外性器の再生技術

小野繁人の体はどこまで再生できるか―失った肉体をとりもどす医療 (ブルーバックス (B-1253))』は失った肉体を再生する形成外科を一般向けに紹介する数少ない良書である*1。本書には著者自身によるイラストがふんだんに掲載されているのだが、ある箇所を再生するために、別の箇所から皮膚を移動させたりする様子が具体的に描写されているため、読んでいるだけで身体のあちこちが痛くなるという希有な効果を持つ本である。

さて、形成外科の応用として最近注目されているのが、男女間の性転換手術である。男性から女性への転換の場合はちょん切れば良い(ああ、痛い)ので、障害は少なそうに思えるが、その逆の場合は一体どうすればよいのだろうか。あまり触れられる事のないこの話題に対して、本書は明確な回答を示してくれる。

女性器の形成

やはり陰茎を作るよりは、陰核と膣を再生する方が技術的には容易である。それでも排尿機能は温存しなければならないし、性行為において感覚が保持できるように工夫される。

一例として亀頭部における血液の供給機能を維持し、新しく形成する膣の最奥部にこの亀頭を位置させる事で、この感覚を維持する事が可能だ。ちょうどシャツの袖のように男性器を裏返しに引っ込める感じであり、形成外科の論文誌Plastic and Reconstructive Surgeryに報告があるという。

膣再生はおなかの皮膚とその皮下組織を使ったりして行われるが、最も厄介なのがその形態を維持させる事である。人間の身体は傷を治すために縮もうとする力が働くが、縮まないようにものを入れて保持しておく等の医療材科学的な工夫がなされる。

男性器の形成

全くないものをゼロからつくって機能させるのはやはり相応の困難が伴う。女性は尿道が短いため、尿道口を陰茎の先端に持ってこられない事、陰茎を皮弁で形成しなければならない事などが、再生を困難にしている。

一つの方法として、次の図(前掲書P.197より引用)に示すように上腕の皮膚と皮下組織、神経と血管を付随させたもので陰茎を再生させる方法がある。長さの足りない尿道は皮膚をストロー状に組み合わせて形成する。



勿論こうして形成した陰茎には勃起能力が無いため、機能を発揮するためには形を保持する必要がある。中に入れる材料としては、半硬性棒状のものにステンレスワイヤーが入っていて、自由に曲げたり伸ばしたりすることができるものがある。また、シリコンのシリンダ内に液体を出し入れする事によって、自然に近い状態とすることができるとされるインフレータブルタイプのものも存在するようだ。

いずれにせよ、現在の医療技術では、機能を不完全ながら再生する事に重点が置かれており、見た目に自然な形を形成することは困難である事は明らかだ。別の部分から持ってきた皮膚は色や質感が異なっており、接合面にはどうしても傷痕が残ってしまう。性同一性障害で性転換手術を受ける人は、自ら進んで完璧に機能する身体にメスを入れ、直截的に言えば*2醜く不格好な身体になるのである。そこにはそうさせるだけの悲壮な覚悟があるということだろう。

*1:読者にとっては幸運な事にAmazonマーケットプレイスではたった35円で手に入る。

*2:不幸な事故や病気により、自らの意志に反して障害を負った人々に対して配慮の欠ける表現であることは重々認識しており、それらの人々を侮蔑したりする意図は全くない事を明記しておく。