日本の放送事業者に対する電波利用料は不当に安い

LM-72007-05-05


共同通信によれば、ドイツ訪問中の菅義偉総務相は4日、放送事業者の電波利用料を値上げする方向で見直す考えを表明した。菅氏は受益者負担の原則に基づき、大幅な見直しを図るとしている。

電波利用料は2007年度の見込みで、民放とNHKの支払いが約38億円なのに対し、国側の放送関係の歳出は約212億円。菅氏は「放送局は高給だという批判もある」とも指摘し、電波利用料の値上げは可能との認識を示した。

http://www.47news.jp/CN/200705/CN2007050401000542.html

放送局が高給であることについては、給料から見た勝ち組の条件にも示したとおり周知の事実だが、電波利用料は国際的な水準から見てどうなのだろうか。2ちゃんねるに興味深いデータが示されていたので、それを参考にまとめてみたい。

そもそも電波利用料は平成5年4月に制度化されたもので、電波利用の拡大に伴う電波監視等の電波行政事務の経費に充てるものとして、その行政事務の受益者である無線局免許人に対し負担を求める、いわば広義の手数料である。電波利用料の使途は、電波の適正な利用の確保に関し、無線局全体の受益を直接の目的として行う事務の処理に要する費用の財源に充てるために限定的に法定化されている(電波法第103条の2第4項)。主なものを挙げると次の通りだ。

  • 安定的な電波利用の確保
    • 電波監視
    • 無線局データベースの運用
  • 有限な電波資源の効率的利用
    • アナアナ変換
    • 技術試験事務・研究開発
    • 無線システム普及支援事業

電波利用料に関しては3年ごとに見直すことが決められており、平成20年はその改正時期に当たる。総務省電波利用料制度に関する研究会を設置し、デジタルディバイド対策の積極的推進、電波資源拡大のための研究開発の充実、電波の経済的価値の勘案と電波利用料負担の不公正是正のために、電波利用料使途の拡大と電波利用料の算定方式の見直しを進めている

総務省諸外国の電波利用料制度を参考に各国の電波利用料を調べてみると興味深い事実が明らかになる。携帯電話や放送、衛星通信などにかかる免許は各国とも競願処理を行い、最適な事業者を枠内で選定するプロセスが走るのだが、日本、フランス、韓国がサービス提供計画、技術力等を総合的に審査して選定する比較審査方式を採用する一方、米国、英国、ドイツは入札額の多寡で選定するオークション方式を採用している。オークション方式の方が市場原理が働くため、電波利用料収入は大きくなる傾向がある。

各国の電波利用料およびオークションによる収入、そのうち放送局に掛かる金額を以下に示す。

  • 米国
    • 電波利用料収入約240億円、オークション収入年平均4,600億円。
    • 放送局の免許も、原則オークションの対象。
  • 英国
  • フランス
    • 電波利用料収入約94億円、第三世代携帯電話免許料年平均約113億円+売上げの1%
    • 放送局に対する電波利用料は免除。代わりに映画産業等の支援のための目的税約380億円を徴収。
  • 韓国
    • 電波利用料収入約200億円、出損金による収入約250億円
    • 放送局に対する電波利用料は免除。代わりに広告収入の一部約350億円を徴収し、放送発展基金に充当

これに対し、電波利用料制度の現況についてによれば、日本の現状は次の通りである。

  • 日本
    • 電波利用料収入653.2億円(平成19年度)
    • 放送局に対する電波利用料わずか7億円。アナアナ変換対策にかかる暫定追加電波料30億円。合計38億円


電波利用料の総額が諸外国に比べて極めて小さい事が分かるが、放送局に対する電波利用料がわずか7億円というのは破格である。暫定的に地上波デジタルへの移行に伴うアナアナ変換対策事務のための追加的電波料30億円が発生しているが、それを合わせてもわずか38億円であり、TV広告市場規模が日本(188億ドル)の1/3の62億ドルしかない英国と比べても1/20以下という激安特価である。仮に英国と同水準の負担を放送局に求めるとすると、現行の60倍強の2,500億円程度の電波利用料を徴収してもおかしくない(不可能だが)。

右図は電波利用料制度の現況についてに掲載の、平成19年度における電波利用料の負担割合を示したものだが、赤色で示される放送事業者はわずか1.1%しか負担していない(アナアナ変換の追加負担が+4.7%)。日本における電波利用料の大半は緑色で示される携帯・PHS事業者からの収入で占められており、これはすなわち、携帯電話ユーザの毎月の携帯電話利用料から捻出されているのである。先の地上波デジタルへの移行に伴うアナアナ変換対策のために1,800億円が充当されていることを考えても、放送局の負担が過小であることが容易に見て取れる。

放送局は電波という有限の資源を独占的に利用し、コンテンツ配信サービスを行っている。民放の主な収入源は広告によって賄われているが、その市場規模は英国の3倍。それにも関わらず、受益者負担が原則の電波利用料は英国の20分の1しか納めていない。日本の放送局、マスコミ、広告代理店は不当に安い電波利用料により、希少な電波を独占的に利用して、不当に高い利益を得ていると言える。電波の経済的価値と電波利用料負担のバランスがおかしいのだ。ぜひこの機会に、放送局とそれに付随する広告産業から徴収する電波利用料を国際的に見て適正な水準まで増加させてもらいたいものである。

それにしても、どうしてこんなに安いのか理解に苦しむ。たとえば英国の免許料の考え方は、放送用周波数という稀少資源から事業者が得る独占利潤に対する国庫納付金という位置づけなのに対し、日本では公共のために利用してもらう目的で格安で分け与えているわけだ。それにも関わらず、一部の私企業が独占状態であぐらをかき巨利を貪っていて、捏造ややらせ、疑似科学番組の垂れ流し等、公共の利益に反する行いを繰り返し、給与水準も極めて高いとなれば、見直しも当然だろう。このあたりの構造について、どこかのテレビ局で特集を組んで報道してくれればよいのだが、ま、そんなことはないだろうな。