理論上永遠の寿命を持つライト

LM-72007-07-05


白熱電球は、すばらしいアイデアを思いついたり、新たな技を閃いたりする時の比喩表現として使われるにも関わらず、実に無駄の多い照明である。通常利用される100Wガス入り白熱電球は投入されたエネルギーでは可視放射10%、赤外放射72%、残りが熱伝導で消費される。可視光に変換されるのはわずか1割という状況だ。寿命は1,000〜2,000時間*1ほどで、タングステンのフィラメントの折損で寿命となる。現在、エネルギー効率を上げるだけではなく、寿命を事実上永遠にのばす電球の研究開発が行われている。つまり、その電球が挿入されたシステム自体よりも電球の方が長持ちするということだ。

電球を長寿命化させるには、単純にはフィラメントを排除すればよい。高温となるフィラメントはその構成する素材(通常タングステン)が蒸発し、折損することで寿命となる。また、昇華したフィラメントがガラス球内に付着すると電球の放射効率が下がる。フィラメントの昇華を抑えるために、クリプトンやキセノンなどの希ガスを内部に封入する事があるが、ガス中の熱伝導による損失が大きくなってしまう。ハロゲンランプは、昇華したタングステンをフィラメントに還元することで寿命の延長を実現している。こうしたフィラメントや電極をガラス球の中に封入する電球の構造自体が、電球の長寿命化を阻害する第一の要因だ。

WIRED VISIONは、The Economistの"Everlasting light"を引用して、英国Ceravision社が、理論上永遠の寿命を持つ電球Continuum 2.4 lamp systemの開発を行っていると報じた(上図はCeravisionプレスリリースより引用、説明追記)。

Continuumは電極の必要性を排除したランプで、電気を光に変換するのにマイクロ波を利用する。Continuumのメインユニットは孔が穿たれた比較的小さい酸化アルミニウムの塊から構成されている。マイクロ波発振器によって生成されたマイクロ波の照射を受けると、酸化アルミニウムは孔隙中に集中電界を生成する。

適切なガスが封入された円筒形のカプセルがその孔に挿入されると、ガスを構成する原子は電離する。放出された電子は電界によって加速され、十分なエネルギーを持ってガスの原子や分子に衝突し、プラズマを生み出す。その光は明るく、生成プロセスはエネルギー効率に優れている。一般的な白熱電球のエネルギー効率は10%以下で、蛍光灯だと25%程度だが、Continuum 2.4は50%以上のエネルギー効率をもつ。

このシステムにはフィラメントが存在しないため、おおよそ10年、数千時間の寿命を持つと期待されている*2。さらに光はほとんど単一の点から生成されるため、プロジェクタやテレビの光源としても利用可能だ。強力な指向性を有するため、ほとんど総ての方向に光を放射する電球よりも効率的であると言えるだろう。長寿命が実現できれば、構造上電球の取り替えがやっかいな場所において、理想的な照明手段となるだろう。大きさの点では発光ダイオード(LED)とほぼ同じだが、LEDよりずっと明るいという利点がある。水銀を一切利用しない点も環境上有利だ。

海外では未だに白熱電球の利用が一般的で、蛍光灯が広く利用されている日本に比べてエネルギー消費量が多い。仮にこうした低効率の照明を、高効率なものに入れ替えることが出来れば、エネルギー消費の削減のみならず、二酸化炭素排出量の削減も可能だ。今のところ、次世代照明としてはLEDが本命視されており、国内外の企業で莫大な人員・資金が投入され研究開発が推進されている。LED照明推進協議会によれば、2010年頃から商業施設においてLED照明の導入が進み、2015年頃には一般家庭でもLED照明への置き換えが進むと予測されている。

ContinuumはLEDのライバルとなり得るのか、どちらにしてもあと10年もすれば身の回りにある照明は今と様変わりしているはずだ。球切れが過去の遺物となる日は来るのだろうか?

*1:蛍光灯の場合は寿命は6,000〜12,000時間となる

*2:いまのところ、永遠の寿命というのは誇大広告だ