ほのかちゃんを救う会は詐欺なのか?

ほのかちゃんを救う会両親が私財を削らず今の生活を維持したままドイツに渡り心臓移植を行うと言う方針を打ち出し、「私財削って借金してでも治療させるのが普通の親ではないか」と物議を醸した団体だ。もっとも筆者は2007年11月29日付エントリ『○○ちゃんを救う会の説明責任 その2』で示したように、両親が手術後にかかる費用も何とか工面したいと思うのは当然であるし、それを正直に救う会の方針として明記した姿勢は不器用だが好ましいと感じた。

しかしながら、残念ながらどうも状況がおかしいようだ。以下に救う会の行動についての疑問点を挙げる。これらの点について一刻も早く妥当な説明がなされることを強く望みたい。

:2008年9月14日に最下部に追記したとおり、現時点においては、「ほのかちゃんを救う会」は善意の元で管理、運営されていると思われる。本エントリで取り上げたように、多額の金額を扱うにしては運営に甘さが見られるが、素人がボランティアで行っていることを考えれば、仕方がない面もあるだろう。今後ともより透明性の高い情報開示が随時行われ、適切な運営が行われることを強く望む。

必要なかった心臓移植

そもそもほのかちゃんは拡張型心筋症と診断され、心臓移植以外に治療法はないと説明されてきた。ところが、いざ募金が集まって渡独し、現地の医師の診断を受けた結果、現時点における心臓移植の選択は適切でなく、僧帽弁修復の手術を行うことが妥当であるとの結論に達したらしい。

12日(火)に行われた教授や医師との話し合いで、穂香の心臓は拡張型心筋症の心臓に間違いないが、その他に左側の弁(僧帽弁)が拡張に伴い正常に閉鎖できておらず、まず、その弁を修復するのが望ましいということになりました。その手術で完全に心臓機能が正常になるとは限らないが、長い待機期間を考え、待機中に亡くなってしまう可能性があることを考えると、今行った方が良いと判断しました。また、近江八幡医療センターの先生方のおかげで、穂香の心臓機能は徐々に改善し、ベルリンに着いてからもさらに改善傾向にあります。そのため、こちらのネットワークに心臓移植希望者として登録してはいただいたのですが、緊急性の低い移植者登録になったので、待機期間が非常に長くなる(年単位)ことも同時に伝えられました。

http://www6.ocn.ne.jp/~s-honoka/

そもそも会のQ&A「Q.移植以外に治療法は無いのですか?」に書かれているように、ほのかちゃんが心臓移植が必要になったのは、内科的治療により病状の改善が見られなかったからという説明であった。しかしながら、上記の両親の説明では、国内の治療により心臓機能の改善が認められていたと明記されている。それならば、心臓移植は必ずしも必要ないことが渡航前の段階で判明していたのではないか?という疑念が生じる。

心臓移植の要否検討のプロセスに関して不透明感が否めない。

募金の規約外利用の正当性

救う会の規約第8条によれば、『募金は心臓移植のための医療費、渡航費、現地滞在費、事務局経費にあてる』とあり、僧帽弁修復手術は明らかに規約外の用途である。しかしながら、両親は手術費用に募金を充てることを選択した。

私どもだけの判断で誠に申し訳ありませんが、私たち夫婦は穂香が今本当にベストな状態で自分の心臓のまま生きることが出来るなら・・・穂香が元気になってくれることだけを考えた私たちは、皆様よりいただきました募金を使わせていただくことを決意いたしました。心よりお詫び申し上げますと共に感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました。

http://www6.ocn.ne.jp/~s-honoka/

僧帽弁修復手術なら日本で無料でできる

拡張型心筋症は特定疾患治療研究事業の対象疾患のひとつであるため、医療費の患者自己負担分について公的な助成(公費負担医療)を受けることができる。すなわち、国内で拡張型心筋症の治療の一環として行われる僧帽弁修復手術は無料で受けることができる可能性がある*1。さらに、身体障害者一級の認定要件を満たしているので、重度身体障害者医療補助の対象でもある。日本で無料で受けることができる手術を、募金を充ててドイツで受ける必要があったのか疑問が残る。ドイツにおける滞在費もかなりの負担となるはずだが、それについてはどう処理されるのだろうか。

補助人工心臓の入手性

両親はドイツで僧帽弁修復手術をうける理由を次のように説明している。

この僧帽弁を治す手術は日本でも出来る手術です。しかし、手術の後に心臓機能が悪化すると、小さな子供用の補助人工心臓がないので、日本では一か八かの手術と考えられています。つまり、小さな補助人工心臓が使用でき、しかも心臓移植が可能なベルリンでのみ、行うことができる手術であることも、日本の先生から聞いていました。

http://www6.ocn.ne.jp/~s-honoka/

日本では小さな子供用の補助人工心臓が無いので、僧帽弁修復手術をドイツで受けたほうが安全だという主張だ。しかし、ほのかちゃんを救う会では、そもそも募金の内訳として補助人工心臓ポンプ交換手術費を3400万円計上しており、それには次の説明がある。

渡独後ドナー待機中に行うポンプ交換手術費用です。日本からの装置の輸入諸費用、術前術後のICU利用などの費用に充てられます。(ドナー待機を3ヶ月と想定)

http://www6.ocn.ne.jp/~s-honoka/budget.htm

元々は補助人工心臓は日本から購入する予定だったようだが、日本に無いものをどう購入する予定だったのだろうかテルモDuraHeartのように海外でしか認可が下りていない国産補助人工心臓の利用を想定したものである可能性があるが、DuraHeartはほのかちゃんのような乳幼児に適用可能な器具ではなく、他メーカーにおいても乳幼児に適用可能な補助人工心臓は知られていない。本当にドイツにおける手術が妥当であったのかどうかはよくわからない。

未だなされない会計報告

そして何よりもまずいのは、3月5日に退院して早3ヶ月が経とうとしているのに未だ会計報告がなされていないという事実である。会計報告のページには募金総額が109,684,539円であることが記載されているのみでその他の費用科目は空欄のままである。

* 金額空欄は現在集計中または、書き込み予定欄です。

(会計報告:平成20年3月20日現在 / 単位:円)

  内 訳

金 額

備   考

収 入 募金総額

109,684,539 円

 
支 出 渡航  本人及び同行する家族・医師・看護士の航空券、保険料等
  現地滞在費  本人及び同行する家族が使用した食事・水道・光熱費等の 

 現地での滞在費用
  医療費  デポジット費用及び現地追加医療費
  機材運搬費  医療機材及びストレッチャーの輸送費用等
  機材費用  補助人工心臓ポンプ費用
  事務経費  上記以外の必要経費
  支出合計  
収 支 残高 109,684,539 円  
皆様からいただいた貴重な募金は、上記の通り使わせて頂きました。

http://www6.ocn.ne.jp/~s-honoka/expend.htm

筆者は先のエントリにおいて、弱者を切り捨てることでトータルコストを削減する社会において、弱者に多大なコストを掛ける救う会の活動は公明正大であってほしい、善意を基盤とする活動が成立すると言うことを示し、弱者を救いたいと考える多くの人々の受け皿となり得ることを自らの手で証明しなければならないと記した。そのためには、正確で十分な情報開示を行い、説明責任を果たす必要がある。

残念ながら今の状態ではほのかちゃんを救う会は説明責任を果たしているとは言えず、逆に救う会に対する疑念を増幅しかねない。後に本当に善意から同様の救う会が発足したとしても、悪例があれば、十分な善意が集まらず、救われるはずだった命が救われないということも起こりうる。一刻も早く適切な形で説明責任が果たされ、剰余金が正しく使われることを願う。

追記(2008年9月14日)

8月25日にほのかちゃんは両親と共に無事帰国したことが公式ページにて報告され、会計報告も更新された。手術が上手くいき、ほのかちゃんが命を長らえたことを喜びたい。両親と彼らを支え続けたスタッフの今までの努力も報われたことだろう。本当に良かった。

一方、募金の管理についてというページにおいて8,000万円を越える募金の残高の扱いについての会の方針が開示されている。それによれば、ほのかちゃんの成長に合わせ今後必要とされるときまで募金はプールし、ほのかちゃんが15歳になったとき、または、募金プールが不必要になったと判断されたときには、同じような病気を抱える人々への基金とするそうだ。

余剰金の使途について、規約第11条では次のように記載されている。

余剰金が発生した場合それらは、ほのかちゃんの術後の経過が安定するまでの間(原則として3年間)凍結し、安定後基金を設立し他の移植を必要とする患者の為に役立たせるものとする
但し、医師との相談により凍結期間の延長もありうる

ほのかちゃんを救う会規約11条:余剰金の使途

今回凍結期間はほのかちゃんが15歳になるまで、つまり平成33年9月20日まで延長されている。もともとは3年間の予定だったのが、13年も延長されたわけだ。ほのかちゃんが15歳になれば日本国内における心臓移植が可能になるため15歳までプールすることに決めたとのことだが、元々の規約が術後の経過が安定するまでという比較的短期間を想定していたのに、10年以上に亘り凍結するというのは多少乱暴な運用な気がする。心臓移植自体をしなかったため、術後3年という期間にとどめにくいということは理解できるが、透明性を高めるためにもう少しやりようは無いのだろうか。

善意に基づく会の活動が適切に成立し、必要とされる人に必要な資金が供給される支援のネットワークが構築されることを期待したい。

関連エントリ

*1:僧帽弁閉鎖不全自体は特定疾患ではないので公的助成不適用と判断される可能性もある。