地球外知的生命体の存在確率
The European Southern Observatoryはスイス、フランス、ポルトガルの天文学者チームが居住可能な条件を備えた、地球に似た惑星を発見したと発表した。 この惑星は地球から20.5光年先に位置する恒星Gliese 581の周りを周回するGliese 581cであって、表面温度は0〜40℃、液体の水が存在しえる環境であり、表面は岩もしくは海洋に覆われていると推測されている。もしかしたら知的生命体が存在するのではないかと期待できる画期的な成果だ。もっとも公転周期が13日と極めて短く、質量も地球の5倍もあるので、人類にはあまり快適な環境ではなさそうだ。将来植民星とするには、大規模なテラフォーミングが必要となるだろう(先住生命がいない場合に限る)。
この広い宇宙に知的生命体はどの程度存在するのだろうか。SETI(地球外知体性探査:Search for Extra-Terrestrial Intelligence)を推進した米国の天文学者フランク・ドレイク(Frank Drake)はドレイク方程式(Drake equation)と呼ばれる知的生命体がこの宇宙にどの程度存在しているかを推定する方程式を提案している。ドレイク方程式によれば、我々の銀河系に存在し、我々と電波交信を行うことができる知的生命体の数Nは次の式で表される。
N = R*・fp・ne・fl・fi・fc・L
R* : この銀河系で年間に誕生する恒星の数 fp : その恒星が惑星を持つようになる確率 ne : それらの中で生命の発生し得る条件を備えた惑星の数 fl : その惑星に実際に生命が発生し得る確率 fi : その生命が知性を持つに至る確率 fc : 彼らが実際に恒星間通信を行なうまでに進歩する確率 L : その文明の寿命
この方程式の妥当性に関しては、多くの議論がなされているが概ね妥当だと考えられる。提唱者のドレイク自身は、方程式発表時に知的生命体の数N=10*0.5*2*1*0.01*0.01*10=0.01と見積もった。一方、ヨーゼフ・S・シュクロフスキーとカール・セーガンは1966年に発表した著書においてN=100万と見積もっており*1、その値にはかなりのばらつきがある。
このNの算出に必要なそれぞれのパラメタに関しては、近年の惑星科学の発展により、そこそこの精度の推定値を当てはめることが出来るようになってきている。
まず、この銀河系で年間に誕生する恒星の数R*だが、これについては近年の観測結果から10〜20程度であることが確からしい。たとえば、ワシ星雲やオリオン星雲の彼方で恒星が生まれる様子が観察できる。
次にその恒星が惑星を持つようになる確率fpだが、1990年代以降太陽系外惑星の発見が相次いでおり、2007年2月28日までに182の惑星系(パルサー含む)に212の惑星が発見されているように、意外に多くの恒星が惑星を有するようだ。fpは0.25〜0.5程度と考えるのが妥当だろう。
さらにそれらの中で生命の発生し得る条件を備えた惑星の数neである。これはいわゆる連続生存可能領域(ハビタブルゾーン)に位置する惑星の数となるが、標準的なサイズの黄色い恒星を有する、太陽系で考えれば、地球は合格、火星や金星が今一歩というところである。そのため、1〜2程度はハビタブルゾーンに位置する惑星が存在すると考えることができるだろう。いままで発見された太陽系外惑星の多くはホット・ジュピター(Hot Jupiter)と呼ばれるような極めて奇異で生命が住めそうもない巨大惑星だが、これはいままでの惑星発見方法では原理上そのような巨大な惑星しか見つけられないからであり、巨大惑星が銀河系で一般的なわけではないと考えられている。このたび発見された惑星Gliese 581cはまさにこのハビタブルゾーンに位置する初めて発見された太陽系外惑星である。
次はその惑星に実際に生命が発生し得る確率flだ。金星や火星も初期には生命の存在に適した環境であったと考えられるが、そこに生命は誕生したのだろうか。0.2〜1程度と見積もりにばらつきが出る値だ。
その生命が知性を持つに至る確率fiは、実例が我々人類しかいないので、非常に算出が難しいが、多くの科学者がこの数字は100%だと信じているようだ。自然選択と適者生存の原理を突き詰めれば、結局は知性を持つに至ると考えることによって、fi=1となる。
彼らが実際に恒星間通信を行なうまでに進歩する確率fcも極めて推定が難しいので、とりあえず半々と見て0.5程度にするのが良いだろう。
最後のパラメタである、その文明の寿命Lは、このドレイク方程式のパラメタの中で最も変動幅が大きく、支配的なパラメタである。このLをどう見積もるかによって最終的な結果が何桁も異なるのだ。とりあえず人類は通信技術を発明してから50年間存続することが出来た。もしこの先100万年人類が存続することが出来るとすると、L=100万となり、結果としてNもおおよそ100万のオーダとなる*2。
この楽観的な予測に従えばこの銀河系には約100万の技術文明が存在することとなる。人類は決して孤独な存在ではないようだが、直径9万光年、厚さ平均2万光年の銀河系に100万の知的生命体の存在する星が均等に分布しているとすると、それぞれの星の間の平均距離はおおよそ500光年程度となる。知的生命の存在する惑星が100万個に達するという楽観的な予測に従ったとしても、隣人に会うためには光の速さで500年もかかるわけだ*3。人類は確かにユニークな存在ではないかも知れないが、地球外知性体に出会うにはなんとかして何百光年もの距離を克服しなければならないのだ。
やはり宇宙人に会うためには光の速さを超えるワープ航法を発明するしかないようだ。何かとてつもないブレークスルーが山のように必要だが。