数字から見る韓国経済のやばさ

主に2ちゃんねるでは韓国経済の崩壊が近いのではないかという話がまことしやかに語られている。その話にはどれだけの信憑性があるのだろうか?最新の数字に基づいて、韓国経済の現状について見てみたい。なお、本エントリの執筆に当たっては、三橋貴明著『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』および同氏によるVoice 2008年12月号の『韓国経済は崩壊寸前だ』を参考にしている。また、国際収支などの数字データに関しては、新世紀のビッグブラザーへのデータを利用している。

悪化を続ける韓国の国際収支

次の表は韓国の国際収支を示したものである(単位:億ドル)。今年に入ってからの悪化は目を覆いたくなるほどだが、2007年までは韓国経済は好調とされていて、2007年10月には瞬間で1ドル900ウォンを切るほどウォン高が進んだ。しかし、数字をつぶさに見ていくと、必ずしも順風満帆ではなかったことが分かる。


2004年 2005年 2006年 2007年 2008年01-10月
◇経常収支 281.7 149.8 53.8 59.5 (89.1)
 −貿易収支 375.6 326.8 279.0 294.0 39.2
 −サービス収支 (80.4) (136.5) (189.6) (205.7) (150.8)
 −所得収支 10.8 (15.6) 5.3 7.6 38.1
 −経常移転収支 (24.3) (24.8) (40.9) 36.4 (22.5)
◇資本収支 75.9 47.5 179.7 62.3 (361.9)
 −直接投資収支 45.8 20.1 (45.4) (136.9) (168.8)
 −証券投資収支 86.1 (17.2) (227.4) (190.9) (122.4)
 −その他投資収支 (38.5) 68.1 483.8 414.1 (134.3)
 −資本移転収支、他 (17.5) (23.4) (31.2) (23.9) (3.4)
◇外貨準備高 387.1増加 198.0増加 221.1増加 151.2増加 424.3減少

2006年より「直接投資収支」も「証券投資収支」も赤字にも関わらず、「その他投資収支」がそれらの赤字を補っていたことが分かる。「直接投資収支」は国外資本が韓国に対して工場を建てたりする投資であり、「証券投資収支」は韓国企業の株を購入したりする投資である。外国人の直接投資は2007年には前年比46.1%の大幅減、証券投資は外国人投資家による韓国株式市場からの売り逃げ、いわゆるセル・コリアという状況になっていた。

この状況において韓国経済を支えた「その他投資収支」とは、簡単に言えば韓国が他国から借り入れた借金である。借金をすると韓国内に資金が流入するため資本収支は黒字となる。世界的な金融バブルの流れを受けた豊富な投機資金の流入のおかげで、昨年までは韓国はバブルのような活況を呈していた。

バブルという表現を使ったが、韓国のバブルが日本のバブルと決定的に違う点が一つある。日本のバブル景気は、日本が世界中から稼いだ資金が過剰に市場に溢れて生じたものだ。一方、韓国の場合は、韓国が世界中から借りた資金が過剰に市場に溢れて生じたものだ。わかりやすく言えば、自分のポケットマネーで遊んでいた日本と、サラ金から借りた金で遊んでいた韓国と言えるだろうか。そして、誰でも知っていることだが、借金はいつか返さなければならないのだ。

急増する韓国の短期対外債務

次の表は韓国の対外債務・債権推移を示したものだ(単位:億ドル。2008年3Qの値は韓国銀行が28日に発表した速報値)。外国からの借金である対外債務は2004年末には1723億ドルだったのが、2008年第三四半期末には4250億ドルへと激増している。外国への貸付金である対外債権も同様に2842億ドルから3999億ドルに増加しているが、対外債権の増加ペースには追いつかず、2008年第三四半期末時点での対外純債権(=対外債権から対外債務を引いた値)は251億ドルの赤字となり、8年ぶりに純債権国へと転落している。


2004年末 2005年末 2006年末 2007年末 2008年1Q 2008年2Q 2008年3Q
◇対外債務 1723 1898 2633 3806 4138 4197 4250
 −短期 563 659 1136 1587 1764 1756 1894
 −長期 1159 1239 1497 2219 2373 2441 2536
◇対外債権 2842 3080 3627 4154 4269 4224 3999
◇対外純債権 1119 1188 994 348 131 27 (251)

注意すべきは国外から借り入れた約定期間1年以内の短期対外債務の割合だ。2004年末には32.7%であった短期対外債務比率は、2008年第三四半期末には44.6%にまで増加している。短期対外債務比率は、債務に対する各国の耐久力を示す指標の一つである。外的なショックに見舞われた際、逃げ足の速いのが短期資金であり、この比率が低ければ、急激な資金流出を回避することができる。一般的には短期対外債務比率は25%以下が望ましいとされているが、韓国の44.6%という値はそれを大きく上回る。ちなみに1997年アジア通貨危機において韓国がデフォルト寸前まで行ったときの短期対外債務比率は45.4%だった。

これをふまえて先の国際収支をもう一度見てみると、韓国のバブルを支えてきた「その他投資収支」が今年になって、赤字に転落していることが分かる。外国の投資家が韓国から資金を引き揚げたことの証左であり、短期債務を借り代えることが困難になりつつある。韓国経済を支えてきた貿易収支も黒字額が減少し*1、経常収支が赤字化。資本収支は真っ赤な状態で、経常収支と資本収支が双方とも赤字となる非常事態となっている。

純債権国への転落、経常収支と資本収支の恒常的な赤字は、ウォン暴落をもたらし、さらに韓国に追い打ちをかけている。

暴落する韓国ウォン

韓国ウォンは2007年10月末には1ドル900ウォンを切るまで上昇したが、それからたった1年でウォンは暴落し、11月24日には1ドル1513.00ウォンと、ついに1500ドルの壁を突破した。たった1年でウォンの価値は4割も減少してしまったのである。

韓国の対外債務は外貨(主にドル)建てである。昨年100ドル借りたときには90,000ウォン返せばよかったのが、今年は150,000ウォンも返さねばならない。このように最近のウォンの暴落は、韓国の対外債務のウォン建て額面を増大させる。前掲の表はドル建てで記載しているが、ウォン建てに換算すると昨年に比べて7割近くも増大するのだ。このままウォン安が続けば、韓国の債務不履行の危険性が高まることは間違いない。

危機感をもった韓国銀行は通貨防衛のため為替介入を続けており、それに伴い外貨準備高が大きく減少している。2008年10月には1ヶ月で実に199.8億ドルも減少しており、アジア通貨危機を乗り越えてから順調に増やしてきた外貨準備を取り崩している状況だ。

ロイターによれば、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は10月始めに中国と日本、韓国の外貨準備は合計1兆8000億ドルにのぼり、欧州で広がっているような金融危機には直面しないとの認識を示した。次の図は朝鮮日報からの引用である。

しかし、右図を見れば一目瞭然のように、大統領が言及した1兆8000億ドルの内、韓国の外貨準備は2,397億ドルとごく一部に過ぎず、しかも毎月減少を続けている。仮に毎月200億ドルずつ減少すると、来年初頭には短期対外債務残高を下回り、外貨準備高の適正水準を下回ることになる。そうなれば、韓国への投資リスクが増大し、さらに韓国からの資金の引き揚げが進むこととなる。まさに負の連鎖である。

構造的な悪循環へと嵌りこんだ韓国

以上に述べたように韓国は、経常収支と資本収支の双子の赤字、純債権国化、ウォン暴落という悪循環に嵌りこんでしまっている。この状況から脱出するためにはまず経常収支を改善することが不可欠だ。海外旅行や留学を控えればサービス収支が改善するだろうし、海外留学生を引き上げて海外送金を減らせば経常移転収支も上向くだろう。海外からの贅沢品の輸入なども制限すべきかもしれない。

もちろん経常収支の改善は、貿易収支の改善無しには達成できない。貿易立国たる韓国が立ちゆくためには、輸出で稼ぐしかないのだ。そのためには日本の資本財を輸入して、それを組み立てて売ると言う、低付加価値の既存ビジネスモデルから脱却することが必要になる*2。毎年巨額の対日貿易赤字(2007年で299億ドル)を日本に貢ぎ、経済規模からすれば極めて小さい貿易黒字(同190億ドル)を稼ぐという日本頼みの経済構造は、そもそも不効率であるし、韓国国内の人件費の高騰、中国などの新興国のキャッチアップにより立ちゆかなくなりつつある。

中央日報によれば、赤字が続いていた経常収支は、10月に反転し過去最大の49億ドルの黒字となった。これは輸出が好調だったというよりは、国際原油価格の下落により原材料輸入が大幅に減ったことによるものだ。輸出入の増加傾向を維持しながら得た‘拡張型黒字’ではなく、同時に減りながら達成した‘縮小型黒字’ということだ。

韓国の取るべき方策は、たとえ一時的に自国の生活レベルを下げることとなっても縮小型黒字を維持しつつ、人件費の抑制と大幅なウォン安の許容による輸出産業の競争力回復を図ることだ。そして自国の技術力蓄積に努め、日本依存の経済構造を変えることが、長期的に見て韓国経済の発展につながるはずだ。仮にこうした抜本的な改革無しに小手先の対応に終始すれば、たとえ今回の危機を乗り越えたとしても、第二、第三の危機が韓国を襲うことになるだろう。

もっとも、北朝鮮が崩壊してしまうとどうしようもないかも知れないが。

*1:韓国の08年の通関ベースの貿易収支は5月を除き、すべての月で赤字である。

*2:Voice 2008年12月号韓国経済は崩壊寸前だ』参照。