監視カメラの違法性を排除するためにはリアルタイム笑い男マスク機能の実装が不可欠である。

LM-72007-03-12


地下鉄サリン事件、9.11後のテロ不安を受けて、安心・安全を目的とした監視カメラの導入が全国で相次いでいる。監視社会を拒否する会では、監視カメラが顔貌認識技術と結びついて人間Nシステムとなる恐れがあると主張している。会は1月27日に国土交通省に「顔認証システム」実験中止を申し入れているが、その主張の一部を抜粋すると次のようになる。

1.わが国においては、日本国憲法第13条にもとづく権利として、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」ことが認められ、公権力による無断撮影は正当な理由なしには認められていません。例外的に公権力による写真撮影が許容されるのは、「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである」と厳格に判断されております(1969年12月24日最高裁判決)。
 しかるに、貴省らが計画している地下鉄霞ヶ関駅での「顔認証システム」の実証実験は、正当な理由なく、改札口を通過する全ての人の顔に照準をあて、無断で撮影・記録するものであって、上の最高裁判決が示す国民の権利(肖像権)を乱暴に侵害する憲法違反行為であります。

確かに、彼らが主張するように日本国憲法第13条では個人の尊重、幸福追求権及び公共の福祉について規定しており、最高裁京都府学連事件判決において、「個人の私生活上の自由のひとつとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する・・。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」と判示して、肖像権の具体的権利性を認めている。

これに関連して、「警察官による個人の容ぼう等の写真撮影は、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、証拠保全の必要性および緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときは、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、憲法一三条、三五条に違反しない」とし、断りなく個人を撮影することが認められる条件を明確に示している。

他にも大阪市西成区のあいりん地区に設置された15台のテレビモニタの適法性に関し、「当該現状において犯罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合」には、一定の条件の下で、事前のビデオ録画も許されるとの判断もある。これらの判例を考慮すると公共の場所で無断で人物を撮影して許されるためには次の条件(時間的近接性)を満たす必要がある。

  1. 犯罪が現に発生しているか、犯行の直後である場合
  2. 犯罪はまだ発生していないが、犯罪が発生する可能性が極めて高い場合

さて、監視カメラに話を戻すと、犯罪の発生を未然に防ぐという目的でコンビニや繁華街、ATMなどに設定される場合が多いわけだが、こういう箇所は犯罪が発生する可能性が極めて高い場所であると言えるのだろうか。過去の判例を見てみると、「極めて高い」とは一触即発のような事態を指すので、「極めて高い」とまでは言えないと考えた方が自然である。現在の街の至るところに設置されている監視カメラは違法である可能性が高いのだ。

結局、監視カメラの適法性を確かにするためには、各個人の肖像権やプライバシー権を侵害しない監視技術を採用するか、監視カメラ採用の論理的必然性を説明し事前に了解を得た上で撮影するか、上記の最高裁判断の時間的近接性要件を外す理論武装を形成するしかない。

プライバシー権の確保のためには視覚的抽象化(visual abstration)と呼ばれる技術が必要になる。視覚的抽象化とは、視覚情報の開示制御を指し、具体的にはモザイクをかけるなどしてプライバシーを保護した画像を生成することを指す。つまり何を言いたいかと言えば、あらゆる監視カメラにリアルタイム笑い男マスク機能*1を実装すれば万事解決というわけだ*2

*1:静止画をマスクするWebサービスが話題になっているが、USBカメラのリアルタイムストリームにマスクできる点で本エントリの目的に合致している。こちらの方がネタ的に速いし

*2:本記事のオチ部分以外は情報処理 Vol.48 No.1『人物を認識することの法的問題点〜監視カメラシステムの設置運用基準〜』を元に再構成したものであるが、元記事の結論はこんなイイカゲンなものではないので、興味のある人は原文を参照願いたい