生活保護費の着服

義賊という言葉がある。決して生活に困窮している人からは盗みを働かず、私服を肥やしている金持ちから奪った金品を貧しい者、虐げられている者に分け与える人物のことを指す。有名な例ではアルセーヌ・ルパンや鼠小僧などが挙げられるが、最近でも小説や漫画などで繰り返し扱われる題材だ。

盗みは確かに犯罪だが、弱きを助け強きをくじく、その姿勢に多くの人は共感を覚え、そうした生き方を良しとしてきた。暴力団は義理と人情を重んじ、犯罪の中にも一つの筋を通すことが美徳とされた。

このたび、読売新聞が伝えたところによれば、福岡市の職員が複数の生活保護受給者に生活保護が打ち切られたと偽り、以後の生活保護費計約3,000万円を着服していたことが明らかになった。市は同職員を業務上横領などの疑いで福岡県警に告訴する方針と言うが、酷すぎる。

この職員が着服した3,000万円は、本来それを受給されるべき人々にとってかけがえのないお金だった。これがなかったから餓死した人はいないだろうが、子供が進学できなかったりということはあったかもしれない。彼が奪った3,000万円は、多くの人々の未来を奪ったのかもしれない。その未来はお金に換算することはできないが、その価値は3,000万円程度ではないだろう。

弱きを踏みにじり私腹を肥やす、最低の犯罪だ。こんな最低限のモラルさえ欠けた公務員が生活保護業務を担当しているなんてぞっとする。公務員が高潔な人物によって構成されているという神話は既に崩壊しており、職員は不正を行う可能性があるという前提に立ってシステムを構築しなければならない。福岡市のシステムも、職員は不正を行わないという根拠のない性善説に則ったもので、まともなチェック機構もなかったようだ。

生活保護費は通常、受給者名義の銀行口座に振り込まれるが、受給者が区保健福祉センターの窓口から小切手で受け取る方法もある。この場合、手続きを行えば、本人に代わってケースワーカーが受け取ることができる。

支給打ち切りと偽り生活保護費3千万円着服…福岡市職員 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

この職員は4年前から同センターで生活保護受給者の相談に乗るケースワーカーとして働いていたというが、不正はいつから行われていたのか、また同様の犯罪は他にないのか、厳正なる調査を望みたい。

また、この非道な犯罪を犯した職員には、厳罰をもって対処してもらいたい。刑法253条で規定されている業務上横領の法定刑は10年以下の懲役となるが、彼の犯罪によって失われた未来が10年未満であるという保障はない。