『それでもボクはやってない』──痴漢冤罪事件の怖さ
超映画批評で98点という高得点をマークした映画、『それでもボクはやってない』を見た。Shall We ダンス?の周防正行監督が2年以上にわたる徹底取材に基づき映画化した今作は、あらゆる男性が陥る可能性のある理不尽な罠──痴漢冤罪事件をリアルに描いている。
痴漢の事実を認めた男は数時間で釈放される一方で、身に覚えの無い犯行を認めなかった主人公は何週間もの間拘留されることになる。刑事も判事も主人公が犯人だと頭から決めつけ、彼の釈明に耳を貸そうとしない。弁護士は痴漢冤罪で無罪になる可能性がきわめて低いことを示し、犯行を認めて示談するよう薦めるが、やっていないことを認めることを良しとしない主人公は徹底抗戦を決意する。
そもそも被害者の主張以外犯人を特定する証拠が希薄な痴漢事件において、痴漢をしていないことを証明するのはさらに難しい。また、日本の裁判制度は無罪が極めて出にくい構造になっていることが、裁判の過程で次々と明らかにされる。主人公の弁護士グループは、実験などを通し論理的に主人公の無実の証明を図っていく──。
自分にまったく非が無いにも関わらず、ある日を境に人生を滅茶苦茶にされた主人公の悔しさが非常に良く伝わる映画である。もしこんなことが自分の身にかかったらと思うとぞっとする。映画でも触れられているように、仮に痴漢を認めた場合、前科が付き3〜5万円の罰金を払うことになるが、その日のうちに釈放される上、前科は一定期間立てば消えるし、犯罪の事実が公表されることも無い。一方、否認を続けた場合には、警察・検察に数週間にわたり拘留され、釈放には多額の保釈金を払う必要が生じる。裁判となれば判決まで1〜2年かかる上、有罪率は99.9%という絶望的な高さだ。社会的にも事件が報道され、多くの不利益をこうむることとなる。
これほどのリスクを払って真実を貫くべきか、それとも現実的な判断をすべきか。個人的には、やってもいないことを認めるなんて悔しくて仕方が無いので、徹底抗戦したいが、もしそれで敗訴した日には生きていく希望をすべて失いそうだ。さらに悪いことに痴漢冤罪から身を守る法によれば、適当な男性から示談金をせしめる為に嘘の証言をして罪の無い男性を痴漢犯人に仕立て上げる卑劣な女子高生が存在すると言う。そんな他人の人生を破綻させるような行為を行う奴こそ裁かれるべきだと思うが、世の中はまことに理不尽だ。
とりあえずの対処法としては、身柄を拘束されると負けがほぼ確定するので、堂々とその場を立ち去るのがベストらしい。