役に立つか分からないものに1兆円

LM-72007-12-26


産経新聞が伝えたところによれば、イージス艦こんごうが米ハワイ・カウアイ島沖での海上配備型迎撃ミサイルSM-3の迎撃実験を成功させたという。今後、米国向けミサイル迎撃に関する集団的自衛権の問題をどう解決するか日米の情報共有や作戦をいかに効率的に実行するかといった課題に対し、日米間の緊密な協議が必要になるとしている。

NHKニュースでは米本土へのミサイル攻撃の迎撃という文脈で集団的自衛権の問題を取り扱っていたが、射程500kmのSM-3では米本土を狙う大陸間弾道ミサイルを迎撃することは不可能である。SM-3には高度500km程度までを飛行する弾道ミサイルの迎撃能力が付与されているが、大陸間弾道ミサイルは高度1,000kmを飛行する上、北朝鮮から発射した場合は北海道の遙か北方を通るため、SM-3の出る幕はない。米本土やハワイを狙うミサイルを迎撃しようと思っても無理な話だ。

ミサイル迎撃(MD: Missile Defense)は次の3つのフェイズで行われる。

最初はブースト段階(Boost phase)で、ミサイルの上昇時にレーザー兵器でミサイルの推進剤にエネルギーを集中させ、自爆させる方法が検討されている。ミサイルが低速なことから迎撃は比較的容易とされるが、迎撃可能な位置にいるかどうかという問題がある。中国の奥深くから発射されたらいかなレーザー兵器といえども射程外だ。

次は慣性飛行段階(Mid-course phase)であり、ミサイルが宇宙空間を慣性飛行している時に迎撃ミサイルで撃ち落とすことが想定されている。今回迎撃実験に成功したSM-3は慣性飛行段階に利用される。射程1500km程度のミサイルでも秒速4kmを超えるスピードで宇宙空間を飛行する上、分離弾頭等を用いて偽装されると対処が格段に困難になる。アメリカで行われた過去の迎撃試験ではターゲットのミサイルに位置を把握するためのマーカーがつけてあったことが明らかになっており、有事にまともに機能するのか不透明な部分はある。

最後は再突入段階(Terminal phase)で、宇宙空間から大気圏に再突入し標的に向かって降下する段階である。ここで利用されるのがペイトリオットミサイルPAC-3であり、首都圏を中心に配備が進められている。湾岸戦争で成果が誇大に報告され一躍有名になったペイトリオットミサイルだが、実際の迎撃成功率は極めて小さくほとんど役に立たなかった。PAC-3はミサイル迎撃用に設計されたシステムであり、湾岸戦争で利用されたPAC-2とは異なるが、高速で飛来するミサイルを時間的猶予(30秒以下)がほとんど無い中で迎撃するのは並大抵のことではない。また、PAC-3の射程はわずか20kmに過ぎず、点を防衛する用途にしか利用できない。広い国土をペイトリオットで防衛することはできないのだ。

SM-3搭載のこんごうが海自佐世保基地に帰港すれば、航空自衛隊入間基地などに配備が始まっているペイトリオットミサイルPAC-3と合わせて、二段構えのミサイル防衛体制がようやく整備される。SM-3搭載のイージス艦2艦で日本全土をカバーできる能力をもつとされており、防衛省では2010年までに、イージス艦4隻へのSM-3の搭載と、大都市周辺の16高射隊へのPAC-3の配備を完了する予定だ。

ミサイル防衛計画には8000億から1兆円もの予算が投入される予定である。それがカタログ通りの性能を発揮するのか、それとも張り子の虎か、有事になってみないと分からない。個人的にはそれを確かめざるを得ない日が永久に来ないことを願っているが。