FORZA2に見るコンテンツ創造型コミュニケーションのあるべき姿


2007-06-02付エントリ「痛車の希少性を高めると言う点で極めて秀逸なFORZA2の貧弱なペイントツール」で紹介したXBOX360用レースゲーム、FORZA2における痛車製作とそれに伴うコミュニティの盛り上がりだが、IT-PLUS痛いニュースでも取り上げられ、再び注目を集めている。FORZA2のこの成功はコンテンツ創造型コミュニケーションを活性化させるための様々な要因がうまく機能した最初の例だといえる。一部は既に先のエントリにおいて触れているが、FORZA2がこれほどまでに盛り上がった理由について、以下にまとめておきたい。

驚愕すべき痛車の数々、海外フォーラムの反応などは先のエントリを参照願いたい。右写真はそのほんの一例のサムネイルである。

貧弱なペイントツールの提供

FORZA2では標準のペイントツールを使って、車を自由にペイントすることが出来るが、画像のインポート機能はない。信じがたいことだが、これらのペイントは総て予め用意された基本図形の組み合わせで描画されているのだ。基本的な作成方法はYouTube - Forza Paint 2を見るのがわかりやすいが、この貧弱なペイントツールであのような詳細なディテールの絵(中には実写にしか見えないものもある)を描くというだけで賞賛に値する。これが外部画像をコピペして誰でも作れるのならばここまで盛り上がったりはしない。ゲームユーザはみんな対等の条件であるはずなのに、信じがたいほどのクオリティの痛車が走っている。この驚きは海外フォーラムの次の反応に集約されていると言えるだろう。

中にはPhotoshopによるFakeだと主張する人もいて、彼らに与えた衝撃の大きさを物語っている。そして同じゲームを買ったとしても自分たちにはとうてい真似できないと言うことを悟るのだ。こうした賞賛は、作者にとっても心地よいものであるに違いなく、それが新たなモチベーションとなって次の新作を生み出すこととなる。こうして貧弱なペイントツールは、多くの痛車を生み出す正のフィードバックを生み出すのだ。

プレゼンテーションの場の提供

FORZA2ではゲームのスナップショットを取ってそれを公式フォーラムやblog等に貼り付けて公開することが出来る。代表的なところでは次が挙げられる。

ゲーム中では他のユーザのカスタムカーとレースが行えるため、他のユーザに見せつけながら走ることが出来るし、最近ではYouTubeニコニコ動画などにその様子がアップされ、それがまたblogで紹介されるというフィードバックが形成されている。たとえば、デジモノに埋もれる日々: Forza2 Live!対戦 - 「痛車走行会」におじゃましてきました。などはその典型だろう。

今までも自分でカスタムすることが出来るゲームは多くあったが多くは自己満足にとどまっており、他のユーザに触れることはなかった。ところがFORZA2は、blog等のインターネットコミュニティとスクリーンショット/リプレイ動画などを通して連携し、広く他者にアピールする場を提供したのだ。これによりコミュニティの場はゲームユーザだけに留まらず広く一般に開放され、より多くの賞賛(=作者のインセンティブ)が得られるようになった。

これと全く反対の事を行ったのが、7月末でサービスを終了するときめきメモリアルONLINEである。ネットコミュニティが崩壊するとき - GIGAZINEWikipediaで詳細にまとめられているように、スクリーンショットのインターネットにおける掲載に極めて厳格な制限を課したのだ。スクリーンショットの掲載にはコナミに対し公認申請を提出し、審査を受け「公認ファンサイト」とにしての認定を受けて初めて許可された。こうした制限がネットにおけるコミュニティの育成を阻害し、ひいてはコミュニティの衰退へとつながったのは明らかだろう。

オークションの場の提供

上記は日本人による痛車を見た外国人ユーザの嘆きだが、FORZA2ではオークションハウスでカスタムカーを仮想通貨によって取引することが出来る。作者にとっては自分の作ったカスタムカーがどの程度の価格で落札されるのか、定量的な評価を得ることが出来るし、元データさえあればいくら売っても無くならない(希少性が少なくなるのを防ぐためにバリエーションの総数には気を使っている人が多そうだ)。より高い価格で落札された車があるならば、次はそれを超える車を作ってやろうと燃える作者もいるだろう。一方、他ユーザにとっては、自分では作ることが出来ない車を購入するチャンスがあるということで、大いに盛り上がっている。デジモノに埋もれる日々によれば、1レース勝つと0.3万〜2万CR入手できるのに対し、人気の痛車の相場は50万CR〜200万CRだといういまや200万〜1,000万CR超だという。それでも手に入れたいと思う人がいるということだ。

このような流通手段の提供により、ペイントツールによるカスタマイズの楽しみは、一部の選別されたユーザに限定されたものではなく、他のユーザをも巻き込んで普及していく。実際、貧弱なペイントツールによる痛車の製作には長時間かかりそちらにかかりきりになると、レースをしている時間が取れなくなる(本末転倒だが)。せっかく作っても、せっかくプレゼンテーションの場が提供されていても、それをアピールする機会が少なくなってしまう。ところが、オークションなどを通して流通すると、忙しい作者の代わりに他のユーザが彼の車を他人に見せびらかせてくれるのだ。彼らは顧客であり、そしてセールスマンという側面も持っているのだ。現実世界における車の流通と全く同様である。

まとめ

このようにFORZA2は、ユーザが創出するコンテンツを、ゲーム内やインターネットにおけるコミュニティで共有し、評価し、流通させるための仕組みを多く備え、それらが相互に連携し、正のフィードバックを生み出すことで、コミュニケーションを活性化させることに成功している。FORZA2の成功例は、コンテンツ創造型コミュニケーションのあるべき姿を考察する上で非常に重要な示唆を多く与えてくれる。

もっとも、FORZA2は日本では1万本しか売れていないし、発売から1ヶ月を経たぐらいで熱狂は冷めようとしている。一時的な熱狂状態を作り出すことに成功しても、それをさらに広げ、長期的に維持していくことにはまだ成功していない。たとえば、車の種類を増やす、内装、オプションパーツなどカスタマイズ・ペイント出来る部分を増やす、複数ユーザによるチーム作成をサポートし、統一感のあるペイントがなされた車の所属するチーム間のレースなどを行う、等々コミュニティを維持・発展させる施策はいくつもあげることが出来る。

FORZA2の事例をよく分析し、それらをふまえた上でより洗練されたコミュニティが提供されることを期待したい。ネットワークを介したコミュニケーションと連携することで、ビデオゲームは大きくその性格を変えた──FORZA2はそう思わせるのに十分な衝撃をもたらしてくれた。