いよいよ実世界にタッチするiPhoneアプリまとめ その2

本エントリでは前回に引き続き、iPhoneアプリケーションのうち、特に実世界とのインタラクションを有するものについて紹介する。カテゴリとしては、拡張現実(Augmented Reality)、コンテキスト・アウェアネス(Context Awareness)、位置依存サービス(Location Dependent Services)などが該当するだろう。前回をご覧になっていない方はまず下記エントリからご確認いただきたい。

AR系アプリはツールキットの充実化などで今後もますます増加するものと考えられるが、本エントリは全ての網羅を目的とするものではなく、中でもキラリとアイデアが光るものを中心に取り上げていきたい。

GolfScope:ピンまでの距離を計測

GolfScopeは光学式のゴルフスコープを実現する。ゴルフ場のピンが見えていれば、ピンまでの距離を瞬時に計測することが可能だ。精度は150ヤード/メートルで±10ヤード/メートル、100ヤード/メートルで±3ヤード/メートル、50ヤード/メートルで±1ヤード/メートルとなる。同様のアプリにGolf Telemeterがあるが低評価。またGPSに基づきガイドを行うアプリも複数存在する。






Golf Coach:ゴルフスウィングの動きチェック

Golf Coachはゴルフスウィングの動きチェックができるコーチングアプリケーションである。iPhoneを所定の位置に装着してスウィングすることで、頭部の動き、肩の回転、パター加速度を計測しチェックすることができる。富士通が開発した同種のアプリケーション、ETGAスウィングレッスンほど本格的なものではないが、必要な加速度センサとジャイロセンサをiPhoneは有しており同様の事は実現できるはずなので、今後の発展に期待したい。






DocSwing:ゴルフスウィングのリズムチェック

DocSwingはゴルフスウィングの重要な要素である加速度、テンポ、リズムを計測し、グラフ表示するアプリケーションである。iPhoneを腕に装着しスウィングすることで、保存されたベストスウィングデータと比較表示することが可能だ。



Body Massage Stress Free/iHand MassageiPhoneをマッサージ器に

Body Massage Stress Relief FreeおよびVibrating MassageriPhoneのバイブ機能を用いて、iPhoneをマッサージ器にするアプリである。Body Massage Stress Relief Free(画像左)は3つの振動パタンを選択でき、30秒間のマッサージが行える。Vibrating Massager(画像右)は強度やパタン設定に加えて、振動に同期したアニメーションを表示することができる。しかしながら、基本的にパワーが不足しており、実用的とは言い難くジョークソフトの域を出ない。

パワー不足は如何ともし難いのでiPhoneの通信機能を活かして恋人の心拍と同期できるとか、CPUをぶん回して温熱療法を可能にするとか、GPS電子コンパスを活用して風水の龍脈に基づいた超自然的な何かに期待してみるとか、通常のマッサージ器にはない付加価値の創造に努力すべきだろう。






Layer Rality Browser:3つの表示モードを持つARブラウザ

Layer Rality Browserはご近所ナビと同じように、AR表示(real)、地図表示(map)、リスト表示(list)の3つの表示モードを持つARブラウザだ。

実世界の風景にアノテーションを重畳させるAR表示は視覚的な格好良さはあるが、「ぶっちゃけ地図の方が分かりやすいよね」という批判を受けがちである。いわゆる、AR表示はHMDのように実世界を特別な操作無しに自然に見られる環境がまずあって、その上にアノテーションを提示することを前提に設計されてきた。現在のiPhoneでは実世界を見るために、まずカメラを起動しiPhoneのカメラを構える必要があるため、必ずしもAR表示が使いやすいとは言えない(本来受動的に使うべきインタフェースを、主導的に使っている)。位置精度、処理速度、バッテリ持続時間などの課題もあり、インタフェースや使いどころをしっかり考えないと実用的なアプリとはなりにくい。

AR Reality Browserは、ARを実用レベルに近づけるためにインタフェースの工夫をしている。AR Reality Browserは実用性の観点から検索、ナビゲーションには地図表示を選択できるようになっている。また純正MAPアプリと連携してGoogle MAPによるナビが行えるなど、実用性を重視した設計を行っており、現時点ではセカイカメラよりも使いやすいようだ。








Robotvision:周囲の位置属性を表示

Robotvisionは現在位置の周囲のbing、TwitterFlickrWikipediaの検索結果を表示するアプリである。AR表示と地図表示のシームレスな連携を実現しており、iPhoneを水平にすると地図が表示され、iPhoneを縦に掲げるとAR表示になる。iPhoneの姿勢と表示切替の連動は直感的だ。




ご近所ナビ:地図表示とAR表示の分割表示

ご近所ナビは現在位置の周囲の施設等を検索できるアプリだが、地図表示とAR表示の2種類の表示を上手く融合させている。ご近所ナビは2画面分割表示を実現することで、実用性の向上を図っている。地図表示が基本にありiPhoneを縦に掲げたときにAR表示が追加的に現れる。

AR Reality Browserや、Robovision、ご近所ナビのように、実用的な観点からARを用いたインタフェースを洗練する努力が継続的になされることを期待したい。






Babelshot:カメラ画像を文字認識して翻訳

Babelshotは、カメラで撮影したテキストを文字認識し(OCR: Optical Character Recognition)、Google翻訳で翻訳するアプリである。OCRに対応するのは、アフリカーンス語アルバニア語、カタロニア語クロアチア語チェコ語デンマーク語、オランダ語、英語、エストニア語、フィンランド語、フランス語、ガリシア語、ドイツ語、ハンガリー語アイスランド語インドネシア語、イタリア語、ラトビア語、リトアニア語、マレー語、マルタ語、ノルウェー語、ポーランド語、ポルトガル語ルーマニア語スロバキア語、スロベニア語、スペイン語スワヒリ語スウェーデン語、タガログ語トルコ語だが、アラビア語ベラルーシ語、ブルガリア語、中国語、ギリシャ語、ヘブライ語ヒンディー語、日本語、韓国語、マケドニア語、ペルシア語、ロシア語、セルビア語、タイ語ウクライナ語、ベトナム語は今のところ手動入力にしか対応していない(OCR非対応)。

文字認識精度、翻訳精度/速度共に改善すべき点は多いが、ちょっとした意味を知りたいときなどに使うことはできるだろう。同様のアプリにPicTranslatorがある。目に見える外国語の文字をリアルタイムに翻訳してアノテーション表示してくれる未来はもうしばらく先のようだ。








SunSeeker:実世界の太陽位置を表示

SunSeekerGPSの現在位置と電子コンパスから太陽位置と軌跡を実世界に重畳して表示するアプリである。日時を指定すれば、過去・未来の太陽位置を知ることができるので、高層ビルに太陽が遮られるタイミング等を予め知ることが可能だ。必要とする人は限られるが不動産屋、園芸家、カメラマン、建築家などには役に立つだろう。

見えないものを直感的に見るという点において、AR表示は優れたインタフェースであり、太陽位置の表示という目的にはマッチしているようだ。iPhoneはARを実現するには多くの制約をもったデバイスだが、インタフェースが有する特性を考慮して設計すれば実用的なアプリを実現できることを示している。








XSights:実世界のオブジェクトからリンク

XSightsはユーザが実世界のオブジェクトにリンクを張ることができるアプリである。カメラを対象にむけて撮影し保存すると、写真を解析・オブジェクト認識し、オブジェクトに対応する情報、コンテンツ、動画、クーポン券等を入手できるというものだ。






雑誌や新聞記事、屋外の広告、TV画面、ランドマークなど、何でもiPhoneをかざしてみれば、そのものに関する情報をゲットできると言うアプリケーションには夢がある。しかし、そのためには対象が何であるかと言うことが認識可能であり、さらに対象に対するリンクが予め規定されていなければならない。公式ページにはユーザがリンク設定したオブジェクトや公式にリンク設定された映画ポスターが集められているが、リンクが設定されたオブジェクトの数も認識率も絶対的に不足しており、現時点ではほとんど何も認識できず、何の情報も得られない。

実オブジェクトからのリンクには二次元バーコードが普及している。二次元バーコードはデザインを損ねると言う問題があるが、リンクが存在していることが視覚的に分かる、精度良く認識できると言う利点がある。逆にXSightsはデザインには影響しないが、リンクの存在が分からない、認識精度が低いと言う問題がある。1つ目の課題は結構重要で、デザイン性を重視した不可視二次元バーコードや音声、照明への多重化技術が、認識精度は問題ないのに普及しない大きな要因のひとつだ。そこにリンクがあることが分からなければ、誰もそれにアクセスしようとしないのである。

これを解決するためには、少なくともあるカテゴリに属するあらゆるオブジェクトにリンクを設定し、XSightsで撮影してみれば何かがあるという期待をユーザに浸透させること、オブジェクトの認識率を飛躍的に向上させ、角度、照明、距離等が変わっても実用的な精度で高速に認識できることの2点が必要になる*1。そこまでやってやれることが二次元バーコードと変わらないのであれば、事業化は厳しいと言わざるを得ない。

KART: Koozyt AR Technology:マーカー型AR/マーカーレス型AR

暦本純一氏が技術顧問を務め、PlaceEngineを供給するクウジットはKART: Koozyt AR Technologyを発表した。マーカー型はSONY CSLで開発されたCyberCodeを利用したものだが、リンクというアプリケーションにおいては既存の二次元バーコードと大差はない。CyberCodeは厳密な位置あわせが行えるという利点があるのだが、リンクには位置あわせはそれほど重要な要素ではないように思う。仮想キャラクタやオブジェクトとの重ね合わせが重要な要素となるようなアプリケーションの登場を期待したい。

一方、マーカレス型「ポスター・アンプ」の方は、ポスターやチラシ、看板などに対象物を限定しているようで、XSightsと同様の戦略を採っている。もちろん、上述したXSightsの課題は同様に当てはまるので、上手くプロモーションしないと事業には成り得ないだろう。



東のエデンに出てきた「東のエデン」システム([1],[2],[3],[4])のようにどの角度からでもリアルタイムにオブジェクトを認識し、即座にソーシャルタギングによるアノテーション情報を付与するようなアプリケーションの実現にはまだしばらくの時間がかかりそうだ。ランドマークの認識は位置情報と結びつけるとして、顔画像処理技術の研究動向と応用事例サーベイした顔認識は不特定多数、任意角度になると途端に精度が落ちてしまう。家電機器や犬の認識なんて一体どうやるのやら。

Arcade Reality: ARシューティングゲーム

Arcade Realityは実世界上に敵キャラクタが重畳されるAR型のシューティングゲームである。しかしながら、現時点では実世界とのインタラクションは無く、単に背景が実世界になっただけと言う印象だ。

たとえば、明るいところが苦手な敵が出たら暗いところに移動すれば有利になるとか、その逆とか、実世界上の位置に応じた属性が定められていて海辺に出ると水属性になり火属性の敵に大ダメージを与えられるとか、もっと単純に実世界の色に応じて属性や敵の種類が変わる等の変化があっても良いだろう。高速移動時にはヘイストの効果がかかり、高い位置にいると高所からの攻撃ボーナスが付くとか、周囲の騒音レベルに応じて攻撃の密度が異なるなど、もっと実世界とインタラクションをして欲しいと思う。マーカレス型ARを上手く使えば、実世界の遮蔽物に隠れて攻撃などもできるかもしれない。







以上、今回は特に実用性の観点から実世界とのインタラクションを有するアプリのもつ課題、可能性について述べた。前回、今回と取り上げたアプリは従来のアプリにない可能性を有しているが、実用性という観点から見れば今一歩であるということは否定できない。現状は話題性が先行している部分があるが、今後インタフェースや機能が洗練され本当に使えるアプリに昇華していくことを期待したい。

*1:ゼータ・ブリッジが提供するフォトナビワインはワインのラベルを認識してワイン情報を提供するサービスだが、対象をワインラベルに限定することで網羅率と認識率を向上させている。