松下が捨てるブランド価値

既報のとおり、松下電器産業株式会社は10月に社名をパナソニック株式会社に変更することを発表した。ナショナルというブランド名は廃止され、社名に松下ないしはナショナルが付くグループ会社についても全てパナソニックに変更されるという。

松下電器はブランド変更に関する費用を300億円と見積もっているが、従来松下電器の名で行なってきた広報活動、ナショナルブランドへの宣伝投資などが合計200億円あり、それが今後はパナソニックブランドに全額投入できることから、それほど大きな損失では無いとしている。

松下電器という社名、ナショナルというブランド、双方とも日本において広く浸透したブランドであっただけに今回の発表は驚きを持って受け取られている。次の表は日経BPコンサルティングによるブランド・ジャパン2007からの抜粋であり、左側が消費者によって評価されたコンシューマー市場(B2C)のブランドで、右側がビジネスパーソンによって評価されたビジネス市場(B2B)のブランドである。今回赤で示した松下、ナショナル名のブランドは廃止され、青のパナソニックだけが残ることになる。

順位ブランド(B2C)偏差値順位企業ブランド(B2B)偏差値
1TOYOTA トヨタ自動車84.71TOYOTA トヨタ自動車103.1
2Google グーグル82.42HONDA 本田技研工業94.2
3Panasonic パナソニック82.13SONY ソニー89.2
4Canon キヤノン81.54松下電器産業85.2
5SONY ソニー81.15松下電工82.6
6Disney ディズニー80.86SUNTORY サントリー82.2
7Nintendo 任天堂79.97SHARP シャープ79.8
8NINTENDO DS ニンテンドーDS79.88Canon キヤノン79.6
9Windows79.59Nintendo 任天堂77.7
10National ナショナル78.810KIRIN キリンビール75.8
11KIRIN キリンビール78.510NISSAN 日産自動車75.8
12STUDIO GHIBLI スタジオジブリ78.412Apple アップルコンピュータ75.3
13MOS BURGER モスバーガー78.313Asahi アサヒビール74.0
14SUNTORY サントリー78.214Microsoft マイクロソフト73.7
14MUJI 無印良品78.215OLC オリエンタルランド71.2
16SHARP シャープ76.716IMPERIAL HOTEL 帝国ホテル71.1
17松下電器産業76.317Google グーグル70.8
187-ELEVEn セブン-イレブン75.618NTT DoCoMo NTTドコモ70.3
19CUP NOODLE カップヌードル75.219TOSHIBA 東芝69.4
20キユーピー74.820SoftBank ソフトバンク68.9
20Coca-Cola コカ・コーラ74.821RAKUTEN 楽天68.5
22Kao 花王74.022JAPANET TAKATA ジャパネットたかた68.3
22TOKYU HANDS 東急ハンズ74.023HITACHI 日立製作所68.1
22Haagen-Dazs ハーゲンダッツ74.024IBM アイ・ビー・エム67.4
22RAKUTEN 楽天市場74.025ヤマト運輸67.1
26Meiji 明治製菓73.826NISSIN 日清食品67.0
27フジテレビ73.627McDonald's マクドナルド66.7
28YAHOO! ヤフー72.628SHISEIDO 資生堂66.6
29STARBUCKS COFFEE スターバックスコーヒー72.429Kao 花王66.4
30NISSIN 日清食品72.330Yahoo ヤフー66.3
31au エーユー72.131au エーユー65.9
31EPSON エプソン72.131BRIDGESTONE ブリヂストン65.9
31HONDA ホンダ72.133ANA 全日本空輸65.8
34iPod72.034AsahiKASEI 旭化成65.2
35KAGOME カゴメ71.635Nikon ニコン64.7
35ヤマト運輸71.636フジテレビ64.5
37Asahi SUPER“DRY” アサヒスーパードライ71.2377-ELEVEn セブン-イレブン64.2
38Asahi アサヒビール70.638KDDI63.7
39House Foods ハウス食品70.238Coca-Cola コカ・コーラ63.7
40Microsoft マイクロソフト69.938FUJIFILM 富士フイルム63.7

この評価によれば、コンシューマー市場ではパナソニックというブランド名はナショナルや松下というブランドより評価されているが、マイクロソフトWindowsやシャープに匹敵するブランドが消失することが分かる。加えてビジネス市場ではソニーに匹敵するブランドが2つも消失する。自社のブランド価値向上のために血の滲むような努力をしている他社の中には、なんともったいないと羨むところもあるだろう。

ブランド廃止に伴う損失が実質どの程度になるのか見当が付かないが、変更の理由について松下電器は次の理由を挙げている。

  • 従来、松下、パナソニック、ナショナルの3つのブランドがあり、ブランド力が上がりにくかった。
  • 松下という名前に若干ローカルなイメージがある。
  • グローバルエクセレンスを目指すための前向きな決定である。

たしかに3つものブランドが混在する状況はブランド価値向上の観点から言えば不効率だが、トヨタもホンダも日本名でグローバル企業としての地位を確固たる物にしているだけに、松下にローカルというイメージがあるという分析はちょっと残念だ(たしかに音節の数はトヨタやホンダに比べて多いが)。

松下電器という名前は言うまでもなく創業者の故松下幸之助氏由来の物だ。今回の社名変更により創業者一族の名前が外れ、創業者の理念が失われるのではないかと懸念する向きもあるようだ。名前が変わったからと言って、社風ががらりと変わると言うことにはならないと思うが、創業者の姓を社名に残しておきたいのであれば、画期的な解決策があるので最後に提示しておきたい。

松下幸之助は10月をもって、パナソニック幸之助に改名いたします。