究極の入力インタフェース

Brain Machine Interface (BMI)

究極のマンマシンインタフェース(Man-Machine Interface)としてSFにおいてよく描写されるのがBrain Machine Interface (BMI)である。BMIは脳が身体の自然な部位であるかのように機械的バイスを受け入れ、制御するインタフェースを指す。BMIのひとつの目的は、身体のいずれかの部位を失ったり、麻痺したりした人々に対し、脳でコントロールできる人工デバイスを与え、その人工デバイスにより失われた機能を回復することにある。現在進行中の研究は、脳がいかにして大量の複雑な情報をエンコードし、処理するのかを理解することに重点が置かれている。

脳波によりロボットアームをコントロールする研究は多くなされているが、最近にも米ワシントン大で実験に成功したことが報じられた。この実験では、被験者の頭部に付けた32個の脳波測定用の電極を利用することにより脳波を計測。その上で、その脳波を「前に進む」「停止」するなどのロボットの動きに変換して、ロボットを制御することに成功した。ただし、この実験において計測される脳波は、ON/OFFの1bit制御に過ぎず、考えたことがダイレクトにロボットの動きに反映されているわけではない(1-bit BMI)。現在実験段階のBMIにおいて脳がコントロールできるのは高々数bitに過ぎず、文字入力をするにも自動的に移動するカーソルが入力対象文字を示したときに止めるといった迂遠な方法をとらざるを得ない。ダイレクトに思考を反映するにはまだ多少の時間が必要である。

1985年ミズーリ大学の研究において、英語を母国語とする被験者が、15種類の単語を発声するときの脳波が完全に一致することが確認され、世界初の脳波辞書が発表されている。しかしながら、あくまで発声時の脳波パタンが一致したに過ぎず、思考がダイレクトにマッピングされているわけではない。発声という作業を伴うのであれば、奈良先端大学鹿野教授の研究グループで研究されている無音声認識技術を利用するほうが早そうだ(無音声認識(言霊:ことだま)参照)。

予知カルーセル (Precognitive carousel)

William Gibsonニューロマンサーで描き、士郎正宗攻殻機動隊で日本に広めた、脳-コンピュータ連接インタフェースの登場にはまだしばらくかかりそうだが、実はこのような「思うだけで思い通りに動く」入力インタフェースは、究極形ではない。「思う前に思い通りに動く」入力インタフェースが理論上は実現可能なのである。

W. Grey Walterが行った有名な実験に予知カルーセル (Precognitive carousel)と呼ばれるものがある。ここでは運動皮質に電極を埋め込んだ被験者に回転式スライド映写機のスライド投影を見てもらい、次のスライドに進めるためのボタンを与えた。被験者はボタンを押すことで、スライドを次に進めることができた。被験者が驚いたことに、彼らがボタンを押そうかと思ったときに、実際にはまだ決意していないときに、スライドは彼らの思考を先取りして次に進んだのである(もちろんボタンを押す前)。実際には与えられたボタンはダミーであり、スライドは被験者の運動皮質からの電気増幅信号によりコントロールされていたのである。

どうして、被験者が認知するよりも早く、それを正確に操作に反映することが可能なのか。これは脳の処理・認知メカニズムにカラクリがある。脳は同時並列的に処理を行っているため、脳における認知は時系列に沿わない場合があり、状況によっては前後する場合もある。この実験の場合、被験者がボタンを押すと決定してから、そう決定したことを脳が認知するまで若干のタイムラグがあり、そのタイムラグの間にシステムが介入したのだ。

すなわち、「ボタンを押すことの決定」→「手の随意筋を動かす信号伝達」→「電極が検知、スライドを進める」→「ボタンを押す決定の認知」→「手がボタンを押す」という時系列になっており、被験者が決定を認知したときにはすでにスライドが進められているという状況が発生したのである。

究極のインタフェースのカタチ

以上から、将来の究極の入力インタフェースは、あなたが何かをしようとしたときには、すでにそれがなされているような魔法のようなインタフェースとなると考えられる。日常生活で利用するようなインタフェースはそこまで進化する必要はないかもしれないが、戦闘機パイロットの操縦インタフェースなど時間との勝負となるクリティカルな現場ではこうしたインタフェースが実用化されていくだろう。

クラークの第三法則──「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.」実にわくわくさせられる法則である。