花王「めぐりズム 蒸気でアイマスク」に見るアカデミック・マーケティング

花王は目を蒸気で気持ちよく温めるリラックスグッズである、めぐりズム 蒸気でアイマスクを発売した。使い捨てアイマスクが複数セットになって販売されており、開封して空気に触れさせると、40度程度の蒸気を含んだ温熱が10分程度目元をじんわりと暖めるという。

花王はこの商品の発売に先駆けて8月に「VDT作業での目の酷使による疲労実態と、蒸しタオルの温め効果を、実証」という、鶴見大学歯学部眼科学講座・後藤英樹准教授との共同研究結果を発表している。研究結果の概要は以下の通り。

  • VDT作業による目の疲労の実証
    • パソコンを長時間使用するVDT(Visual Display Terminal)作業を1日続けるとピント調節機能が低下。一週間単位で見ると週末には低下が顕著。
  • VDT作業終了後に、蒸しタオルで目を温める効果
    • 40度に暖めた蒸しタオルで3分、ないし10分暖めると、低下したピント調節機能が回復。長時間暖めた方が被験者の効果実感度は高くなる傾向。
  • ドライアイへの、蒸しタオルで目を温める効果
    • 同様にドライアイ患者を対象とした試験では、10分暖めると36%の人に改善が見られた。

「めぐりズム 蒸気でアイマスク」は明らかにこの実験に基づいて商品化されている。もっとも今は無き花王の関連企業であるノバルティス花王が以前「目もとじんわりスチーマー」という同様のコンセプトの商品を出していたことがあったそうだから、商品が先にあり、その効果を実証する実験を行ったという方が正確だろう。

こうしたマーケティング手法はアカデミック・マーケティングと呼ばれ、シャープが除菌イオンの販促に利用したのが代表例とされる*1。商品の効果を科学的手法を用いてきちんと検証し、効果をわかりやすくユーザにアピールするマーケティング手法は、インターネットという情報発信手段が整備されたことによって初めて可能になったと言える。

今まではそうしたことをやりたくても説明機会が無いため、できなかったわけだが、今では公式ホームページのプレスリリースはいつでも読める状態にあるし、当エントリのようにblogで取り上げられ、それが読まれると言うこともある。メーカーの伝えたいメッセージが消費者に届く機会は確実に増加している。その機会をどう使うかが、広報担当者の腕の見せ所だろう。

既にいくつかのWeb媒体で「めぐりズム 蒸気でアイマスク」は極めて好意的に取り上げられている。

特にGIGAZINEのタイトルの付け方は秀逸で、試してみたいと思わせる強烈な効果がある。

同様のコンセプトを持つ商品として、サンコーレアモノショップがUSBあったかアイウォーマーを発売している。USBで何度でも繰り返し利用可能で、値段も1,980円と、使い捨てが前提の「めぐりズム 蒸気でアイマスク」よりも経済的だが、うさんくささが捨てきれない。

花王とサンコーレアモノショップでは比較するだけ間違っている気がするが、やはりきちんと効果を検証する花王の真摯な姿勢が好ましい。このような販促姿勢が他の企業、分野においても一般的になることを期待したい。

*1:ちなみに巷に溢れるマイナスイオン疑似科学の領域に属するものであり、除菌イオンとは似て非なるものなので誤解してはならない。恥も臆面もなくマイナスイオン関連商品を販売し続ける日本の家電メーカーはどうかしている。