我田引水な日本新聞協会の報告書を容赦なく添削してみた

日本新聞協会は『2009年全国メディア接触・評価調査』を発表し、新聞に接触している人は全体の91.3%で、日常生活に欠かせない基幹メディアであることがあらためて確認されたと報告した。新聞各紙は挙って本報告書の内容を報じ、新聞の重要性を強調した。たとえば朝日新聞は次のように報じている(強調はLM-7による)。

 日本新聞協会(http://www.pressnet.or.jp/adarc)は7日、「2009年全国メディア接触・評価調査」の結果を発表した。

 調査は09年10〜11月、全国6千人に聞き、有効回答率は61.4%だった。このうち、91.3%が「新聞を読む」と答え、1週間の平均接触日数は5.2日だった。いずれも07年の前回調査から大きな変化はなかった。

 新聞は「地域や地元の事がよく分かる」は52.6%、「情報源として欠かせない」は50.2%だった。同協会は「新聞離れが指摘されるなか、新聞が以前と変わらず、日常生活に欠かせないメディアであることが確認された」と話す。

http://www.asahi.com/national/update/0608/TKY201006070380.html


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妙な結論が出るカラク

さて、新聞離れが指摘されているのになぜこのような結果が出るのだろう?この結果は新聞に接触していると回答した割合を算出したものだが、P42には新聞閲読頻度が掲載されている。これを見ると、新聞を読んでいないものが全体の9.1%、週に1日未満のものが5.2%となっており、この2つを足しあわせただけで、14.3%となる。新聞に接触していると答えた91.3%には週に1日未満しか接触しないものも含まれるようだ。些か乱暴といえるのでは無いだろうか*1



そこで過去の調査報告書を遡って、2001年以降、毎日読んでいる人の割合、週に3日以上読んでいる人の割合、週に一瞬でも接触した人の割合、全く未読の人の割合をプロットしたのが次のグラフである。



このグラフを見ると一目瞭然だが、確かに週に一瞬でも新聞に接触した人は日本新聞協会の主張するように依然として9割を越えている。しかし、新聞を毎日読む人は2001年に69.6%だったのが、2009年には62.7%に、週に3日以上読む人は同86.1%から78.8%へと、それぞれ7ポイント程度低下している。逆に新聞を全く読まない人は5%から9.1%へと倍増しており、着実に新聞は読まれなくなってきていることが分かる。この数字を見て「新聞が以前と変わらず読まれている」という結論を出すのは、利害関係者だけだ*2

数値の底上げのカラク

ところがこの接触率、これでも実情よりも高い値が出ている可能性が大きい。

新聞というメディアの特性を考えれば分かるように、新聞の接触率は高年齢層ほど高くなる。実際P22に記載の新聞に接触している人の割合によれば、15-19歳の接触率は76.2%なのに対し、60歳代の接触率は96.3%にも達している。つまり仮に回答者に高年齢層が多ければ、接触率は実際よりも大きい値が出るわけだ。

調査報告P2に母集団の構成・標本の構成が掲載されている。次の表はその抜粋だが、母集団に比べて標本では高年齢層の割合が明らかに大きくなっていることが分かる。たとえば20歳代は母集団では16.4%なのに対し標本では11.8%に過ぎない。一方、60歳代は母集団では18.3%なのに対し、標本では23.2%にもふくれあがっている。30歳代以下は母集団の割合よりも低く、40歳代以上は母集団の割合よりも大きくなっている*3



この事実を考慮すると、2009年調査における新聞の接触率は、高年齢層の回答に引っ張られて、数%程度大きく算出されていることが想像できる。

一方、念のため2001年調査における標本の構成を確認してみる。こちらは母集団との対比が無く、標本構成しか掲載されていないが、2009年調査と比較して15〜19歳、20歳台の割合が大きく、60歳代が小さいことが分かる。つまり2001年調査当時の方が新聞を読まない低年齢層の意見が反映されやすかった訳だ。



つまり2009年調査においては、母集団の構成の差から新聞の接触率が高めに出るようになっていたにも関わらず、週に3日以上新聞を読む人の割合は、2001年度の調査に比べて7ポイント低下したのだ。落ち込みの実態は数字以上に深刻であることは容易に想像できる。

誰が新聞を読んでいるのか

さらに深刻なのはその内訳だ。次のグラフは新聞を毎日読む人の年代ごとの割合(朝刊)を2001年2009年の調査から抜粋したものだ。このグラフが如実に示すように、8年経って新聞を読む人の年代が1つ上にシフトしただけであることが分かる。



若者の新聞離れと良く非難されるが、離れている訳ではなく最初から近づいてさえいないということだ(例のAA)。歳を取っても新聞を読むようにはならず、新聞の購読者層が毎年1年ずつ上がっていくとすれば、10年後には無惨な結果が待っているだろう。

それにしてもこの調査結果を、業界の危機を指摘して奮起を促すためではなく、危機を隠蔽しさも安泰であるかのように報告するのはどういう了見なのか。事実から目を反らしても何も問題は解決しない。

  • 謝辞

本エントリを作成するに当たって、[twitter:@ketsp]さんの指摘が大変参考になった。感謝いたします。

*1:お気づきの方もおられると思うが、以前取り上げたM1・F1総研の分析レポートと同じ手法である

*2:P23には「毎日接触している人の割合(図16)でも、新聞は62.7%で、経年では減少傾向にあるものの、2番目であることに変わりはありません。」と記されている。

*3:標本構成が高年齢ほど高くなっているのは、若者の回答率が低いことが原因だろうが、計画標本の段階で微妙に高年齢層が大きくなるように配分されているのは単なる誤差だろうか。