原爆しょうがない発言で久間防衛相辞任

LM-72007-07-03


久間防衛相は原爆しょうがない発言の責任を取る形で防衛相を辞任、後任に小池百合子首相補佐官(安全保障担当)が抜擢された。初の女性の防衛相である。安倍政権発足以来、安全保障担当補佐官として安全保障に携わってきており、防衛相関係者ともパイプがあるという。もともと省内の一部には待望論もあったといい、単なるイメージ戦略のお飾り人事というワケではないようだ(もちろん、その側面があることは間違いないが)。

今回の人事はこのままでは参院選が戦えないという参院自民党と公明党の強い反発が引き金になっているようで参院選前にこのような発言を行った久間氏は短慮という他ないだろう。しかし、発言内容をよく見てみると、多分に誤解される要素はあるものの、それほど間違った意見を言っているワケではないことが分かる。該当部分の久間防衛相の発言を引用すると次の通りだ。

日本が戦後、ドイツのように東西で仕切られなくて済んだのはソ連が(日本に)侵略しなかった点がある。当時、ソ連は参戦の準備をしていた。米国はソ連に参戦してほしくなかった。日本との戦争に勝つのは分かっているのに日本はしぶとい。しぶといとソ連が出てくる可能性がある。日本が負けると分かっているのにあえて原爆を広島と長崎に落とし、終戦になった。長崎に落とすことによって、ここまでやったら日本も降参するだろうと。そうすればソ連の参戦を止めることができると(原爆投下を)やった。幸いに北海道が占領されずに済んだが、間違うと北海道がソ連に取られてしまった。その当時の日本なら取られて何もする方法がない。長崎に落とされ悲惨な目に遭ったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理で、しょうがないなと思っている。それに対して米国を恨むつもりはない。勝ち戦と分かっている時に原爆まで使う必要があったのかどうかという思いは今でもしているが、国際情勢、戦後の占領状態などからすると、そういうことも選択としてはあり得るのかなということも頭に入れながら考えなければいけない。

http://www.topics.or.jp/contents.html?m1=1&m2=&NB=CORENEWS&GI=Detail&G=&ns=news_118318036851&v=&vm=1

久間氏は原爆投下により日本の降伏が早まり、結果としてソ連の日本侵攻を食い止めることが出来たと主張している。第二次世界大戦後の日本の統治に関しては、分割統治計画が知られている(図もWikipediaよりの引用)。

北海道と東北はソ連占領地域、関東・中部・福井県を除く北陸及び三重県付近はアメリカ占領地域、四国は中華民国占領地域、中国・九州はイギリス占領地域として統治し、首都東京の23区は米・中・ソ・英の、福井県を含む近畿は中華民国アメリカの共同管理下に置くという計画であった。

日本の分割統治計画 - Wikipedia

もし、このような分割統治がなされていたら、戦後日本の現在のような復興は望むべくもなかっただろう。そして、この分割統治が実現されなかった理由の一つとして、原爆投下による日本の早期降伏があるとされている。

久間氏は、原爆投下の必要性については疑問を呈しながらも、ソ連の参戦という国際情勢、戦後の分割統治という事を考えると、アメリカ側の選択肢として原爆を日本に投下するということもあり得るのではないかと発言している。この認識自体は妥当であり、原爆投下を正当化する人々の論拠の一つとしてしばしば引用される。ただし、あくまで選択肢の一つとしてはあることは理解するという話であって、その選択肢を選択したことが妥当であるかどうかと言う話とは別であった可能性が高い。

しかし、論理的に正しくても、心情的に受け入れられるかと言われれば、話は別だ。原爆投下が人類史上最も残酷な無差別大虐殺の一つであることは確かであり、いくらそれによるメリットを強弁したところで、それが正当化されることはあってはならない。日本は唯一の被爆国として、核兵器利用を正当化する勢力と対峙し核兵器利用をなんとしても止めさせなければならない。それは被爆地である広島・長崎県民の願いであり、ひいては戦後日本の願いでもあったはずだ(少なくとも戦後教育はその方向でなされてきた)。その願いに反する発言を、しかも参院選直前というこのタイミングで行った久間防衛相はやはり自身の立場が分かっていなかったと言えるだろう。マスコミによって前後の文脈を無視して「原爆投下はしょうがない」という部分だけ強調されて報道されたのは、彼にとって不幸であったかも知れないが、そういう部分も含めて注意深く発言することが政治家には求められるはずだ。