予知インタフェース

Engadget経由でNew Scientist Technology Blogより、ブダペスト工科経済大学の2人の研究者Laszlo LauferとBottyan Nemethによる興味深い研究成果が紹介されている。彼らは皮膚抵抗の変化を計測することで、ビデオゲーム中のユーザがボタンを押す2秒前にそれを予知できることを発見したという。

これが反射神経を競うようなゲームであれば、ボタンを押さなければならない事象が起こってからボタンを押すまで2秒もかかっていてはクリアは到底不可能だろう。この研究で2秒前に予知できたということは、ユーザがボタンを押す準備をしてタイミングを計りながら、ボタンを押すことが求められるゲームであり、2秒以上前からユーザの準備期間が存在するゲームであろうことが予測される。

実際利用されたゲームであるJUNGLE SWINGを試してみると、ボタンを押すタイミングだけが重要となるゲームであり、何秒も前からボタンを押すタイミングを計るゲームであることが分かる。こうしたゲームではボタンを押す手に緊張が生まれるのは当然の話であり、ゲームの性格上2秒程度前にそれが予知できたからといって何の不思議もない。単に手の緊張状態を計測しているに過ぎないのだ。

その点、2007年1月3日付エントリ『究極の入力インタフェース』で記載した予知カルーセル (Precognitive carousel)は文句なく予知を実現しているという点で、より魅力的である。実際には時間の因果律を犯しているわけではなく、単に人間の脳の認知メカニズムを先回りしているだけなのだが、ユーザが行動を決定する前にその決定を実行することができる。ボタンを押すことを決めた時には既にボタンは押された状態にあるわけだ。

W. Grey Walterが行った有名な実験に予知カルーセル (Precognitive carousel)と呼ばれるものがある。ここでは運動皮質に電極を埋め込んだ被験者に回転式スライド映写機のスライド投影を見てもらい、次のスライドに進めるためのボタンを与えた。被験者はボタンを押すことで、スライドを次に進めることができた。被験者が驚いたことに、彼らがボタンを押そうかと思ったときに、実際にはまだ決意していないときに、スライドは彼らの思考を先取りして次に進んだのである(もちろんボタンを押す前)。実際には与えられたボタンはダミーであり、スライドは被験者の運動皮質からの電気増幅信号によりコントロールされていたのである。

究極の入力インタフェース - A Successful Failure

こうした脳のタイムマシンとも言える性質は他にも見ることができる。たとえば、工事現場にある電飾は一列に並んだ複数の光がタイミング良く点滅することで明点が線上を移動するように見える。あれは赤一色だが、仮に赤と青の光が並んでいた場合、一つの光が赤→青→赤→青と変化しながら線上を移動するように見える。ある点から次の点まで光は線上を色を変えながら移動するわけで、赤の点から青の点に移動するときには中間地点まで赤の光が移動し、中間地点で青に変わって残りを進むように見える。

ところが実際中間地点を見ているときにはまだ青い光を見てはいないはずなので、その時点で青い光が見えるように思うのは時系列的におかしいことに気づくだろう(どうして脳はその光が青に変わるべきだということを知ったのか?)。実際には脳の認知のメカニズムは、1.赤い光を見る→2.青い光を見る→3.中間フレームを生成する→4. 1-3-2のように補正して認知、というプロセスを経ていることが推測される。人間の脳による認知は必ずしも実際の時系列に沿っているわけではないのだ。

このプロセスを逆手に取ることによって、実際に操作をしなくても操作の結果が得られる一見不思議なインタフェースを実現することができる可能性がある。こうしたインタフェースが登場すると最初は酷くとまどうことになるだろうが、慣れると実際に操作をしないといけなかった旧世代のインタフェースが酷くまどろっこしいモノに思えるかもしれない。