PC用デジタル放送チューナーとフリーオの比較

2008年の4月にPC用デジタルチューナーに関する規制緩和がなされ、各社より第一弾となる対応商品のアナウンスがなされている。PC Watch笠原一輝のユビキタス情報局』では、代表的な3メーカー5製品を比較している。

日本のデジタル放送には世界的に類を見ないほど厳しいコピー制限が付加されている。米国などではフルセグが見られるPC用のチューナーが1万円程度で売られているのに、日本ではワンセグしか見ることが出来なかった。その状況を変えた一因が2007年10月に発売されたフリーオ(Friio)であることは間違いない。

フリーオはデジタル放送にかけられたコンテンツ保護の枠組みを無視、本来PC上で視聴不能なデジタル放送を視聴可能にすると共に、録画したMPEG2 TSファイルを自由に扱える環境を提供した。公式サポート先が2ちゃんねる、あやしげな日本語、29,800円という高額にも関わらず*1フリーオはデジタル放送をPC上で扱う術を持たなかった日本のユーザーに熱狂的に受け入れられ、一時はヤフオクで10万円近くで取引された。

このフリーオが放送局やメーカーなど関連業界に投げかけた衝撃は大きかった。フリーオはデジタル放送コンテンツにかけられた暗号化を単に無視するため、暗号の除去や改変を禁じた著作権法には抵触しない。暗号化していないデータをローカルに保持するフリーオの仕様はARIBの標準規格には反するが、法律違反とはならない。関連業界はこうした機器が無尽蔵に出現し流通することを恐れた。

そこでフリーオ駆逐の最終兵器として投入されたのが、合法外付けチューナー*2である。フリーオのようにコンテンツ保護を無視するのではなく、ARIB標準規格に厳格に適合した製品となる。

ARIBでは次の3つの制約を求めている。

  1. コピーワンス信号による複製物の生成制限
  2. パソコン内部におけるコンテンツの暗号化(ローカル暗号化)
  3. パソコン本体とチューナーを1対1で紐付け

特に3番目の要求仕様をPC向けパーツにおいて満たすことが困難であったが、4月に入りそれが緩和され、PCとチューナカードが一対の組み合わせでなくても、録画したデータがそのPCとチューナの組み合わせで無ければ再生できないようにすることで、要件を満たすように変更された。

結果として各社からPC用デジタル放送チューナーが複数投入されることになった。笠原一輝のユビキタス情報局では表にして製品の比較を行っているが、フリーオ駆逐の最終兵器として投入されたはずなのに、当のフリーオとの比較が無く、本当にフリーオを駆逐する実力を持っているのかわからない。そこで、引用先の表に仮想敵国たるフリーオ及び、HDCP非対応時、COPP非対応時の扱いについての項目を付加してみた。付加箇所は背景色を緑としている。果たして、これらの製品はフリーオに勝つことが出来るのだろうか。

  フリーオ
Friio(白)/Friio BS/CS(黒)
アイ・オー・データ機器
GV-MVP/HS
バッファロー
DT-H50/PCI
バッファロー
DT-H30/U2
ピクセラ
PIX-DT012-PP0
ピクセラ
PIX-DT050-PP0
地上デジタル(ISDB-T) ○(白)/×(黒)
BS/CSデジタル(ISDB-S) ×(白)/○(黒) × × × ×
タイムシフト × × 15/30/60/90分 15/30/60/90分 5/10/30/60/90分 5/10/30/60/90分
EPG ○(TvRock
iEPG ○(TvRock ○(テレビ王国) ○(テレビ王国) ○(テレビ王国) × ×
データ放送 ×
COPP非対応時 HD再生 不可 不可 不可 不可 不可
HDCP非対応時 HD再生 不可 SD再生 SD再生 不可 不可
外付けHDDへの録画
ファイル移動 任意のPC上で再生可能 同じPC上でも移動不可(バックアップから元の位置への書き戻しは可) 同じPC上でも移動不可(バックアップから元の位置への書き戻しは可) 同じPC上でも移動不可(バックアップから元の位置への書き戻しは可) 同じPC上のHDDであれば再生可能 同じPC上のHDDであれば再生可能
録画中の録画番組再生 ×
(予約録画がバックグラウンドで動作中は可能)
× ×
予約録画中の起動/録画中番組再生 ×
放送メール機能 × ×
音声の出力先 デジタル アナログ(デジタルとUSBは非公式) アナログ(デジタルとUSBは非公式) アナログ(デジタルとUSBは非公式) アナログのみ アナログのみ
おまかせ録画機能 ○(TvRock ○(テレビ王国) ○(テレビ王国) × ×
Windows Aeroの動作 ON 動作時OFF 動作時OFF 動作時OFF 動作時OFF 動作時OFF
バス USB PCI Express x1 PCI USB PCI PCI
B-CASカード 別途入手の必要*3 青カード 青カード 青カード 赤カード 青カード
BDへのムーブ 自由 ×(対応予定) × ×(対応予定) ×(対応予定)
DVDへのムーブ 自由 ×(対応予定) ×(対応予定)

フリーオを除く各製品ではHD視聴において以下の条件を満たす必要がある。

  1. ビデオカード(もしくは内蔵GPU)がHDCPに対応し、COPPに対応したドライバを備えていること
  2. ディスプレイがHDCPに対応していること

COPP対応ドライバ、HDCP対応モニタを有していない場合には、基本的にデジタル放送の視聴は出来なくなる。例外はバッファローの製品で、HDCP非対応モニタであっても、SD解像度の視聴を行えるという特徴を持つ。それ以外は利用できない。録画後のファイルの扱いに関しては、同じPC上でなければ再生することは出来ない。一方、フリーオにはそのような制限はない。まさにその名が示すとおり*4、フリーなHD環境を実現してくれる。

フリーオは単純にデジタル放送を視聴し、録画出来るだけのデバイスであり、標準添付ソフトの充実度で言えば国産製品とは比較にならない。フリーオ単体ではチャンネルを指定して視聴し、その場で録画ボタンを押して録画するぐらいの機能しか持たないのだ。その代わりにフリーオはアプリケーションからフリーオを制御できるSDKを提供しており、本SDKを用いたフリーソフトが多数登場している。上記の表のフリーオの項目は定番のひとつであるTvRockを併用したときの状況を示している。TvRockを用いることで、EPGiEPGを用いた録画予約、キーワードを指定したおまかせ録画、遠隔予約などが可能となり、各社のソフトウェアと比べてもそれほど遜色のない使い方が出来るだろう。予約録画では、PCをスタンバイ/休止状態にしておいて、時間になれば自動的に起動して録画、録画が終了すればまたスタンバイ/休止状態に戻ると言う使い方も可能だ。放送波に含まれる放送時間変更情報に基づく番組追随にも対応しており、フリーソフトとは思えない充実ぶりだ

一方、国内各社もワンセグチューナー対応アプリ開発で培ったノウハウを投入して付属ソフトウェアの開発を行っており、機能面ではそれなりに充実している。標準添付のソフトだけで、いろいろ試行錯誤せずともEPGを用いた予約録画が出来ることは初心者には大きな利点となるだろう。一方で、様々なフリーソフトを使いこなすスキルを有している人にとっては、TvRock一つあればたいていのことはできるので、それほど国内各社のソフトが魅力的というワケではない。

さらにPC初心者にとっては、フリーオには望むべくもない手厚い商品サポートも魅力かもしれない。フリーオはハード的には不安定で、カードリーダーの不調により視聴が出来なかったり*5、先日発売されたBS/CS対応のFriio BS/CSでは、発煙する不具合も報告されている。海外製でしかも個人レベルで製作されている機器にメーカー製レベルの品質を期待するのは根本的に間違いであり、フリーオが安定的に動作するようになるまでそれなりのトラブルを覚悟する必要がある。また、フリーオ向けに提供されるソフトはすべて無保証のフリーソフトであり、それにより何らかの被害が発生したとしても自己責任だ。なによりも簡単・安心を求めるのならばフリーオという選択肢はない。逆に自分で解決できる自信があるのならば、フリーオを選択しない手はない。

今回発売されたメーカー品のチューナーでも、同一のPC上で視聴する限りは特に大きなストレス無く利用できるものと推測される。台湾からの個人輸入でしか入手できないフリーオと比較して、近所の量販店で気軽に購入できる入手性の良さも大きなアドバンテージだ。問題はPCが壊れたり旧くなったときに、それまで撮りためたライブラリがすべて再生不可となる点だが、HDDレコーダと同様にタイムシフト機として割り切れれば問題はないかもしれない。ライブラリを長期間保存したい人は、こまめにムーブ*6するか、パッケージのBD/DVDを集めなさいということだ。

フリーオが開けた風穴により、日本におけるPCのデジタル放送視聴環境は大きく改善されたと言える。デジタル放送がまったく扱えなかった状況から、多少の制限があるものの視聴が出来るようになったことは極めて大きい。しかし、それでもアナログ時代に比べて不便になる箇所が多々存在する。将来的にそのあたりの改善が成されることを強く期待したい。

2008年5月17日追記

CD-R実験室『ガチガチ規制のPC向地デジチューナー DT-H30/U2』においてバッファロー DT-H30/U2の規制の実際について商品レビューがなされており、ガチガチ規制で、商品としてつらく、「リアルタイム視聴用」か「見て消し用」にしか事実上使えないと評価されている。結論としては、フリーオのほうがどう考えてもいいとのことで、フリーオ駆逐の最終兵器としては残念な結果だ。

*1:Tech-On!の推定に依れば、フリーオの原価は僅か3,000円。利益率9割という荒稼ぎらしい。

*2:前述のように、フリーオは非合法とは言えない点には注意。

*3:2008年8月20日に公開されたVer1.90 BETA以降より、ネットワークCASサーバに接続することで、ローカルにB-CASカードがなくてもデジタル放送を視聴することが可能となった。しかし、ローカルにB-CASカードを挿入している方がサーバ状態によらず安定して視聴・録画できる。

*4:フリーオであってフーリオではない。

*5:外付けカードリーダーHX-520UJ.Jを導入すると症状が改善されるという報告がある。

*6:DVDへのムーブは解像度が劣化する上、CPRM対応ドライブでなければ書込ができない。また、CPRM鍵の取得にインターネット接続が必須となる。