ソニーのディスプレイ切り札「有機EL」――パラダイム・シフトのトリガ
やはり今回のCESの目玉はソニーの有機ELディスプレイだろう。昨日も触れたように、ほぼ素人目では問題ないレベルまでFPDの画質が向上している昨今において、ユーザの購買行動を決定付ける要因となるのは画質以外の目に見える点──デザインとなることは間違いない。
有機ELディスプレイの実現する筐体の薄さは、他のFPDが太刀打ちできないオンリーワンの特長であり、実用化されればテレビ市場の勢力図を一気に書き換えることだろう。図は現行のシャープの13型液晶テレビLC-13SX7と、今回発表されたソニーの11型有機ELを写真から抽出して縮尺をあわせたものである。LC-13SX7のパネル部分の奥行きは88mmであるから、最薄部3mmは1/30程度の激薄となる(初出時、27型と11型を取り違えていたので、図を11型に修正)。
見て分かるように、このインパクトは一目瞭然である。シャープの液晶テレビは無骨でずんぐりとした印象を与え、有機ELパネルと比べるのがかわいそうなぐらいだ。この2台が同じ程度の値段で並んでいれば、液晶を選ぶ人はいないだろう。今回の展示でもっとも注目すべきところは、有機ELの驚愕的なきれいさではなく、それが実現するデザイン上の差別化である。
これと同じことは90年代末にも実は起こっている。1997年、ソニーが平面ブラウン管テレビ「ベガ」で世界のテレビ市場を席巻したときのことだ。ベガは、従来困難とされていた画面のフルフラット化を実現したのだ。あの時もブラウン管の画質は一般ユーザにとって十分な水準まで向上していた。そこでユーザの評価尺度がテレビの画質から、デザインに移行したのである。平面ブラウン管を採用したベガのデザインは、他社の丸みを帯びたデザインにはない洗練された美しさを実現しており、瞬く間にヒット商品となった。完全な平面のブラウン管を作ることが出来なかった松下電器は徐々にシェアを落とし、ソニーに遅れること2年、ようやく平面ブラウン管テレビ「タウ」を投入したが、その時点ですでに雌雄は決していた。松下は1950年代から守り続けてきた国内トップメーカーの地位をソニーに明け渡したのである。それと同じことがまた起ころうとしている。この流れに追随できないメーカーは早晩淘汰されることになるに違いない。