ソーシャルネットワークの未来にむけたW3Cのアクションと方向性

LM-72009-03-21


W3Cは先月Workshop on the Future of Social Networkingにおいてソーシャルネットワークの未来について考察し、レポートを公開した。このワークショップの参加には自らの考えを明らかにするポジションペーパーの提出が必須であり、様々な参加企業・団体の72のポジションペーパーが公開されている。たとえばVodafoneは時空間情報の取扱いからコンテキスト・アウェアネスを指向していることが見て取れる*1

W3Cではこのようなワークショップを定期的に開催し、有識者を集めて議論を行い、今後のW3Cの活動の方向性を決定している。逆に言えば、W3Cのワークショップの結論をチェックしておけば、これからWebが向かおうとしている方向性を早い段階で知ることが出来る*2W3Cのこうしたワークショップはポジションペーパーさえ出せば誰でも出席できるので、関心のある人は検討してみても良いだろう。ただし議論はすべて英語で行われるので覚悟が必要だ。twitterFlickrのログをみると雰囲気がつかめると思う。

レポートは長文だが、冒頭に概要が提示されているので、概要部分だけ翻訳し、ポインタを注釈に付与しておく*3ソーシャルネットワークに関して学ぶ必要のある人には良い情報源になると思う。

概要

Workshop on the Future of Social Networkingの参加者はソーシャルネットワーク業界の現状と次の観点に関して議論を行った。

  • ソーシャルネットワークアーキテクチャの集中型から分散型への移行において、分散型ネットワークに関連するシステム設計、考えられるビジネス、そして技術的なチャレンジについて
  • ソーシャルネットワークユーザに関連するコンテキスト情報の増加と、その利用および想定される不正利用について
  • 現在のネット上のポリシーの欠如によるものに加え、コンテキストがユーザのプライバシ漏洩リスクに与えるインパクトと、信頼できるWebの確立のための施策について
  • 現状のソーシャルネットワークプラットフォームが携帯等の制限された低能力のデバイスを利用する潜在的なユーザを排除しがちである傾向について

議論の結果、ワークショップの参加者は次の結論に至り、W3Cの取るべきアクションを以下のように設定した。

ワークショップの結論
結論アクション
データ交換フォーマット*4およびプロトコル*5の質・量両面の向上により、ソーシャルネットワークがユーザの利益のためにクローズドなコミュニティを外部に解放することによってアーキテクチャ的な断絶がもたらす弊害を解決する重要なチャンスが訪れている。完全に分散化されたソーシャルネットワーキングは実現可能な将来シナリオである。 W3CインキュベータグループW3C以外で開発された規格を含め、利用可能なデータ交換技術をレビューしマッピングする。その上で、潜在的なギャップを見極め、どのようにしてそれらの技術を分散型アーキテクチャオープンソース実装において統合して利用すべきかを提示する*6
ソーシャルネットワーク活動とソーシャルメディア出版に関しては、極めて高いリスクレベルにあるにも関わらず、そうしたリスクに晒されていることがほとんどユーザに認知されていない。 Social Networking Best Practicesインキュベータグループは、ユーザとプロバイダ双方の観点からのプライバシベストプラクティスの策定において、既存のW3C Policy Languages Interest Group (PLING)と密に連携を取りつつ、プライバシ保護に関する議論を継続する*7
コンテキストはソーシャルネットワーク業界において大きな役割を担い、その重要性を増しつつある。コンテキストは多くの要素と情報ソースから構成されるが、それらは現時点では(ユーザにもソーシャルネットワークプロバイダにも)ほとんど理解されないままいいかげんに扱われている。 インキュベータグループの活動の一環として、Webにおけるセンサとユーザコンテキストをより密接に統合する既存のW3C活動*8に対して、考慮すべきソーシャルネットワークプロバイダの特定のユースケースと要求仕様をインプットする*9
多くの未来のビジネス機会が、コミュニティ内の商品やサービスの対価を交換する規約やプロトコルの欠如によって失われている(もしくは失われようとしている)。 インキュベータグループはその活動の一環として、ソーシャルネットワーク業界にとって重要なイネーブラと考えられる、少額決済プロトコル策定の新規活動の立ち上げか過去の活動成果の再利用の可能性を検討する。
ソーシャルネットワークのフィーチャーやサービスのアクセシビリティとモビリティに関する問題に対して、現在のソーシャルネットワークの実装とWebのすべてのユーザのデバイスや能力の間のギャップを埋めるために、実効性のある対策を行う必要がある。 関連するW3C WG*10に、ソーシャルネットワークアクセシビリティとモビリティに関する問題に対する実効性のある対策の必要性を知らせる*11

*1:ただし、ポジションペーパーは原則的に、あくまで参加者個人の見解に過ぎず、企業等の組織としての見解とは必ずしも一致しない場合があることに注意する必要がある。

*2:Web2.0の潮流を作ることが出来なかったW3Cの影響力を疑問視する向きもあり、絶対的なものではないことは確かだ。

*3:概要部分はなるべく原文に忠実に訳すことを心がけたが、W3Cの基準に適合するほど厳格ではないので、気になる人は原文を確認してほしい。

*4:現在利用できるデータ交換フォーマットとしては、FOAFRDFaXFNや他のmicroformatsSIOC及びPortable Contacts等がある。

*5:現在利用できるデータ交換プロトコルとしては、OpenIDOAuthXMPPがある。

*6:オープンソースを用いた分散型ソーシャルネットワークアーキテクチャの提案としてはFOAF+SSLFOAF+OpenIDがある。

*7:技術的アクションとしては、ソーシャルネットワークにおける新たなユーザインタラクションへの対応のためのP3Pの拡張やアクセス制御ポリシーの記述のためのオントロジの整備などが挙げられる。

*8: W3C Geolocation Working GroupW3C Ubiquitous Web Applications Working GroupW3C Web Applications Working Group及びOMTP BONDIがある。

*9:ユーザそれ自身と言うよりはより絶対的なオントロジ、たとえばhomeやofficeといった住所とは異なる位置記述やworkdayやcommuting timeといった時刻とは異なる時間記述のオントロジはUbiquitous Web Applications Working Groupないしは、Delivery Context Ontologyで取り組む可能性がある。また、メレオロジと呼ばれる何かの一部ないしは何かを包含する何かを意味するオントロジは多くのタイプのコンテキスト情報を記述する必要があるが、W3C OWL Working Groupで議論される。

*10:WAI Education & Outreach Working GroupおよびMobile Web Initiative

*11:Mobile Web Best PracticesMobile Web Application Best Practicesなどがモバイル適応に関してガイダンスを提供している。Web Content Accessibility Guidelines 2.0(WCAG2)およびAuthoring Tool Accessibility Guidelines (ATAG)はアクセス性の優れたコンテンツのガイドラインを提供しているし、WAI-ARIAアクセシビリティユーザビリティに優れたより複雑なWebアプリケーションの作成を可能とする。