身近なところに利用されている相対性理論

LM-72007-07-14


アインシュタイン相対性理論は世界で最も有名な理論の一つだろう。ところが身の回りの世界はニュートン力学で間に合ってしまうことが多く、日常生活で相対論効果を意識することはない。理系ならば大学の一般教養課程で特殊相対性理論一般相対性理論は学ぶことになるが、多くの人にとって「なにやら難しい物理の法則」という理解レベルであると思われる。かくいう筆者も似たようなモノだ。

ところが、日常的に多くの人が利用しているモノの中に一般相対性理論を利用しているモノがある。慣性系における特殊相対性理論だけではなく、それを一般化した一般相対性理論も利用されていると言えば、意外に思う人もいるだろう。

それは一体何かと言えば、GPS(Global Positioning System)だ。昔はカーナビにおける利用が主だったが、最近では携帯電話への搭載が進んでいる。総務省は、今年4月から、携帯電話からの緊急通報で現在位置を通知するため、キャリアにGPSの搭載を促しており、3G携帯電話には原則として搭載が義務づけられている。なぜかDoCoMoの704iは3Gのクセに全機種搭載していないのだが、とにかくGPSが身近な技術であることは確かだ。

GPSの位置測定は、軌道上を周回するGPS衛星から、衛星軌道と衛星に搭載された原子時計の情報を取得することによって行われる。送信時の衛星の時計と受信時の時計から通信にかかった時間を算出、光速度cを乗じることによって衛星との正確な距離を導くことが出来る。3個以上の衛星との距離を取得することにより、地球上の位置を算出することが出来るわけだ。4個以上の衛星との距離が分かれば、さらに高度も知ることが出来る。

このようにGPSにおける位置測定においては、衛星の時計が正確であることが求められる。ところが、衛星は軌道上を秒速4kmを超える速度で移動しているため、特殊相対性理論により地上の時計に比べて相対的に遅れる事になる。さらに、高度2万kmの軌道上は地表に比べて重力の影響が弱いため、一般相対性理論により地上の時計に比べて早く進む。双方の効果を重ね合わせると、GPS衛星に搭載された原子時計は、地上の時計に比べて1日当たり28.6マイクロ秒だけ早く進むことになる

光は28.6マイクロ秒の間におよそ9km進むため、このズレを1日放っておくだけで、GPSに9kmもの誤差が出ることになる。これではGPSが使い物にならなくなるので、相対論の効果を打ち消すべく原子時計の補正が行われている。特殊相対論と一般相対論、両方の理論のおかげで、我々は簡単に自分の位置を知ることができるのである。

世の中は既にアインシュタインの相対論の恩恵無しには回らなくなっているのだ。