NBonlineの若者のクルマ離れの記事は酷い

NBonline若者のクルマ離れ、その本質は「購買力」の欠如という記事が掲載され、ホットエントリ化している。記事では、若者のクルマ離れは若年層の購買力の低下が原因という2chあたりでは何年も前から唱えられてきた説を提示しており、その結論には一定の説得力があり同意するところだが、結論に至るまでの過程が酷い。

記事では若年層の購買力の低下を示す根拠として、次に引用する20〜24歳の給与取得者数と人口の推移を挙げている。

そして1985年当時と比較して給与取得者数の割合が10%も低下している事実を挙げ、同年齢層の購買力が低下していることを立証している。ここまでの論理展開は納得できる。しかし、当該記事ではそれを派遣などの不安定就労社会と結びつけてしまっている。

2005年以降は1年を通じて勤務した給与所得者は、3人に1人のレベルまで低下している。こうした若年層の不安定な就労の増大は、派遣労働の規制緩和と軌を一にしている。2004年には製造現場への派遣も解禁され、非正規従業員の増加に拍車をかけた。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20090109/182410/

給与取得者数の低下は派遣などの不安定な就労が増えた結果だとしているわけだが、これは大いに疑問で、結論ありきで書いているとしか思えない

20〜24歳までというとちょうど大学や大学院進学と重なる年齢であり、それによって給与取得者数が減じたと考える方が自然だろう。次のグラフは、上掲の給与取得者数の推移に、大学等進学率の推移を重畳して表示したものである。大学進学率は社会実情データ図録からの引用である。

1985年に37.6%だった大学進学率2007年には53.7%に達している。これはちょうど給与取得者比率の減少と呼応する形で増加しており、2つの数値が相関していることがわかる。給与取得者数が減ったのは、派遣などの不安定就労に従事する人が増えたからではなく、大学に進学する人が増えたからと考える方が妥当だ*1

昔は高校を卒業して就職していた層が、今は大学に進学するようになっている。大学に通っている間はフルタイムでは働けないので、アルバイトなどに従事せざるを得ない。そのためこの年齢層の購買力は必然的に低下することになる。大学に通って遊び呆けていれば、大学を卒業する頃には、ダメ人間の一丁上がりという訳だ*2。一昔前ならば高校を出て真面目に仕事をしていたであろう人材が、レジャーランドと化した大学で遊び呆けた挙げ句、ダメ人間として社会に放出される。必然的に購買力も低下すると言うものだ。

若者のクルマ離れの原因が若者の購買力の低下にあることは事実だろうが、購買力の低下は派遣などの就労スタイルの変化と直接には結びつかず、大学進学率の向上によるものと見た方が自然である。仮に大学進学率の向上が派遣などの不安定就労の増加と相関しているとするならば、それは第一にレジャーランドと化した大学の機能不全が問題視されるべきだ。大学がきちんと社会のニーズに見合った人材を輩出できていれば、やむなく非正規雇用される人の数はもっと減ったかも知れない。逆に、自分は大学を出たのだからこんな仕事は役不足だと考える人が増えたことが、派遣という就労スタイルの増加を招いたのかも知れない。企業が求める人材と実際の求職者の能力の不一致、求職者が求めるやりがいのある仕事と実際に必要とされる仕事の不一致、この辺のアンバランスを拡大させているのが、現代日本の大学というシステムであると思う。就職情報研究所のコラムでも大学院進学による高学歴化で学部卒の優秀な学生が段々少なくなる一方、ゆとり教育世代の学生が大量入学、低学力化の進行により、企業が求める優秀な学生の採用が今後ますます困難になると予想されている。

昨今の不安定就労社会は、大学教育にそもそもの問題があると言うのもあながち的外れな考えではないだろう。

*1:本来は大学院進学率も考慮する必要がある。文部科学省学校基本調査文部科学統計要覧等を参照すれば大学院進学率も近年増加していることがわかるので気になる人は参照して欲しい。

*2:ちなみに筆者は8年も大学に通ったダメ人間なので他人のことをとやかく言う権利はない。