが報道の過程で空飛ぶ円盤という概念が一人歩きし、これ以降世界中で空飛ぶ円盤が多数目撃されることになった。UFOは円盤状であるという誤った固定観念が世界中の人の頭にすり込まれたわけだ。

*2:ナスカの地上絵の研究で知られるMaria Reicheによれば、ナスカの地上絵は小さな絵がまず描かれ、それをロープを使って拡大して描かれたモノらしい。実際、巨大な絵の近くにはロープを渡したと考えられる杭や小さな原画が複数見つかっている。付近から発掘された土器の意匠にも地上絵との共通点が見られ、地上からは絵の意匠を知り得ないと言う主張を否定する。