原発事故に対する海外の空気が読めてなかった日本

22日、日本政府は一度は余裕がないとして断っていた柏崎刈羽原発に対するIAEA国際原子力機関)の調査団を受け入れることを決めた。何が日本政府の方針を変えさせたのか。

この理由を窺わせる出来事が24日に起こった。日本各地で7月末から親善試合を予定していたセリエA・カターニアが来日中止を発表したのだ。理由は柏崎刈羽原発のトラブルで事実を誤認、現実以上に深刻に受け取ったからだという。日本国内では漏出した放射能は極めて微量であり、付近の環境に与える影響は無いし、ましてや人体への影響など皆無であると報じられている事を考えると、カターニアの判断は奇異に映るが、海外の報道は日本における報道よりもセンセーショナルで危機感を煽るモノとなっているようだ。

だが原発の問題がイタリアで繰り返し報道され、19日に来日中止を伝えてきたという。事務局側は「報道で放射能が漏れて1万人が避難している、と誤って受け取ったようだ。事実とは違うとイタリア大使館なども通じて説得したが、特に選手の親の反発が強かった」と話した。

http://www.asahi.com/sports/update/0724/TKY200707240504.html

確かに避難者数は一時1万2,000人を超えていたが、それは自宅が倒壊したり危険な状態になったからであって、放射能が漏れたこととは関係がない。 環境放射線監視テレメータシステムのリアルタイムデータを見ても、特段異常な数値は検出されていない。大体、放射能漏れが起こったとしたら、近くの公民館や小学校に避難したところで意味はなく、もっと広範囲にわたる大規模な避難となるだろう。

イタリアにおける誤った報道は極端な例としても、今回の原発事故が世界的に見て大きな関心を集めていることは明らかである。関心を集める理由としては三点挙げられ、一つは柏崎刈羽原発が世界で最大の原子力発電所であるという点、二点目に地震により設計時の想定以上の揺れを観測した点、最後に実際に放射能漏れを起こした点である。

朝日新聞の報道によれば、ワシントン・ポスト紙は柏崎刈羽原発が米国に35基ある沸騰水型軽水炉(BWR)であることに触れ、日本の原発業界がトラブルを隠蔽する体質があると指摘し、東電の説明に疑問符を投げかけている。一方、ニューヨークタイムズも、当初の東電の説明では放射能漏れは報告されなかったとし、東電の対応を批判している。ネイチャーは柏崎刈羽原発の設計時の地震に対する想定の甘さを指摘し、安全評価の結果如何では原発閉鎖もあるとを指摘している。その他、フランス、ドイツ、ロシアなどでも、原発の安全性について大きな議論が起こっているようだ。

それだけ国際的な関心が集まっている中で、一時はIAEAによる調査受け入れを拒否したわけだが、空気が読めていないにもほどがある。日本政府の情報収拾・処理能力の低さをまざまざと見せつけられた感じだ。今は、国際的に醸成された原発の安全性に対する不安感を払拭すべく、徹底的な調査と、十分な情報開示が必要な情勢である。それにも関わらず、国際調査団の受け入れを拒否したとなれば、不都合な事実を隠蔽しようとしているのではないかという疑念を産むことになるのは火を見るよりも明らかだ。日本政府は現状を把握する能力に欠陥があるか、行動意志決定の優先度付に欠陥があるか、あるいは本当に何か隠蔽しようとしているかのどれかに違いない。

とにかく、IAEAによる国際調査が入ることになったということなので、正確で詳細な情報が海外に発信されることを期待したい。本当は日本政府ないしは日本の原子力業界が、IAEAに匹敵する信頼性と情報発信能力を有さなければならないのだが、それにはどうも長い時間がかかりそうだ。