いよいよ追い詰められたSED

22日、シャープは「未来の液晶テレビ」に向けた技術を集約した52V型の超薄型液晶テレビ試作機を公開した

同社の液晶技術を結集し、52型で厚み20〜29mm、コントラスト比10万:1、リビングコントラスト3,000:1(200ルクス)、色再現性は NTSC比で約150%、応答速度は4ms。年間消費電力量140kWh/年、重量は25kgで、同社の片山幹雄社長は「現時点で、液晶だけでなくあらゆるディスプレイにおいて、ダントツで一番軽くて、ダントツでエネルギー効率が良くて、ダントツで薄い」とアピールした。

http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070822/sharp.htm

2cmという薄さは驚かされるレベルであるし、年間の消費電力量が140kWh/年というのも賞賛に値する。液晶というデバイスにはまだ改善の余地が残されていることを明確に示したと言えるだろう。2007年4月12日付エントリ『小型薄型テレビはデザインによる差別化の時代へ』において、画質による差別化の時代は終わり、デザインによる差別化が必要な時代となると述べたが、液晶でも2cmまで薄型化が可能という事実は、液晶の競争力を保つ上で大きな助けとなるだろう。有機ELは薄型化が容易なデバイスだが、50インチクラスになると強度の問題から無闇に薄くはできないはずで、2cmなら十分対抗できる気がする。

それよりも問題なのはキヤノンが推進するSEDだ。

SEDに関しては市場投入が遅れるほどメリットが失われるため、その発売を不安に思ってきたのだが、2010年に本当にシャープがこのレベルの液晶テレビを投入し出すと完全に息の根を止められそうだ。

今回のシャープの試作品とSEDの試作品のスペックを比較すると次のようになる。

諸元 シャープ液晶 キヤノンSED
パネルサイズ 52インチ 55インチ
厚み 20〜29mm 数cm程度
コントラスト比 10万対1 5万対1*1
リビングコントラスト 3,000:1(周囲の明るさ200ルクスにおいて) 200:1(周囲の明るさ150ルクスにおいて)
色再現性 NTSC比150% NTSC比94%
応答速度 4ms 1ms以下
年間消費電力 140kWh/年 230kWh/年(36インチの値)*2
重量 25kg 不明

もともとSEDの売りとしていた色再現性や消費電力においてSEDは液晶に完全に遅れを取っていることが分かる。もともと不得意だったリビングコントラストは全く比較にならない。厚みや重量に関しては正確な数値が発表されていないので分からないが、液晶と同等レベルまで軽く薄くすることはなかなか骨が折れるだろう。はっきりSEDが勝っていると言える部分は応答速度ぐらいしか残っていないが、このレベルの差をどれだけの人が気にするかは正直言って疑問である。もちろんここに挙げたSEDのスペックは2006年のCEATECにおける数値であり、今現在は改良が進められている可能性が高い。しかし、SEDは液晶と同レベル程度では世に出せないのだ。既存のディスプレイと比較して誰が見てもすぐ分かる圧倒的性能を実現しないと、とても大規模投資がペイするとは思えない。

今回のシャープの発表がSEDの息の根を完全に止めたとしても筆者は驚かない。少なくとも2010年シャープが本当にこのスペックの液晶テレビを量産することができて、その時点でSEDがまだ出ていなかったとしたら、SEDが家庭用テレビとして将来出ることは無いだろう。

*1:36インチ試作品では10万対1を実現していたが55インチで下がった

*2:36インチ試作品の消費電力130Wで毎日4.5時間利用した場合。55インチの消費電力はこれより大きくなると思われるが不明