「アクセルとブレーキを間違えたぐらいで暴走する車が悪い」に対するフォロー

先日のエントリ「アクセルとブレーキを間違えたぐらいで暴走する車が悪い」に関しては、暴論気味のタイトルのせいもあってか多くのアクセスを集めた。本サイトの運営開始以後、初めてまとまった数のトラックバックをいただいており、上記エントリの至らない点をフォローしていただいている。それぞれのエントリは大変興味深く、blogというシステムがもたらす便益を再確認させていただいている。厚く御礼申し上げます。以下に一部ついてまとめておきたい。

信号機問題について

上記エントリの中で安全側を考えた場合必ず青だけの信号機を作るとしたのだが、頂いたコメントの中に赤だけの信号機のほうが安全なのではないか?というものがあった。反証として信号機 - Wikipediaに掲載されている一灯点滅式信号機を挙げている方もおられたが、点滅式は青の意味を表す場面が無いので、そもそもこの思考実験の前提条件とは異なる。むしろ実例としては、右折可などの特定方向のみの「進め」を指示する青い矢印を挙げることも出来るが、これは方向を示すと言う機能が付加されており条件が異なるのであまり良い例では無いかも知れない。

ちょっと呟いてみる - 「信号機問題」の解や、くぼた屋日記 - 「信号機問題」の別解において、この信号機問題についての考察がなされている。ここで指摘されているように、常時点灯故障の発生を想定した場合には、青ではなく赤だけの信号機を作らなければフェイルセーフにならない。問題はid:Terra-Khan氏の指摘しているように、常時点灯故障と消灯故障のどちらの方が発生確率が高いかと言う点であって、筆者は消灯故障の発生確率の方がずっと高いと判断したため、消灯故障へのフェイルセーフを想定した青一色の信号機を正解とした。しかしより好ましくは、id:kubotaya氏の指摘するように次のように条件を明記して問題を設定すべきであった。

故障する時は信号が消灯する側に常に故障が発生するという前提で「ランプが1つだけしかない信号機」を設置するとしたらどちらの信号機を設置しますか?ということ。

「信号機問題」の別解 - くぼた屋日記

これならば正解は文句なく青となり、無用の混乱を避けることが出来たはずだ。筆者の考慮不足であった。

車の操縦系が内包する欠陥について

上記エントリの主眼はアクセルとブレーキを間違えるようなミスが発生しうる車の操縦系が内包する問題点の指摘にあった。間違える方が悪いと言う指摘はもっともだが、間違えないようにする、あるいは間違えても何とかするのがメーカーの仕事である。現状の操縦系は必ずしも最良の形ではなくどちらかと言えばスジが悪い。404 Blog Not Found:なぜクルマにはアクセルとブレーキがついているのかをうけて、現行の車のインタフェースに関して多くの考察がアップされている。

アクセルとブレーキを間違えないためには - webdogでは、正反対の機能をもったペダルがごく近い場所にあるという不思議を指摘し、飛行機のインタフェースでは少なくともアクセルとブレーキという関係性は万が一にも間違えられないように構成されている事実を指摘してる。fc気まぐれなるままに〜?! アクセルとブレーキのインターフェースに検討の余地がないのか?では、安全なフェイルセーフ機構実現の難しさを指摘した上で、未来のインタフェースのあり方について思索を巡らせている。アクセルとブレーキをなぜ踏み間違えるのか (イニっ記NEO)では、1ペダル機構、2ペダル機構のそれぞれに対する対策の検討と、左足ブレーキの有用性について考察されている。左足ブレーキに関しては末尾に触れたい。

玄倉川の岸辺 アクセルとブレーキは多くの情報を含み、非常に参考になる。ペダルの踏み間違いによる暴走のメカニズムに関心のある人は是非ご一読をおすすめする。

ここで紹介されている、九州産業大学情報科学部松永勝也教授によるブレーキペダルの問題点は、実証実験の結果に基づき、現行の車の操縦系が抱える問題点を明確に指摘しており、大変参考になる。まとめを引用すると次の通りだ。

現行の自動車では、進行させる場合も停止させる場合も、運転者はアクセルペダルまたはブレーキペダルを足底部で押し下げるという同じ足の動きで操作を行う。ところが、突然物体が眼前に出現したときのように大変な緊張を要する状況では、人には関節の伸張反射が生じる場合のあることが明らかとなった。すなわち、足がアクセルペダルの上にあれば、アクセルペダルをより強く踏み込む動きが生じる。したがって、現行のシステムにおいては、パニック様時に運転者がアクセルに乗せた足を引き上げ、ブレーキをに載せ換える動作は、その動作そのものが大変に困難であると考えられる。したがって、現行の自動車アクセルペダルとブレーキペダルの構造は、人間の特性を考えると緊急時には的確に操作することが困難であるといえるマニュアルトランスミッション車における事故も、このアクセルペダルとブレーキペダルの構造に由来して発生しているものがあると考えられる。

アクセルとブレーキが並んで配置しており、どちらも踏み込むことで機能し、さらに踏み替えが必要というインタフェースは、パニック時などに正しく操作することが極めて困難であると言える。これを是正しようというアイデアはシステム設計上極めて妥当だ。

さらに実は自動車用の「アクセル・ブレーキ統合インターフェイス」は数年前に日本で実現しているという。

実験的検討の考察を引用すると次のとおりである。

新方式のアクセルバー・ブレーキペダル方式の車両での停止距離は従来方式の車両に比較して、約1.6メートル短縮された。この短縮は、ブレーキペダルを踏む足は常にその上に置かれているので踏み換える必要はなく、このためにブレーキペダルを踏む時間が従来方式に比較し約160ms短縮されたことによってもらたられたものであろう

そのほか、今回は実験は出来なかったが、緊急に自動車を停止させる必要のある状況において、その有用性は高いと考えられる。すなわち、緊急な停止が必要な状況では、大変に緊張するものである。このような中で急停止するためには、アクセルペダルに乗せている足を中に浮かせ、再びブレーキペダルを踏下する必要がある。この場合、一部の筋の緊張を緩め、再び緊張させる必要があるが、全身的に緊張している中、一部の筋の緊張を緩めるというのは大変に困難と考えられる。従って、意識としては、アクセルペダルから足を浮かしブレーキペダルに踏み換えたつもりがその位置でアクセルペダルを踏んでしまうということが生じるのであろう。新方式アクセルバー、ブレーキペダルシステムは、このような踏み間違いによる事故防止には大きく貢献すると考えられる。成熟しているように思える従来のシステムにもまだまだ改良の余地がありそうである。

この画期的なナルセペダルは残念ながら全く普及には至っていないようだが、合理的に考えられたシステムであり、自動車の安全性を向上する改良であると思う。現行のシステムを一気に置き換えるのは難しいが、システム系の改良がこれからも進められることに期待したい。きっと、未来から見れば、現行の自動車の操縦がいかに危険で未成熟なものだったかと驚くようになるだろう。

また、左足ブレーキと呼ばれる、左足をブレーキ専門に使う操縦法についても紹介されている。ナルセペダルと同様にブレーキペダルを踏む足は常にその上に置かれているので踏み換える必要がないため、踏み間違える心配もないし、その反応速度も速まると考えられ、右足一本で操作するよりもより合理的であるように思える。システム側の対応がなされるまでは、こうした工夫により人間側の方で対応することが良いようだ。

特に玄倉川氏のエントリは必要な情報がきちんとそろえられており、最初からこれぐらいの情報を揃えた上で元エントリを構成できれば理想的であると思う。もちろん筆者の力不足や時間的制約から実際には難しいのだけど。