いよいよ実世界にタッチするiPhoneアプリまとめ

携帯電話は常に電源が入ったネットワーク接続デバイスであり、常時ユーザが持ち歩くと言う点において、ウェアラブルコンピューティング(Wearable Computing)で語られてきたユースケースを徐々に実現しつつある。特にiPhoneGPS/コンパス/加速度などの各種センサに加え、アプリケーション開発自由度の高さから、現時点で最も開発アクティビティの高いデバイスであると言える。

本エントリではiPhoneアプリケーションのうち、特に実世界とのインタラクションを有するものについて紹介する。地図と連動して単純に現在位置から最寄りの施設やその施設のクーポン、イベント等を検索して提示するようなアプリ、単に音声を録音したり、音声コマンドを認識して動作するアプリは多く存在するが、本エントリでは扱わない。ここではiPhoneに搭載されているセンサを一工夫して実世界を認識し新たなサービスを提供するアプリに限って紹介したい(中には既存の携帯電話向けアプリに同様のアプリが存在するものもある)。通常のアプリとは一味違うアイデアがキラリと光る。カテゴリとしては、拡張現実(Augmented Reality)、コンテキスト・アウェアネス(Context Awareness)、位置依存サービス(Location Dependent Services)などが該当するだろう。

RjDj:環境音を利用して新たなサウンドを生成

RjDjはReality Jockeyが開発した、環境音を拾ってエフェクトをかけ、複数用意されたシーンとミキシングして、新たな音楽を生成するアプリである。公式ページにユーザが生成したサウンドがアップされているので聞いてみて欲しい。同様にTrippyは7つのシーンを集めたものである。ShakeiPhoneを振ることによってエフェクトがかかり、Kids on DSPはテクノを生成できる。

RPGでは状況に応じた様々なBGMが流れるが、それが実世界でも実現できるようになるだろう。やはりレベルが上がったときにはファンファーレが流れて欲しいものだ。




PocketMeter:反射音の遅延時間に基づき対象までの距離を計測

PocketMeterはValnova GmbHが開発した、iPhoneのスピーカーから音波を生成し、それが対象物に当たって跳ね返ってくるまでの時間を基に対象物までの距離を測定するアプリである。20cmから4mまでの距離を1cmほどの精度で計測することが可能だ。





Sonic Ruler:音の到達時間に基づき対象の長さを計測

Sonic RulerはApptomic LLCが開発した、iPhoneのイヤホンから音を出してそれがスピーカーに拾われるまでの時間を基に長さを測定するアプリである。測りたいものの端にイヤホンをもう一方の端にiPhoneのマイクを置いて測定ボタンを押すと長さが表示される。測定範囲はイヤホンの長さまでとなるが、精度は1インチ程度となるようだ。なお、同様に稲妻が光ってから雷鳴が到達する時間を計測し、雷までの距離を測定するThunder & Lightningも存在する。





Wind Speed:風切り音の大きさから風速を推定

Wind SpeedはSIS Softwareが開発した、iPhoneのマイクで実世界の音を拾って風速を測定するアプリである。精度はあまり高くないようだが、面白い試みと言える。




Shazam:曲を聴かせると曲情報を検索

ShazamはShazam Entertainmentが開発した、実世界に流れている音楽を聴き取り、曲名を検索できるアプリである。5秒ほどで検索が完了しiTunesで購入したり、YouTubeで動画を検索することができる。同様のアプリケーションは携帯電話むけにも以前から存在している。




浮気チェッカー: 音声に基づく感情解析

浮気チェッカーインディソフトウェアが提供するマインドリーダーシリーズのひとつで、音声解析により恋人が浮気しているかチェックする。さらに職場関係チェッカーは仕事仲間の働き度、友情度チェッカーは友達との友情度をチェックする。



マインドリーダーシリーズはA.G.I.が開発した感性制御技術STシステムを利用している。STシステムはコールセンタにおける顧客心理・感性分析金融システムに導入されており、8割程度の行動予測的中率があるようだ。STシステムを採用した同種アプリとしてNDS用ソフト音声感情測定器ココロスキャンがある。電話などの音声コミュニケーションにおける感情認識は今後一般化すると共に、不都合な感情を声に出さないフィルタリング技術が登場するだろう。

CubeCheaterルービックキューブの解法を提示

CubeCheaterルービックキューブの解法を示してくれるアプリである。iPhoneのカメラでルービックキューブを撮影することによりルービックキューブの状態を認識し、どのような状態からでも20手程度で解ける解法を示してくれる。




RulerPhone:クレジットカードとの大きさ比較から対象の大きさを計測

RulerPhoneはカメラによる画像認識に基づく長さ計測アプリである。計測対象となる物体とクレジットカードを並べて写真を撮影すると、クレジットカードの大きさから縮尺が決定され、対象物の大きさが推定できるというワケだ。きちんとキャリブレーションを行えば、12フィート(3.65m)までの距離を0.5-1.5インチ(1.3-3.8cm)程度の精度で測定できるようだ。




Dynolicious:車の加速度や速度を監視する

DynoliciousiPhoneの加速度センサに基づき、搭乗している車の加速度(G)や速度を監視し、グラフ化して表示するアプリである。Dynolicious Log Boxでログを蓄積することも可能だ。また、車のロールとピッチを計測する4WDというアプリもある。






Camera Angles: 簡易水準器

Camera Anglesは実世界の回転角(ロール)と垂直各(ピッチ)を計測できるアプリである。GPSの位置計測に基づく2点のピッチ差を求めることによって木やビルの高さを計算できる。高さの測定結果は2点間の距離とGPS精度に依存するため精度は良いとはいえないが、おおよその高さを知るには良いだろう。




iSeismometer:簡易地震


iSeismometeriPhoneの加速度センサを用いて微妙な振動を測定する地震計アプリである。地震に限らずスピーカーから流れる音楽や机を叩く音など身の回りの振動を何でも計測できるので結構楽しい。測定データはGPS位置情報を付与してサーバに転送する事が可能だ。








Alarm on Map:指定した位置に近づくとお知らせ

Alarm on Mapは地図上で場所を指定しておくと、その場所に近づいたときにアラームを鳴らしてくれる乗り越し防止アプリである。位置依存リマインダとしては典型的な機能であり、同様の機能を有するものにiNapがある。



乗り越し防止ではなくより汎用的な位置依存ToDo管理ソフトとしては、ToDo HereGPS ToDo Listがある。ToDoが設定された場所に近づくと、ToDoが表示されるわけだ。たとえば駅の近くのスーパーの位置に対してToDoとして買い物リストを設定しておけば、帰宅時に買わなければならなかったものをころっと忘れる事態を防ぐことができるだろう。コンテキスト・アウェアネスを活用したリマインダアプリケーションに関しても多くの先行研究があり、ぱっと思いつく限りでも、時間と位置以外に、スケジューラ・メーラ等各種アプリケーションとの連動、交通情報/天気予報などの環境情報との連動(雨のときはこれをする)、他者の位置情報との連動(会ったとき/いないときにはこれをする)、各種センサとの連動(次にiPhoneに載せるべきセンサは何だろうか)などまだまだやれることは多い。

鬼ごっこレーダー:位置情報に基づく新世代鬼ごっこ

鬼ごっこレーダーは各自が持つiPhoneGPS位置情報に基づく新世代の鬼ごっこを実現するアプリである。






公式ページにルール解説がある。各プレイヤーは鬼ごっこレーダーで登録を行い、逃亡者と鬼の2陣営に分かれて戦う。レーダーには一定範囲内の他のプレイヤーの位置情報が表示されるが、レーダーを使うと自分の位置が他の全プレイヤーに知られてしまうので使いどころが重要だ。鬼は自分の現在位置に仮想的な爆弾を配置することができ、逃亡者が爆弾の位置に触れるとその後5分間リアルタイムに自分の居場所が全ての鬼に通知されることとなる。各陣営は鬼ごっこレーダーのチャット機能を使って情報交換を行い、相手陣営追い詰めていく。鬼が全ての逃亡者を捕まえるか、逃亡者が一定時間逃げ切れば勝負が決着する。iPhoneにより支援された鬼ごっこ、実に面白そうだ。10月24日に第一回鬼ごっこ大会が開催されるようなので、気になる人は参加してみてはいかがだろうか。

Star Walk:見上げた空に見える星座を表示

Star WalkiPhoneを空にむけるとその時間その場所から見える星空を描画するアプリである。ニンテンドーDSR用ソフト「星空ナビ」と同様に本体の向きや動きに連動して夜空の説明がなされる。同様のアプリは他にも複数存在するが、Star Walkは直感的で軽快な動作を実現している点で優れている。次の動画ではiPhoneを固定して机上で利用しているが、iPhoneを手に持って空のあちこちにむけて使うのが楽しい。





セカイカメラ:ユーザのエアタグを実世界に重畳表示

セカイカメラ頓智・(トンチドット)が開発し、ARを一般レベルまで引き上げた最初のアプリケーションである(Sekai Camera Support Center)。実現されるユースケースは何十年も前から検討されていたものであり、先行研究が大量に存在する。iPhoneの位置取得精度、処理速度の制約から、実用的かと言われれば正直まだ厳しい部分が残る。



しかしセカイカメラの成果はそれを実現したことにある。公開から4日間で10万クライアントを配付し、それらのユーザの利用に耐えるだけのインフラを用意した。公開から1週間を経ずして首都圏の繁華街はエアタグセカイカメラで実世界に重畳させて見ることができるタグ)で埋まり、実世界とはその様相を一変させている(秋葉原の現状)。セカイカメラは11月にOpen Air APIの公開を予定しており、エアタグが一般化すればコンピューティングを一変させる可能性を秘めている。エアタグにアクセスできるものとできないものの間に新たなデジタルデバイドが発生するかもしれない。




NearestPlaces:近傍の施設名を実世界に重畳表示

NearestPlacesacrossairが開発した、現在位置近傍の施設名を実世界に重畳表示するアプリである。AroundMeのAR版という感じだが、実用度が向上しているかと言うと微妙だ。もう少し位置精度が向上すれば改善されるのかもしれない。




Tokyo Nearest Subway:近傍の地下鉄駅を実世界に重畳表示

Tokyo Nearest Subwayacrossairが開発した、現在位置近傍の地下鉄駅案内を実世界に重畳表示するアプリである。ただ東京の地下鉄は複雑すぎるのか、現時点でのバージョンではあまり実用的ではないようだ。ナビを目的とするなら地図アプリの方が優れている面が大きいと言うことだろう。








NearestWiki:近傍のWikipedia項目を実世界に重畳表示

NearestWikiacrossairが開発した、現在位置近傍のWikipediaの記述を実世界に重畳表示するアプリである。セカイカメラに比べ提示される情報の質は高く、実用度は高い。上記2つのアプリに比べて実用度が高いと感じられるのは、地図の方がインタフェース的に優れているナビゲーションではなく、Wikipedia詳細情報の参照を目的としているからだろう。ARも使いどころが重要だ。






PhotosAR:近傍の写真を実世界に重畳表示

PhotosARacrossairが開発した、現在位置近傍のGoogleマップ位置情報付写真を実世界に重畳表示するアプリである。写真/動画が時間軸に沿って大量に蓄積されていけば、その場所の過去の任意の時間を見ることができるタイムマシンとなるだろう。もちろん、セカイカメラエアタグも同様の可能性を有している。






memory tree:世界中の思い出をアーカイブする

memory treeは今自分がいる場所の思い出をアーカイブするアプリである。金沢アートプラットホーム2008に出典された作品で、詳しくは公式のコンセプト説明にあるように時空間情報の付加された写真を蓄積・共有できる。空に浮かぶ思い出を掴んだり、空にそっと放したりするジェスチャーに基づく使い方が秀逸だ。同じ時間や同じ場所の他人の思い出(写真)にもアクセスでき、いつの日か街に多くの思い出が蓄積されることが楽しみになってくる。







以上見てきたように、iPhoneの一部のアプリケーションは徐々に実世界とのインタラクションを始めつつある。仮想世界と実世界が融合し、アプリケーションは実世界のユーザの行動をより積極的に支援していくだろう。日常生活におけるユーザの意思決定、行動は、より多くの部分をコンピュータの支援に委ねることとなる。

適切な支援を得られる者とそうでない者の間で、過去にない大きな格差が生まれる可能性があるわけで、いよいよコンピュータの支援が人生を左右する段階に入って来つつあると言える。

追記