戦争想起による学ラン自粛騒動は産経新聞の捏造なのか

2007年8月16日付エントリ『学ランが駄目ならセーラー服もブレザーも禁止すべき』において、宇治山田商業の野球部応援団が、県大会決勝まで続けてきた学ランと「日の丸」の鉢巻き姿での応援を「戦争を想起させる」との投書が原因となって、甲子園で封印していたとの産経新聞の報道に基づき、そのナンセンスさを皮肉った。

ところが31日になって、朝日新聞が同校や県教委、県高野連は事実関係を否定し、投書の存在も確認されていないとして、件の産経新聞の記事は、実在しない投書をもとにした記事だった可能性が高いと報じた。

同校によると、県教委から投書について連絡を受けた事実はなく、甲子園では03年の85回大会出場時にOBから寄贈されたトレーナーを着ることを決めていた。県高野連からは、全国大会での注意事項を確認する場で、「学ランは暑いからやめたほうがいい」と言われたという。

asahi.com: 産経新聞、未確認の投書で記事 宇治山田商の応援団服装

トレーナーの着用はOBの厚意に応えるとともに、暑さ対策でもあったというのが学校側の説明だ。また、産経新聞の記事の骨格部分となった投書について、朝日新聞の調査によれば、三重大会に出場した全67校が「投書は届いていない」と回答。県教委スポーツ振興室も「思い当たるものは何もない」と話しているようだ。

これに関し、産経新聞は「学校関係者の話を信じて記事を書いたが、裏取りの作業が欠けていたことは認める」としており、さらに宇治山田商「学ラン“封印”」報道についてという釈明文を掲載している。産経新聞によれば、取材先の学校関係者の証言によれば、メールによる投書があったとされており、その証言内容も具体的で信用に足るものであり、記事自体は妥当であると反論している。

この情報をもとに別の記者が同日、同校の応援勢一行のもとを訪れ、チアリーダーの女子生徒に「熱中症対策で何かやっていないか」と尋ねたところ、「応援団が学ランを着なくなっている1つの理由が熱中症対策と聞いた。ただ、主な理由は戦争にあると先生が言っていた」と話しました。応援団の男子生徒も「自分らは着たかったけど、戦争を思い起こすから学校から甲子園では着てはだめだといわれた」などと答えました。

 記者は、生徒らに「応援団のことをよく知る人物」として学校関係者を紹介されました。この関係者は取材に対し、「今年の地方大会は学ランだったが、決勝戦の後に『海軍服がもとで、戦争を思いださせる』などと書かれた投書があった。宇治山田商に直接来たわけではないが、三重県内の他の学校にあり、県教委から連絡があった。高野連との話し合いの場で『それだったらやめておいた方がいいのでは』と助言された」と詳しく経緯を説明しました。

 そのうえで「夏場は暑いし、大会期間中に終戦記念日もあり、ナイーブな問題だったので少しでも不快な思いをする人がいるなら、と」などと答えました。

産経ニュース

ここに掲載された生徒側の証言が事実だとすると、学ラン封印に際して、何らかの戦争と結びつけた説明がなされたのではないかとも思うが、朝日新聞の調査ではそうした投書については確認されておらず、高野連も海軍服の連想による学ランの自粛を促した事実はないとしており、両者の証言に矛盾がある。少なくともどちらかが事実を歪曲して伝えていると思われるが、それを判断するには材料が足りない。

宇治山田商業には公式ホームページがあるし、宇治山田商業硬式野球部応援HPも用意されている。学校の管理を離れて、生徒の自主性に基づいて運営されているのならば、生徒達の生の声を集めて情報発信することで疑惑の解消が行えると思うのだが、残念ながらいかなる関連情報もアップされていない。Webの情報発信能力は、大手新聞社や社会的地位のある人々が何らかの事情で公にできないことを、白日の下に晒すことに真価を発揮すると思うのだが、そのあたり誰がやってやろうという生徒はいないのだろうか。