かぐやの月面映像が偽物とのたわごとについて


頭が痛くなる話だが、『NHKのハイビジョンの「かぐや」からの月面映像は、偽物らしい。』なんて妄言が性懲りもなく出ているようだ。はてなブックマークを見ると、みんなネタとして楽しんでいるらしい。

出所は副島隆彦氏の掲示板。『人類の月面着陸は無かったろう論』というトンデモ本を出して、批判を浴びた常葉学園大学教育学部特任教授である。副島教授が引用するかぐや映像捏造説は惑星テラ見聞録で披露されている。

 何と、なんと、何と、なんと、何と、かぐやハイビジョンのどちらにも夜というか黒い背景の宇宙に星がひとつも浮かんでいない、つまり、写っていませんでした。
 これは、有り得ないことです。

 その証拠画像として、今日の地球画像2007年11月11日号*1国際宇宙ステーションから見た地球の背後の宇宙を見てください。
 見事に星々が写っています。これは、NHKのハイビジョンカメラよりも途轍もなく安い私たちが使っているようなバカチョンのデジタルカメラで撮ったものです。

 考えられる言い分は、画面が小さいし、画質を落としたファイルだからだとなりそうですが、静止画の拡大にも写っていないということはどういうことなんでしょうか?

 数万円のデジタルカメラの方が、数千万円あるいは億円かもしれないハイビジョンカメラよりも性能が良いということなんでしょうか?

惑星テラ見聞録の更新情報: アポロ以来の「重大映像疑惑」・かぐやハイビジョン映像は本物なのか?

なぜ彼らが「かぐや」の月面映像が偽物であると主張するかと言えば、ハイビジョンで撮影された月面映像の背景に星が全く映っていないからだという。JAXAのプレスリリースの映像を見ると、地球の背景は真っ黒で一つの星も映っていないことが分かる。これをもって捏造だと主張しているらしい。

背景に星が映らないのは当然である。

背景に星が映っていないという話は、2007年5月9日付エントリ『人類が月に着陸したことを信じない2割の人々への反論』に記載したアポロの月着陸捏造論(Moon Hoax説)でも主張されていた、いわばおニューの古着というヤツで、すでに使い尽くされて論破されている話だ。

JAXA月の雑学にもその疑問に答えるエントリがあり、科学の立場から考えると恥ずかしくなるくらいあさはかな主張だとした上で次のように解説している。

要は、仮定された条件下で撮影された月面写真は、常に明るい被写体を撮影するようにセットされているわけです。しかし、暗い空に見える星々のみかけの明るさは、非常にかすかなものです。露出時間が短かい場合、もしくは、光量を絞りによって落している場合、星の像がフィルム上に焼付けられるだけの十分な時間がないことになります。つまり、月の空が常に暗いとか、月には空気がないとかいうような事は、なぜ月面写真に星が写っていないのかという理由に起因しているわけではまったくなしで、もっと単純にいってしまうと、ただ写真の露出時間が短すぎたというのが、月の空の写真に星が写っていないことの理由なのです。

http://moon.jaxa.jp/ja/popular/story03/stars.html

明るい月面や地球に露出をあわせると、暗い星の光は写らない(逆に星の方に露出をあわせると月面や地球は白く飛んでしまう)。実際とても明るい物体と暗い物体を同時に撮影するのは極めて困難なことだ。今回は地球を写すために地球の明るさにあわせてカメラが設定されたため、星が映らなかっただけの話である*2

また、証拠画像として挙げられている、NASA提供写真S94-47164(右に一部切り出し)を見ると、確かに明るい地球の背景に星が映っている。ところがNASAサイトにおけるこの写真の説明を見ると次のような記載がある。

S94-47164 (December 1994) --- A computer generated scene gives the perspective of a crewmember looking through the Cupola on the International Space Station (ISS). Several of the Great Lakes help to form the backdrop for the scene.

Photo-s94-47164

"A computer generated scene". すなわちNASA画像はCGである。CGとかぐやの映像を比較して、かぐや映像がCGと矛盾するからかぐやは偽物だと主張されているわけだ。いくらなんでもトホホな主張と言わざるを得ない。ちなみに、このCGは2009年12月に打ち上げられるスペースシャトルISSに運ばれる予定となっているCupolaモジュールからの眺めの想像図である。NASAのサイトには地球の背景に星が映っていない大量の写真がアップされているというのに、嬉々としてたった1枚の誤りを含むCGを証拠として持ち出すところが何とも微笑ましい。

*1:Web魚拓

*2:あと、理由とは関係がないが、ハイビジョンカメラは1920x1080のたった200万画素に過ぎないことをご存じないのだろうか