運良く事故を起こした柏崎刈羽原子力発電所

LM-72007-07-18


よくぞ事故を起こしてくれた。本当に日本は神に愛されているのではなかろうか。

16日に発生した新潟県中越沖地震では震度6強を記録したが、被災地に林立する原子力発電所にトラブルが多発している。トラブルの原因は想定を超える規模の揺れによるものだが、想定以上の揺れでよく重大な事故に至らなかったものだ。続々と報告されるトラブルの詳細を聞くにつれ、軽微な放射線漏れに留まった今回の事故は非常に幸運であったとの思いが強くなる。

今回の地震で発生した柏崎刈羽原発関連のトラブルをまとめると次の通りだ。想定外の出来事ばかりで、東京電力の見積が大甘で抜けばかり出会ったことを雄弁に物語る

  • 設計時の想定値を大きく超える揺れを記録
    • 柏崎刈羽原発の全7基の原子炉で、設計時の想定を超える揺れを記録した(関連記事)。想定の3倍を超える揺れを記録して、致命的な事故に至らなかったのは幸運と言うしか無いだろう。1号機の680ガルという数値は東海地震の襲来が予想される浜岡原発の想定値をも上回る。
      • 1号機の最大加速度680ガル(想定273ガル) 想定の2.5倍
      • 2号機の最大加速度606ガル(想定167ガル) 想定の3.6倍
      • 3号機の最大加速度385ガル(想定193ガル) 想定の2.0倍
      • 4号機の最大加速度492ガル(想定194ガル) 想定の2.5倍
      • 5号機の最大加速度442ガル(想定254ガル) 想定の3.0倍
      • 6号機の最大加速度322ガル(想定263ガル) 想定の1.2倍
      • 7号機の最大加速度356ガル(想定263ガル) 想定の1.4倍
    • 今回の震源は同原発から北へ約9キロ離れた海底活断層とみられるが、設計時には発見されていない。今回の地震を受けて、この活断層原発直下まで延びていると指摘されている(関連記事)。原発活断層の直上に建っているのである原発活断層を避けて建設される事が大前提であり、同原発は仮に直下で地震が起きたとしてもM6.5に耐えるように設計されていたが、今回はM6.8で、その想定さえ上回った。
    • 東電は1998年の6,7号機の設置許可申請時に、19〜39km離れた海底に今回の断層を含む4本の断層を発見したが、東電は耐震設計上、活断層として考慮する必要はないと過小評価していた(関連記事)。安全性評価、耐震設計の基礎となる調査がおざなりで不正確というわけだ
  • 変圧器の火災鎮火に2時間
    • 地震発生直後の10時15分頃、原子炉建屋とタービン建屋に隣接した屋外にある変圧器から出火が確認。消防に連絡するも、地元消防本部は市内各所への救助要請に追われており、実際に原発に到着したのは1時間以上経った11時33分、鎮火まで火災発生から2時間以上かかった。人員を集めるのに時間がかかった上、通常15分ほどですむ移動に30分以上かかるなど道路事情も悪く働いたようだ。
    • 東京電力側で初期消火に当たったのわずか4人で、延焼を防ぐため周辺に放水するにとどまった(関連記事)。地震時のマニュアルと火災時のマニュアルは別々に用意されており、今回のように地震による火災の場合には明確に想定されていなかったという。
    • 変圧器火災の原因は、変圧器周辺が地盤沈下し、内部がショートしたためと考えられているが、周辺には消火栓につながる水道管が走っており、地盤沈下に伴い圧迫されて水圧が低下、消火栓から十分な量の水が出ず、初期消火の障害となった。消火設備などのフェイルセーフに耐震性が無いのは由々しき問題である。
    • 火災対策に関しては2年前に国際原子力機関(IAEA)が、(1)火災対策を専門に担当する組織の不在、(2)消防団の訓練不足、活動不足、(3)火災対策委員会が2年間開かれていない、などの火災対策の不備を挙げ、火災対策の組織や火災訓練を強化する必要があると指摘していた(関連記事)。東電は指摘を受けて改善を図り、IAEAから課題は解決したとの再評価を受けたが、今回は機能しなかった。
  • 微量放射能漏れ
    • 設定値を大きく上回る揺れにより、1号機から7号機まで総ての原子炉で使用済み燃料の保管プールから微量の放射能を含む水があふれ、放水口を通して海に放出された(関連記事)。
    • 7号機の主排気筒からヨウ素などの放射性物質を検出。大気中に微量の放射線物質が放出されたと考えられる。地震の影響で何らかの機器や設備が破損している可能性。お粗末なことに、原子炉の緊急停止後も、運転マニュアルに反して発電用タービン関連の排風機を作動し続け、2日間にわたり放出が続いた(関連記事)。
    • 固体廃棄物貯蔵庫で低レベル放射性廃棄物を納めたドラム缶100本が転倒。数本は蓋が開いた。土壌中に微量の放射能を確認。
    • 国や自治体への放射能漏れに関する報告も遅れ、安倍首相が厳しく批判した(関連記事)。
  • その他50件以上のトラブル発生
    • 建屋と主排気筒をつなぐ排気ダクトが外れる、変圧器の固定ボルトの破損、消火用水の拝観の破損等々、全7基で50件以上のトラブルを確認(関連記事)。トラブルリスト
    • 建屋や敷地内に設置した地震計97台のうち、旧式の63台のデータの一部を上書きにより消失(関連記事)。本震発生後最大1時間半にわたるデータが、相次ぐ余震により上書きされ消去された。耐震安全性の検証作業に影響が出ると懸念されている。
  • 刈羽原発に使用停止命令
    • 柏崎市は消防法に基づき、緊急使用停止命令を出して、運転再開を当面認めない考えを伝えた(関連記事)。まあ、当然ではある。
    • 国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長も国際チームによる全面調査が必要との見解を示した(関連記事)。『国際的な教訓』との位置づけ。
    • 東電は安全点検に数ヶ月かかると見込んでいる(関連記事)。あくまで点検にかかる日数であり、再設計や耐震補強工事が必要となれば、運転再開はさらにずれ込む。
    • そもそも柏崎刈羽原発は1985年〜1997年の稼働開始であり、1号機は既に20年を稼働開始より経過、老朽化が始まっている。原子力発電所の耐用年数についても見直しが必要かも知れない。

好むと好まざるに関わらず、日本は原子力発電に依存しなければ将来のエネルギー需要を満たすことが出来ない。中国が急速に成長し世界中のエネルギーを買い漁っている状況において、今までのように火力発電に頼ることはだんだん難しくなってきている。エネルギー問題は安全保障上も大きな懸案事項であり、不安定な中東に依存することは好ましくない。一方で、太陽発電や風力発電などの代替手段は発電量やコストの問題から当面は主流にはなり得ない。資源エネルギー庁原子力の推進への取組に明確に述べられているように、原子力発電所による核燃料サイクル政策は国の基本的な考えなのだ。

つまり、日本は少なくとも21世紀の前半は原子力発電で乗り切る他ないのである。日本の国土の狭さを考えると、一度でも日本で原発メルトダウン、それに伴う広範囲への放射能漏れが発生すると、日本という国家そのものが一気に衰退することが予想される。少なくとも現状の国力を維持することは困難だろう。日本は原発と一蓮托生なのだ。そして問題をさらに難しくするのが、日本が世界有数の地震発生国であるということだ。技術的に難しくても、多大なコストがかかったとしても、どんな地震などの災害、テロが発生したとしても、安全に原発をコントロールできる体制を敷く必要がある。

今回の事故は、災害想定の甘さ、事故発生時の対応上の欠陥など多くの改善点を示した上で、非常に有意義なものだと言える。余裕をもった設計が奏功したのか、あるいは単に運が良かったのか、メルトダウンのような致命的事故は発生せず、漏れた放射能は極めて微量であり、死傷者も出なかった。神が気まぐれに振ったサイコロがたまたま良い目を出したのかどうかは分からないが、せっかく拾ったチャンスは、確実にモノにして、徹底的な対策をしないと今度こそバチが当たりそうだ。

日本国内でチェルノブイリの再来だけは見たくない。