○○ちゃんを救う会の説明責任

読売新聞が伝えたところによれば、心臓病の男児を救うために「けいた君を救う会」を主宰していた水沢滋容疑者が、男児の父親から現金を脅し取ろうとしたとして逮捕された。

 水沢容疑者は「(松田さんに)第2子ができたと聞き、自分たちが一生懸命活動してきたのに能天気だと腹が立った」と供述。傷害容疑は認めているが、恐喝未遂については「損失の補てんを求めたもので、脅したわけではない」と容疑を否認しているという。

心臓移植募金の代表、第2子できたと腹立て父を恐喝未遂

けいた君を救う会のホームページを見ると、今日までの募金総額は100,367,630円となっている。用途内訳としては極めておおざっぱな数字しか公開されていないが次の通りだ。

デポジット 6,000万円
渡航 1,000万円
滞在費 500万円 待機 術後の外来治療費を含む
医療予備費 500万円 幼児のため
8,000万円

この時点で2,000万円の剰余金が発生している。また、デポジット(預託金)は再手術の可能性も見越して事前に実費用の数倍が請求されるが、予後の経過が順調な場合、差額は払い戻される。今回は順調な手術のようだったので、数千万円単位で返金された可能性がある。結果として心臓手術を経て両親には数千万円の剰余金ができたことになる。

水沢容疑者はそれが面白くなかったのだろう。そしてその剰余金の分け前を要求したというわけだ。この事件は、いわゆる「○○ちゃんを救う会」に広く当てはまる問題を投げかける。こうした会は集まった募金をどのように利用したのか詳細を公開することは稀である。実際「けいた君を救う会」では手術から3ヶ月以上を経て未だ会計報告がなされていない。

多くの名も知らぬ人は善意で子供を救おうと募金をしたわけだが、それがちゃんとその目的に使われたのか、別目的への流用はないか、剰余金は何に使われるのか、「○○ちゃんを救う会」にはそうした事柄をきちんと説明する義務があるだろう。その義務を果たすことで、いわゆる死ぬ死ぬ詐欺ではないかとの疑念を晴らすことができるのだ*1

話は変わるが、2006年4月の保険業法の改正に伴い多くの自主共済が存続の危機に立たされている。自主共済は今まで保険業法の対象外とされていたが、このたびの改正で適用除外が解除される運びとなった。ボランティアベースで運営されてきた自主共済に突然、ソルベンシーマージン比率、法定責任準備金積み立て、アクチュアリーによる保険料の計算、外部監査、募集規制、さらには資産運用規制などさまざまな規制への準拠が求められるようになったわけだ。つまるところは、出資者から資金を集め、それを運用する以上、きちんと説明責任を果たしなさいと言うことだ。

多くの自主共済は基本的に人の善意に支えられ運営されてきた。障害者など保険会社が対象としない社会的弱者に対する融資事業などを、ボランティアベースで低コストに実現してきた側面がある。一方で、説明責任はおざなりで、資金の流れが不透明であり、多くの「ニセ共済」を生み出してきた。

共済の今日と未来を考える懇話会は、自主共済が果たしてきた社会的役割を挙げ、自主共済を保険業法の対象とすると、それに対応するために相当のコストがかかり組合員の負担が増えることになり、共済の存続そのものさえ危ぶられるとして、適用除外を求める活動を行っている(保険業法の適用除外を求める請願署名)。

しかし、「○○ちゃんを救う会」にしても自主共済にしても、いままでお金に無頓着すぎたきらいがある。出資者の利益を守り、集めた資金が不正に利用されていないか外部監査を行う体制が求められる時代になったことを当事者は理解すべきだろう。共済の今日と未来を考える懇話会は、適用除外を強弁するだけではなく、説明責任をどう果たしていくのか明確にせねばならない。

「○○ちゃんを救う会」も説明責任から逃れることはできない。

*1:特定の団体を想定して詐欺だと主張しているわけではなく、あくまで一般論である。