太陽が最期を迎えても地球ごと助かる方法

LM-72008-03-30


22日にCNNが伝えたところによれば、地球から肉眼で観測できる物体としては最も遠い距離である75億光年先の恒星の爆発を観測したという。75億光年先の75億年前の出来事が肉眼でも確認できたというのは感慨深いものがある。

爆発前の星は太陽の約40倍にまでふくれあがっていたといい、爆発で近くにあった惑星は蒸発したらしい。我々の太陽は、超新星爆発を起こすのに十分な質量を有していないため、爆発する危険はないが、太陽の寿命と共に地球の未来も潰えてしまう。太陽は約63億年後には膨張を開始、赤色巨星となり現在の200倍、地球軌道付近まで膨張すると考えられている。その後、太陽は白色矮星となって徐々に冷えていき、その一生を終えると予想されている。

太陽が赤色巨星になる段階で、水星、金星などの内惑星は太陽に飲み込まれてしまう。昔は地球も太陽に飲み込まれると考えられていたが、近年の研究では赤色巨星段階の初期に起こる質量放出によって惑星の公転軌道が外側に移動するため、地球が太陽に飲み込まれることはないだろうとされている。それにしても、太陽が膨張すれば、地球はその膨大なエネルギーを受けてとても生命が住むことのできない灼熱の地獄となることは明らかだ。

人類が太陽と共に心中する気がないのであれば、恒星間宇宙船を建造し他の恒星系に移住するのが最も理に適ったやり方だが、住み慣れた地球を捨てていくのは忍びない。なんとか地球ごと太陽消滅に掛かる危機を脱する方法はないだろうか。

地球を動かす

1982年、スイス連邦反応炉研究所のMieczyslaw Taubeは、太陽が最も巨大化したときの半径を現在の40倍、その放射レベルを360倍と見積もり、地球が木星軌道まで後退すれば問題は生じないと考えた*1。そして、地球を木星軌道まで動かす方法として、地球の赤道上に巨大なパルス核融合ロケットエンジンを並べ、地球を動かすアイデアを提案した*2

利用されるロケットは1基あたりの推力が5.6TN、噴射速度は327km/s。このエンジンを10基束ねたクラスターロケットを24台赤道上に等間隔に配置、各ロケットが地球の自転に沿って順番に現地時間正午前後1時間、10秒に1回、1噴射1秒、パルス周期1/10秒で噴射する。これにより、地球に対して8.5×10-13m/s2という極微量な加速度を与えることができる。

この作業によって地球は徐々に外側に移動し、螺旋を描きつつ太陽から離れていく。そして10億年後には地球は木星軌道に乗る。太陽が赤色巨星期を過ぎて燃え尽きた後は、木星から汲み上げた水素を燃料に、人工太陽の光によって生き延びていくこととなる。Taubeの見積もりによれば、この作業を完遂するためには地球のおよそ1割に相当する質量が噴射されることになるが、その膨大な質量、必要なエネルギー、コストをどうやって工面するかが問題になるだろう。

太陽を交換する

他にも地球を動かすアイデアは複数提案されているが、どれも莫大なエネルギーとコスト、時間を要し、現実的とは言えないものが大半である。そこに、Martyn J. Foggが提案したのはさらに奇想天外で大胆なアイデアであった*3。彼は太陽を交換する方法を考え出したのだ。

太陽が寿命を迎える前により若く健康な星と交換してしまえばよい。半径100光年ほどには太陽交換の候補となる恒星が300個ほど存在する。大体1000万年ぐらいのタイムスケールで交換作業を終えることを想定すると、その手法は次のようになる。

まず太陽の周囲に超伝導体のリングをかけ、強力な電流を流すことによってトロイダル磁場を発生し、太陽から噴き出す荷電粒子の流れを一方向に整流する。仮に太陽の総出力の10%のエネルギーをこのリングに投入すると、年間に太陽の総質量の10億分の3の質量を噴射に回すことが出来る。

この噴射により、70万年後には太陽の運動速度は1km/s、進路の変更可能範囲は自転軸に対して1.9度以内、消費される太陽質量は0.2%となる。270万年後にはそれぞれ5km/s、9.5度、0.8%、そして1070万年後には20km/s、33.7度、3.2%となる。ここで太陽の加速はごくゆっくりなので、太陽系のなじみの惑星は皆太陽に引っ張られてついていく。

このように太陽を操縦し、目標の恒星の側をすり抜けるコースに乗せる。そして、地球が相手の恒星の重力圏内に入り、太陽から引き離されて相手の恒星の周囲を巡る軌道に乗り移るように突入コースを注意深く設定するのだ。この方法では太陽系の惑星全てを連れて行くことは難しいが、太陽の寿命の問題を回避することが出来る上、望むならば太陽を渡り歩いて、末永く地球を存続させることができる。

もちろん太陽が寿命を迎えるのは何十億年も先の話である。そのような未来では人類は別の生命体に進化しているだろうが、そうした人類の子孫が恒星間を渡り歩き、その活動領域を遠大な銀河系に広げていくことを期待したい。

参考文献