足の裏に付いたニセの米粒を求める人々
読売新聞が伝えたところによれば、文部科学省はニセの学位を持つ大学教員の実態調査に乗り出したようだ。対象は国公私立総ての大学に及び、秋頃には結果がまとまる予定だという。
実際に就学や論文などの成果を上げなくても金銭と引き替えに学位を授与する機関はディプロマミル(diploma mill/証書工場)ないしはディグリーミル(degree mill/学位工場)と呼ばれており、文部科学省が疑いがあるとしている機関はアメリカ、中国、イギリス、オーストラリアなどに所在しているが、それぞれの国から大学として認定されていない団体だという。
国際的な大学の質保証に関する調査研究協力者会議(第3回)−配布資料3:「ディプロマ(ディグリー)・ミル」問題についてによればディプロマミルには次の特長が見られる。
国際的な大学の質保証に関する調査研究協力者会議(第3回)−配布資料3:「ディプロマ(ディグリー)・ミル」問題について
- 学位が金で買える
- その証拠がないのにアクレディテーションを受けているような言及がある
- 怪しげなアクレディテーション団体から認定を受けているような言及がある
- 連邦や州の設置許可を受けていない
- 学生の出席要件が(あれば)小さい/学生の単位取得要件となる課業量が少ない
- 学位取得までの期間が短すぎる
- 経験や履歴書だけで学位が取れる/逆に正統な教育を行うにしては経費が安い
- キャンパスないし事務所の住所が示されていない=私書箱しかない
- 教員の名前や肩書きが公表されていない
- 有名大学と似た名前がついている
- その証拠がないのに出版物があるような言及がある
ここでアクレディテーションとは、その大学の質を保証する民間団体による適格認定を指すが、いい加減な認定を行うアクレディテーションもあり、アクレディテーションを受けていると言ってそれが正当かどうかは分からない状況で、アクレディテーションの正当性を評価するメタアクレディテーションも必要かも知れない。
ちなみに、某UFO研究家が教授に収まっていて日本とアメリカに拠点を持つ某大学にはディプロマミルではないか?という疑いが常々囁かれているが、それらの疑いを記載したwikipediaの該当項目は削除、疑いのエントリを掲載したblogには弁護士より内容証明を送付するという手段に出ているようだ(なのでここでは明記しない)。しかしながら、アメリカ合衆国教育省の公認学校検索ページには該当する大学の登録はなく、日本においては健康食品販売を業とする株式会社に過ぎないので、同大学の発行する学位に価値がないのは明白だ。
そうなぜか、健康食品販売会社なのである、この大学。まあ、この大学の肩書きが表示される人が出演するテレビ番組は、UFO特番とか超能力番組とかそういう奴ばかりなので、いくら何でも普通の大学関係者でこの大学の学位を使ってポストを得たりしている人はいないと思うが、ひょっとするかも知れない。
昔から博士号は「足の裏に付いた米粒」だと言われてきた。その心は、取らないとなんか気持ちが悪いけれど、取ったところで食えないというものだ。実際ニーズを無視した博士倍増計画による博士余りは深刻で読売新聞によれば、日本物理学会が博士に仕事時間の20%を自由に使って好きな研究をさせるよう無邪気な提言していたりする。博士号なんて取ったところで、変に専門化されていて企業にとっては使いにくいだけだし、当然20%も遊ばせておく余裕なんて無い。こんな状況では、日本企業において無名大学の学位を取得することによるメリットなんて無きに等しいと思う。
博士号が足の裏に付いた米粒だとすれば、ディプロマミルによるニセ学位は、「足の裏に付いた中国産の有毒米粒」だと言えるだろう。何の役にも立たないばかりか、何で出来ているか分からないし、体には悪そうだし、迷惑この上ない。こんな厄介モノをわざわざ金を払って求める人がいるとは信じがたいが、毒だろうが何だろうがのどから手が出る人も世の中にはいると言うことだ。ちなみに、今回の参議院議員選挙にも懲りずに立候補しているドクター中松氏は工学博士、医学博士・法学博士・理学博士・人文学博士だと自称しているが、選挙公報には博士号が記載されていない。なぜでしょうね。