名寄せのリスク

医学部志望の3浪中の受験生の兄が、グラビアアイドル志望の短大生の妹を、殺害しばらばらに切断して放置した短大生遺体切断事件。遺体は服を脱がせた後、関節を十数カ所切断し、4つのポリ袋に入れていたが、関節以外に胸も切り落とされていたことが分かった。胸は内臓と一緒にキャビネットの下から発見されたという。「わたしには夢があるけど勇くんにはないね」と妹に詰られた事が殺意を抱いた原因と伝えられているが、本当のところはまだ分からない。

被害者の妹は当初のマスコミの報道によれば、演劇の舞台に立ち、アイドルになる「夢」を抱いていたというような良い面ばかりが強調されていたが、2ちゃんねるなどの掲示板では妹側にも問題があったのではないかという論調が多くなってきている。被害者の女性は、mixiにアカウントを持っており、そこには援助交際をしていると解釈できる記載があったり、容疑者の兄を見下すような記述が見られたりするらしい。どうも被害者は歯に衣を着せずに話す人だったらしく、それが容疑者を刺激した可能性もある。所属事務所も「その一言が人を傷つけるときがあるから毎日メモしなさいと何度も注意した」というぐらいなので、かなりキツイ性格だったようだ(mixiの紹介文もそんな感じ)。

怖いと思うのは、このように個人情報がどんどんと明らかになる現状である。一昔前ならば、妹は罪のない哀れな純然たる被害者であったはずだ。ところが、インターネットが広く普及した現在、本人も忘れていたような過去が第三者の手によって続々と暴かれ、どうも被害者のほうにも非があったらしいぞなんて話になる。「死んだ人の悪口は言わない」日本人の風習はインターネットによって滅びてしまったのか。

このようにインターネット上に散らばる部分的な個人情報が累積され、完全な個人情報が取得されることを名寄せと呼ぶ。もともと名寄せとは金融機関において、同一人物が複数の口座を持つ場合、顧客属性情報に基づいてそれらの口座を一元管理する手続きのことを指したが、インターネットサービスを行ううえで考慮しなくてはならないセキュリティリスクのひとつだ。

今回の場合、マスコミによって報道された氏名という個人情報から、mixiのアカウント、所属事務所における芸名などが名寄せされ、そこから膨大な個人情報が検索された。それも極めて短時間にだ。

実名というきわめて重大な個人情報の報道のあり方について議論する時期にさしかかっているのではないだろうか。実名を公表するリスクは、かつてないほどに高まっている。